校内案内
「じゃあ、班ごとにまとまって校内を回るぞー。迷子になるなよー」
担任の声が響き、教室がざわつき始めた。
まほは心々に手を引かれ、沙耶と玲も自然に合流する。
四人の小さな輪ができあがった。
(……蒼井くんは、どうするんだろう)
ちらりと隣を見ると、蒼井は立ち上がりかけて、
まほたちのグループを一瞬だけ見た。
ほんの一瞬。
でも、迷っているように見えた。
声をかけたい。
でも、かけられない。
その迷いが、まほの胸に小さなざわめきを残す。
「まほちゃん、行こ!」
心々が明るく腕を引く。
「う、うん……!」
まほは引かれるままに歩き出した。
蒼井は、伸ばしかけた手をそっと下ろす。
(……タイミング、逃した)
小さく息をつき、別の班に混ざるように歩き出した。
廊下に出ると、
新しい学校の匂いと、まだ慣れないざわめきが広がっていた。
心々がはしゃぎながら案内板を指さす。
「見て見て〜! 図書室めっちゃ広いんだって!」
沙耶が微笑む。
「まほちゃん、本好きそうだよね」
玲が静かに頷く。
「落ち着いた場所、似合う」
「えっ……そ、そんな……」
まほは照れながらも、胸の奥が温かくなる。
(……友達って、こんなに優しいんだ)
階段を降りるとき、
まほは少し足をもつれさせた。
「わっ……!」
心々が慌てて支える。
「まほちゃん大丈夫!?」
「う、うん……ありがとう……」
その少し後ろで、
別の班にいた蒼井が、
まほのほうを一瞬だけ振り返った。
ほんの一瞬。
でも、心配そうな目だった。
まほは気づかない。
蒼井はすぐに視線をそらし、
自分の班の後ろに静かに戻った。
(……危なかった)
胸の奥がざわつく。
声をかけたいのに、言葉が出ない。
校庭に出ると、
陽キャグループの笑い声が響いていた。
「陽向ー! こっちこっち!」
明るい声が飛ぶ。
まほはその名前に反応して、
声のしたほうを見た。
(……陽向ちゃんって、あの子なんだ)
遠くで笑っているだけで、
こちらに来る気配はない。
蒼井もその声に気づいたのか、
一瞬だけそちらを見た。
でも、すぐに視線を落とす。
(……知り合いなのかな)
まほはそう思ったけれど、
深く考えることはなかった。
案内が終わる頃、
まほは少しだけ勇気を出して、
蒼井のほうを見た。
(……話しかけられたらいいのに)
蒼井も、まほのほうを見た。
(……話しかけたい)
でも、二人の視線は
ほんの少しずれたまま交わらない。
すれ違いは、まだ続いていた。
だけど――
その距離は、ほんの少しだけ近づいていた。




