はじめてのともだち
担任がまだ来ない教室は、ざわざわとした空気に包まれていた。
まほは机の端をそっと指でなぞりながら、隣の席の少年――さっき廊下ですれ違った彼――に声をかけるべきか迷っていた。
(……何を話せばいいんだろう)
話したい気持ちはあるのに、言葉が喉の奥で固まってしまう。
そんなとき。
「ねえねえ、隣いい?」
ぱっと明るい声がして、まほの机の前にひょいっと顔を出した子がいた。
弾けるような笑顔。
その子は迷いなくまほの席に身を乗り出してくる。
「わたし、天真心々(てんまこころ)! よろしくねっ」
勢いに押されて、まほは思わず背筋を伸ばした。
「き、希望守まほです……よろしくお願いします……」
「まほちゃん! かわいい〜!」
心々は本当に嬉しそうに笑う。
その明るさに、まほの緊張が少しだけほどけた。
「心々、また初対面で距離近いよ」
柔らかい声がして、心々の後ろからもう一人の女の子が現れた。
落ち着いた雰囲気で、まほに向けて穏やかに微笑む。
「ごめんね、びっくりしたよね。わたしは白椿沙耶。よろしく」
「れいもいるよー」
さらに後ろから、涼しげな声がして、
薄氷玲がひょこっと顔を出した。
「薄氷玲。よろしくね、まほちゃん」
まほは驚きながらも、胸の奥がじんわり温かくなる。
「よ、よろしくお願いします……!」
心々・沙耶・玲。
三人とも雰囲気は違うのに、自然とまとまっていて、
まほはその輪にそっと迎え入れられたような気がした。
心々がくるっと振り返る。
「ねえねえ、まほちゃんの隣の子は?」
突然話を振られ、少年――蒼井が少しだけ目を丸くした。
「……俺? ああ……蒼井。よろしく」
短く、それだけ。
でも心々は気にした様子もなく笑う。
「蒼井くんね! よろしく〜!」
沙耶と玲も軽く会釈する。
「よろしくね、蒼井くん」
「よろしく」
蒼井は少しだけ視線をそらしながら、
「……ああ」
と返した。
その横顔を見て、まほは胸がざわつく。
(……なんでだろう。さっきより、話しづらそうに見える)
心々の明るさに押されているのか、
沙耶や玲の落ち着いた雰囲気にどう返せばいいか迷っているのか、
それとも――
まほが考えていると、
教室の後ろのほうで、別のグループが楽しそうに笑っているのが見えた。
明るくて、積極的で、中心にいるタイプの子。
周りに人が集まっていて、声もよく通る。
(……あの子、すごく人気なんだな)
まほは少し気になったけれど、
その子はまほたちの輪に入る気配はない。
蒼井のほうを見ることもなく、
自分のグループの中心で楽しそうに話していた。
そのとき、教室の扉が開く。
「はーい、席ついてー。自己紹介から始めるぞー」
担任の声が響き、教室の空気が一気に引き締まった。
まほは深呼吸をひとつ。
“はじめての友達”と“はじめてのクラス”が、
ゆっくりと動き出していく。




