最初のすれちがい
春の光が差し込む廊下は少し冷たかった。
新学期のざわめきが遠くで響いているのに、ここだけ時間がゆっくり流れているように感じる。
まほは胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
初めての魔法学園。初めてのクラス。初めての友達。
全部が初めてで、全部が少し怖い。
曲がり角の向こうから、誰かの足音が近づいてくる。
まほは反射的に壁際へ寄った。
ぶつからないように、迷惑をかけないように。
小さいころからの癖だった。
その瞬間、過度の向こうから現れた少年も、同じように一歩引いた。
「......あ、ごめん」
低くて落ち着いた声。
けれど、どこかぎこちない。
まほは慌てて首を振る。
「い、いえっ.....! 私の方こそ......!」
二人の視線が一瞬だけ重なる。
けれど、まほはすぐに目をそらしてしまった。
恥ずかしさと緊張で、胸がギュッと縮む。
少年は少し困ったように笑った。
その笑顔は優しいのに、どこか不器用で、触れたら壊れてしまいそうだった。
「......じゃあ」
短くそう言って、少年は歩き出す。
まほも反対方向へ歩き出す。
ほんの数秒の出来事。
言葉も、名前も、なにもしらない。
ただすれ違っただけ。
でも、まほは気づかなかった。
あの少年――蒼井は、
曲がり角を過ぎたあと、そっと振り返っていたことに。
そして蒼井も気づかなかった。
まほが、胸に手を当てて小さく息を整えていたことに。
二人の“最初のすれちがい”は、
本当に、ただそれだけのことだった。
けれど、この小さなすれちがいが、
やがて大きな物語の始まりになることを、
まだ誰も知らない。




