表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

隣の誰か

作者: 央美音
掲載日:2026/02/12

 私には、物心ついた時から隣に誰かがいた。

 家の中でも、外で遊んでいる時でも、祖父母の家でも、友達の家でも、すぐ隣に誰かがいた。

 初めてこの事を母親に話したのは、私が保育園に通っている年の頃だった。

 母親は、ただ笑うだけだった。父親や兄弟にも話したがやはり笑うだけ。家族に笑われるだけなので、友達にまで話す気は無くなっていた。

 どうやら家族は小さい頃の私が、自分の影を隣の誰かと認識していると思っていたらしい。

 馬鹿らしい。

 どうしてそうなる。

 隣の誰かは、光の向きで形や大きさが変わる影なのでは無い。影は影としてちゃんと理解していた。

 私は、家族が影というものを隣の誰かと勘違いするほど、鈍い人間だと思っていたのかと落胆した。

 隣の誰かの大きさは、大人になって身長が伸びた私と違って変わる事はなかった。

 子供の時は大きいと感じていた隣の誰かは、大人になった私よりも少し小さい。

 私が立っていれば同じように立っているし、座っていれば同じ様に座っている。寝ている時も隣で寝ている。

 私が壁際にいる時は、隣の誰かは壁に埋まっている。なのに、何故か私はそれを当然の事だと理解している。 

 隣の誰かは、過去に私が話した事を笑い話として話す家族と共にいる時も私の隣にいるのだ。

 私は、隣の誰かの顔を知らない。

 隣にいるのだから顔をそちらに向ければ隣の誰かは見える。だけど、顔は分からない。

 体格と服装、髪型までは分かる。だが、どうしても顔だけは分からない。

 写真を撮っても私が写っている姿しか撮れない。隣の誰かは写らなかった。 

 これは自分で撮ろうが、他人が撮っても変わらない。

 私は隣の誰かに触った事がない。

 隣にいるのに、腕を伸ばそうが何故が触れない。

 腕が隣の誰かをすり抜ける事も無く、ただ触れないのだ。

 小学三年生の時の話だ。

 この頃、私には授業中ふと隣の誰かを見つめる癖が出来ていた。

 よそ見をするのはやめなさいと先生に注意された事もあったが、中々癖は治らなかった。

 だが、ある時同じクラスの女子数人に囲まれて怒鳴られた事がきっかけになり、意識して隣の誰かを見ない様になった。

 怒鳴られた原因は、隣の席の女子だった。

 私は隣の誰かを見つめているのに、隣の席の女子には私がいつも彼女を見つめていると感じて、強い不快感と恐怖心が限界に来ていたらしい。

 自分の方に顔を向けているのに視線が合わない。 睨みつけた事が何度もあるのにいつもボーッとしているのが怖い。 

 授業中に小声でこっちを見るのはやめてと言っているのに聞いてないなどなど。

 私の癖は、はっきり言って気持ち悪い行動として周りから見られていた。

 私は恥ずかしかった。隣の誰かを見つめていた癖のせいで、大人しめの女子が人を集めて私を怒鳴るほど追い詰められていたと知ったのだ。

 瞬間、大きな声で叫びたくなった。私はただ隣の誰かを見つめていただけなのだと。

 しかし、それをしてはいけないと言う事も分かっていた。

 なので、ただ隣の席の女子に謝った。

 つい癖で横を見てしまう、もう見ない様に気をつけるとひたすら許されるまで謝った。

 それから学校にいる時は、隣の誰かを見つめるのをやめた。時々見そうになるが、目の前の事に意識を集中して見るのを我慢した。

 いつの間にか、私は隣の誰かを見ないと気が済まない様になっていたのだ。

 この時に怒鳴られていなければ、ただの変人としてクラスで浮いた存在になっていたかもしれない。

 ある意味彼女は私の恩人だった。

 中学二年生の時の話だ。

 この頃、私は隣の誰かを意識する事は無くなっていた。もっぱら友情と恋に盛り上がっていたからだ。

 運動部に所属していた私は、それなりに上手く立ち回っていた。

 ある時、とある女子から私が幽霊に取り憑かれていると騒がれた。

 思春期だった私達の中で、霊感があると噂があった女子だった。

 彼女の言葉を信じていた生徒は結構いた。

 馬鹿らしいと彼女を蔑む生徒もいた。

 そんな彼女に私は名指しで幽霊に取り憑かれた生徒として騒がれた。

 彼女の霊視では私の後ろには大男がいて、私に覆い被さっているそうだ。  

 私は鼻で笑った。

 彼女が本当に霊感があるのなら、隣の誰かが見えていないとおかしい。

 隣の誰かは私以外に見えてはいないが、見える人はきっとどこかにいると私は信じていた。

 なので、最初は彼女が隣の誰かを霊視したのかと思っていた。

 違った。

 単純に、私を使って自分を特別な能力を持つ人間として周りから称賛されたいと思っての行動だったのだろう。

 私は一気に彼女への興味をなくした。

 私以外にも、幽霊だけでは無く生き霊や動物霊に取り憑かれていると騒がれた生徒がいた。

 私を含めて騒ぎに反応しなかったのが殆どだったが、彼女を信じた生徒もいた。 

 除霊と称して金品を要求するまでは、確かに彼女は一部の生徒から称賛されていた。

 除霊のお礼としてお菓子やら子供向けのアクセサリーを貰い続けたせいで、彼女を狂わせたのだろう。

 親に直接除霊代が欲しいと告げた生徒が出た事で、彼女は詐欺行為をしていたと大変な騒ぎになった。

 彼女と関わっていた生徒の中には、彼女を利用して恐喝まがいの事をしていた者までいた。

 学校は結構な期間荒れた。

 私が卒業した時、彼女が学校にいたかは覚えていない。

 大学三年生の時の話だ。

 私が、隣の誰かを再び意識し出したのはこの頃からだった。

 飲み会で酒に酔った私は、同じく酒に酔った友人に隣の誰かの話をした。

 そうしたら、友人はそれは幻覚なのでは無いのかと言い出した。

 私は笑い飛ばした。

 だが、友人は酔っているはずなのに、妙に真剣な顔をして私に診断を受けるように勧めてくる。

 どうも友人の身内に、長年幻覚を見ていたせいで生活に支障をきたした人がいたらしい。

 治療の甲斐あって幻覚を見る頻度が下がり、普通の生活が送れる様になりつつあるそうだ。

 私は疑問に思って、幻覚とは必ず隣に誰かがいる様に見えるのかと聞いた。 

 友人は、幻覚は人それぞれだろうと答えた。

 今も私の隣に座っている誰かを、幻覚だとは思えなかった。

 友人の身内の様に、生活に支障をきたしてないし、幻覚だとして診断を受けて治療する気は起きなかった。就職活動に影響が出ないか心配だった。

 とりあえず隣の誰かの話は止めにして、友人とは酒を飲みつつたわいの無い話をした。

 それからしばらく経ったある日、友人に青い顔で今も幻覚を見ているのかと聞かれた。

 どうやら、久しぶりの酒に酔っていたせいで昔の癖が出ていたらしく、友人が話しかけているのに、私はそれを無視して隣の誰かを見つめていた様だ。

 学業と就職活動で、私と友人も忙しい生活を送っていた。

 久々の飲み会で話も弾んでいたのに、私が急に横を向いて何かをじっと見つめているのに友人は気づいて必死に私に話しかけていたそうだ。

 流石の私も危機感を持った。

 今は本当に大事な時期だ。隣の誰かを見つめる癖は、同時に昔感じたあの恥ずかしさを思い出させる。

 少しでも癖を抑えるために、病院に相談するのも手かもしれないと思い始めた。 

 病院に行った結果、私は幻覚など見ていないと言う診断が出た。

 意味が分からなかった。

 隣の誰かは幻覚では無い。 

 なら隣の誰かは何なのだ。

 今も私の隣にいる。

 結局、私の癖は自力で治すしか無いと言われた。

 友人に診断結果を伝えると、何故か笑われた。安心したら堪えられなかったと笑いながら謝られた。

 笑う友人を見て、私も釣られて笑ってしまった。

 いい年になった私の隣には、相変わらず誰かがいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ