自己紹介!
担任が教室に入ってきた瞬間、ざわついていた空気がすっと静まった。
「よし、まずは自己紹介からいこうか。前の席から順番にな」
その言葉に、教室のあちこちで小さな息が漏れる。
緊張、期待、不安。
いろんな気配が混ざり合っていた。
まほも胸の前でそっと手を握りしめる。
(……うまく言えるかな)
心々が隣でひそひそ声を出す。
「まほちゃん、大丈夫だよ〜。心々が応援してる!」
「う、うん……ありがとう……」
沙耶が微笑む。
「落ち着いて話せば大丈夫。誰も怒らないから」
玲も軽く頷く。
「順番来たら、名前言うだけでいいよ」
三人の言葉が、まほの緊張を少しずつ溶かしていく。
前の席から順に自己紹介が始まった。
明るい声、落ち着いた声、緊張で震える声。
いろんな“はじめまして”が教室に積み重なっていく。
後ろのほうでは、陽キャのグループが楽しそうに笑いながら順番を待っていた。
中心にいる子は、堂々とした声で自己紹介をして、
クラスの空気を一気に明るくする。
(……すごいなぁ)
まほは思わず見とれてしまう。
でも、その子はまほたちのほうを見ることはなかった。
そして、まほの番が来た。
「つ、次……希望守まほさん」
「は、はいっ……!」
立ち上がると、足が少し震えた。
でも、心々たちがそっと視線で励ましてくれている。
「き、希望守まほです……よ、よろしくお願いします……」
声は小さかったけれど、ちゃんと届いた。
クラスのあちこちから「よろしくー」と返ってくる。
まほはほっと息をついて席に戻った。
「まほちゃん、よかったよ〜!」
「うん、落ち着いてた」
「かわいかったよ」
心々、沙耶、玲が次々に声をかけてくれる。
胸の奥がじんわり温かくなった。
そして、蒼井の番が来た。
「次、蒼井くん」
蒼井は立ち上がり、短く言った。
「……蒼井です。よろしく」
それだけ。
でも、声はしっかりしていて、無駄がなかった。
(……かっこいいな)
まほは思わずそう思ってしまい、慌てて視線をそらした。
蒼井は席に戻ると、ほんの一瞬だけまほのほうを見た。
けれど、まほが気づく前に視線を落とす。
ほんの少しのすれちがい。
自己紹介が終わると、担任が言った。
「よし、今日は軽くオリエンテーションして終わりだ。
隣同士でプリント配るから、協力してな」
その言葉に、まほの心臓がまた跳ねる。
(……隣って、蒼井くん……)
蒼井も少しだけ固まっていた。
二人の距離は近いのに、
心はまだ遠回りしている。
でも、この小さな“協力”が、
次のすれちがいの始まりになることを、
まほはまだ知らなかった。




