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48.後輩

リーナ失敗回


了解です。相手を問わず常に敬語。全体を修正して出し直します。


第二十五話 先輩

 夜の点呼が終わって一時間ほどが過ぎた頃、ドアを叩く音がした。

 リュシアが開けると、廊下にリーナ・カーターが立っていた。制服のままで、ブーツの紐だけがゆるんでいる。


「あの、少し、いいですか」


 小さな声だった。肩を落とした姿もいつもより小さく見える。


「入ってください」


 リュシアは扉を開けたまま自分の机に戻った。エリカは寝台で本を読んでいたが、リーナが入るのを見ると黙って本を閉じ、枕を抱えて背を向けた。気を遣っているのか、単に眠いのか、リュシアには判断できなかった。

 リーナは椅子を勧める前に床に立ったまま話し始めた。


「今日、任務で失敗しました」


「内容を言ってください」


 リュシアは羽ペンを置いた。


「指示を待つべき局面で、待てなくて撃ちました。当たりはしたんですが、仕留めきれなくて——魔獣が散りました。前線兵の方が、想定していない方向をカバーすることになって」


「怪我人は」


「一人。前線兵の方が、無理な体勢で受けて腕を。軽傷だと聞いていますが」


「名前は」


「……わかりません」


 リュシアは一拍置いた。


「わからない、というのは聞いていないということですか」


「はい」


「確認してください。怪我をした人の名前と程度は、自分で把握しておくべきです」


 リーナが少し顔を強張らせた。リュシアはそれに構わず続けた。


「指示系統はどうでしたか。待てと言われていましたか」


「……明確には言われていなかったです。でも、状況から待つべきだとはわかっていました」


「わかっていて撃った理由は」


「いつも、私は形を作ってもらった後で最後に撃つだけで、皆危険なところを引き受けてくれてるのに……だから、早く役に立たなきゃって」


「あなたが撃ったことで、前線兵が想定外の方向を埋めて怪我をしました」


 リーナの肩が小さく跳ねた。

 リュシアは自分がきついことを言っている自覚がなかった。事実を確認しているだけだった。前線兵は、リーナが守られていることを不満に思っていたのではない。配置通りに前を張っていただけだ。そこにリーナの判断で穴が開いて、その穴を埋めるために一人が無理をした。


「私は一年目に、護衛任務中指示を待たずに越境して、単独で魔獣を掃討したことがあります」


 リーナが顔を上げた。


「戦闘自体は成功しました。ですが上官が監督不行届きで処分を受けました。私も叱責と数週間の前線停止になりました」


「それは……」


「私の場合は、自分が正しいと思って動きました。あなたは焦りで動いた。動機は違います。でも、自分の判断で隊の形を崩して、他の人間に負担が行ったという点は同じです」


 リーナは黙って聞いていた。


「確認したいのは二点です。一つ目、怪我をした前線兵に状況の確認をしてください。その人が何を見て、どう動いたかを聞いてください。あなたが撃った時に何が起きたのか、あなたの側からは見えていなかったはずです」


 リーナがうなずいた。


「二つ目。小隊長の言葉はそのまま受け取ってください」


「はい」


「私は非番に射場へ行きます」


「はい」


「小隊長の許可が出るなら、同席して出力と判断のタイミングだけを確認します。撃ち方の問題ではなく、撃つかどうかの判断の問題なので、射場でできることは限られますが」


 リーナはしばらく立ったまま動かなかった。それから小さく頭を下げた。


「ありがとうございます」






 三日後、リュシアの巡回班は北東の尾根筋を担当していた。ロウソンと前線兵二名、マーカスが斥候として先行している。

 雨は上がっていたが、地面がまだ湿っていた。足音が吸われる。リュシアは索敵の範囲を少し広げながら歩いた。中型一体が二百メートル先に動いているのは把握している。直進型。速度は遅い。

 問題は別にある気がした。

 ロウソンが立ち止まった。


「左、二十。伏せてる」


 リュシアが索敵を絞った。岩の陰に、小型が三体。核の位置は把握した。だが地形が悪い。正面から撃つと中型への視線が切れる。

 ロウソンが一歩右に出た。風が岩の裏側に回り込んだ。小型の一体が半歩動いた——核が、ほんの一瞬、隙間から見えた。

 リュシアはそこに雷を通した。

 核が砕けた。残り二体が乱れた動きを見せ始めたところで前線兵二名が前に出た。リュシアは中型に視線を戻し、二百メートルの距離を詰めずに置き撃ちした。核の位置は最初から見えていた。対象が直進型なら、あとは交差点の計算だけだ。

 雷が落ちた。中型がその場に崩れた。

 前線兵が仕上げに入った。マーカスが周囲の確認をしている。リュシアは索敵を広げて後続がいないことを確かめた。

 全部で四分かかっていなかった。


 帰投の道で珍しくロウソンが隣に並んだ。


「俺の風では核は壊せない」


 ロウソンが言った。


「お前の雷では角度は変えられない」


 リュシアは黙って続きを待った。


「一人だと抜ける穴も、二人いれば減る」


 それだけだった。ロウソンはそれ以上しゃべらなかった。

 風は押し返す、崩す、止めるのが得意だ。確かに今日の補助は崩すだった。一体分の位置をほんの少しずらして、核が見える瞬間を作った。それだけで局面が変わった。

 決め手はリュシアが撃った。だがロウソンが先に穴を見つけなければもっと時間がかかっていた。





 夜、リュシアはノートを開いた。

 リーナの失敗と自分の失敗は、形が違うが似ている。

 与えられた役割を果たせず、他の人間に負担を押し付けた。

 今日のロウソンの言葉を思い出す。

 自分の役割を果たす。足りないところは他の人間が補う。それで一つの仕事になる。


 自分が見えていないところを、別の人間に拾ってもらう。今まで何度もそうしてもらってきた。

 リーナに何を渡せるかは、まだよくわからない。

 ただ、許可が出たら射場に行く。それで十分だと思った。

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