53.転属
第三小隊の巡回は安定していた。反応を拾い、報告し、必要があれば撃つ。ラウルの配置判断に合わせて動き、ロウソンと近距離と遠距離を分担する。マーカスの地形読みと自分の索敵を重ねて、次の経路を提案する。全部が、いつも通りに回っていた。
非番の日は射場で自主練をした。雷の出力調整と、火の範囲制御。それから医務室に行って、アメリアの後任に手順を確認した。後任の少尉は、アメリアほどは喋らなかったが真面目だった。
工兵班との連携確認にも行った。ギャレットの班は補修作業のスケジュールが変わっていて、次の巡回で合流する時の段取りを詰めた。ギャレットは相変わらず淡々としていた。
全部、きちんと回っていた。危うさがない。半年前なら毎日何かを覚えていたが、今は覚えることより確認することの方が多い。
射場で自主練をしていたら、隣の射線にライオットがいた。
久しぶりだった。中隊が違うと、意識しないとすれ違いもしない。ライオットは火魔法を的に叩き込んでいた。相変わらず出力が大きい。
リュシアが片づけていると、ライオットが声をかけてきた。
「大戦果だってな。聞いたぞ。大型を抜いたって」
「工兵班が転倒させてくれたので。角度が開いただけです」
「それでも抜いたのはお前だろう」
ライオットは腕を組んだ。
「俺の方はあの日、南東の正面で小型をひたすら削ってた。派手な仕事はなかったが、線は維持した」
「それが一番大事だと思います」
「……お前にそう言われると、嫌味に聞こえないから困る」
ライオットは少し笑った。
「まあ、お互い生きてるからな。それでいい」
「はい」
ライオットは自分の射線に戻った。リュシアはその背中を見て、少しだけ考えた。同期がいるというのは、こういうことなのかもしれない。何を言わなくても、同じ場所にいたことが共有されている。
翌朝の巡回後、報告を終えた時、アデルが言った。
「残れ。話がある」
ラウルが出ていくのを待ってから、アデルは机の書類を脇に寄せた。
「お前に北方へ異動の話が出ている」
リュシアは黙って聞いた。
「北方軍から引きが来た。配属先の詳細はまだだが、前線の魔法騎士枠だ」
アデルはリュシアを見た。
「断れる話ではないし、お前にとってもいい話だ」
「了解です」
即答だった。アデルが何か言い足すかと思ったが、何もなかった。
「時期は来月の頭。引き継ぎの段取りはラウルと詰めろ。以上だ」
「はい」
敬礼して部屋を出た。
廊下を歩いた。十歩ほど進んだところで、足が止まった。
北方。転属。来月。
ここを離れる。
エリカと部屋で話したこと。射場でライオットと並んだこと。ギャレットの班と段取りを詰めたこと。ラウルの配置判断に合わせて動くこと。ロウソンの風と自分の雷で一つの仕事にすること。隊長の指示で迷わず動けること。
全部が、来月にはなくなる。
廊下には誰もいなかった。リュシアは立ち止まり、しばらくそこに立っていた。




