すれちがう優しさ
昼休みが近づく頃、
教室の空気は少しずつ緩んでいった。
まほは心々たちと話しながら、
ちらりと蒼井のほうを見た。
(……さっき、校内案内のとき
わたしのほう見てた気がしたけど)
気のせいかもしれない。
でも、胸の奥が少しだけざわつく。
心々がまほの肩をつつく。
「ねえねえ、まほちゃん。
今日、蒼井くんとちょっと距離近かったよね?」
「えっ……そ、そんな……!」
沙耶が微笑む。
「でも、自然だったよ」
玲も静かに言う。
「違和感なかった」
まほは耳まで赤くなる。
(……そんなこと、ないのに)
でも、
胸の奥がほんの少しだけ温かくなる。
昼休みのチャイムが鳴ると、
心々が勢いよく立ち上がった。
「まほちゃん! 一緒に食べよ!」
「う、うん……!」
沙耶と玲も自然に集まり、
四人で机を寄せる。
その様子を、
蒼井は横目で見ていた。
(……楽しそうだな)
胸の奥が少しだけ落ち着く。
でも同時に、
近づけない距離を感じてしまう。
(……俺が入ったら、邪魔だよな)
そう思って、
自分の机で静かに弁当を開いた。
昼休みが終わり、
午後の授業が始まる。
まほはノートを取ろうとして、
ペンを落としてしまった。
「……あっ」
転がったペンは、
まほの席の下を通り抜けて
蒼井の足元まで転がっていく。
蒼井はすぐに気づき、
しゃがんで拾い上げた。
まほが慌てて手を伸ばす。
「す、すみません……!」
蒼井は少し驚いたように目を瞬かせた。
「……別に。落ちただけだし」
その言い方はそっけなく聞こえる。
でも、手渡す仕草はとても丁寧だった。
まほは受け取りながら、
胸がどきどきしていた。
(……優しいのに、なんでこんなに不器用なんだろう)
蒼井は、
まほがペンを受け取ったのを確認すると
すぐに前を向いた。
(……なんで謝るんだよ)
心の中で小さくつぶやく。
(俺、怒ってないのに)
でも、その言葉は
まほには届かない。
放課後が近づく頃、
まほは勇気を出して
蒼井に話しかけようとした。
(……今日こそ、少しだけでも)
心臓がどきどきする。
手のひらが汗ばむ。
まほは、
蒼井の席のほうへ
そっと歩き出した。
蒼井は、
まほが近づいてくるのに気づいた。
(……話しかけてくれるのか)
胸が少しだけ高鳴る。
でも――
「蒼井ー! ちょっといい?」
別の男子が蒼井を呼んだ。
蒼井は一瞬だけ迷ったが、
呼ばれた方向へ向かってしまう。
まほは立ち止まった。
(……また、タイミング逃しちゃった)
胸の奥が少しだけ痛くなる。
蒼井も、
まほが立ち止まったのを
背中越しに感じていた。
(……ごめん)
言葉にはできないまま、
すれ違いだけが積み重なっていく。
帰り支度をしながら、
まほは窓の外を見つめた。
(……話したかったな)
ほんの少しの勇気が、
また空振りに終わってしまった。
でも、
その横顔を蒼井は見ていた。
(……話したいのに)
言葉が出ない。
距離が縮まらない。
だけど――
胸の奥に芽生えた感情だけは、
確かに少しずつ大きくなっていた。




