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14.魔法授業初回

 訓練場の床には白線が引かれ、等間隔に丸い台座が並んでいた。台座の脇に札が立っている。数字と、短い注意書き。


 教官は、まず言葉で場を締めた。


「魔法は強さを見ない。派手さもいらん。見るのは四つだ。安全、再現性、温存、連携。ひとつでも欠けたら前線では死ぬ。――特に温存だ。枯渇した瞬間、お前らは荷物になる」


 ざわり、と空気が動く。前半は体力と規律の訓練だった。後半は、魔法を仕事として扱う訓練になる。


「今日は自分の容量を測る。自分の残量が分からない奴は、撃つな。分からないなら止まれ。止まれない奴は、撃つ資格がない」


 台座は測定器だった。触れると目盛りが立ち上がる。火も雷も出ない。ただ、流した分だけ数字が動く。


「やることは簡単だ。規定値まで流して止める。それを繰り返す。――急ぐな。速いほど危ない」


 順番が回る。最初は、誰もが慎重だ。怖いのは、派手な事故より間違いを犯すことだ。


 カリナが台座に触れた。目盛りが上がる。上がり方に勢いがある。


「……止めろ。そこだ」


 教官の声で、カリナは力を引いた。目盛りは規定値の少し上で止まる。


「悪くない。だが次は揃えろ。上振れは事故と同じだ」


「……はい」


 悔しさは飲む。火力に自信があるほど、抑える方が難しい。


 次はライオットだった。触れた瞬間、目盛りが伸びる。伸びるが、乱れない。大きい。周囲が無意識に息を止める。


「ほう」


 教官が短く声を漏らす。賞賛ではない。ただ、事実確認だ。


「お前は容量がある。――だからこそ、枯渇するな」


 ライオットは頷いた。自分は強い。そう思っていた。少なくともこの場では、そうであっていいと。


 そしてリュシアの番が来た。


 リュシアは台座の前に立ち、手を置く。動きに迷いがない。

 目盛りが上がる。静かに、しかし、どこまでも伸びる。


 途中で、周囲の誰かが小さく息を呑んだ。

 伸び方が違う。量だけではない。揺れない。跳ねない。規定値で寸分違わず止まる。次も同じ。さらに次も同じ。


「……自分の残量、把握しているか」


 教官が問う。


「はい。今、全体の——」


 リュシアは一拍だけ置いた。数字を言っても意味がないと判断した顔だった。


「規定値で回すなら、三十五回は安定して出せます。三十二回で止めれば、走っても手が震えません。三十回なら、その後の模擬も支障ありません」


 言い方が淡々としていて、余計に現実味があった。

 “できる・できない”ではなく、“運用”として語っている。


 ライオットの喉が鳴った。乾いた音だ。

 自分の量は大きい。だが、ここまでの“把握”はない。自分は、出して、疲れて、ようやく気づく側だ。


 戻ってきたリュシアがカリナの隣に座る。

 カリナの表情は固い。

 休暇前まで、リュシアは生活が壊滅していた。みんなで世話をした。怒られた。笑った。――それで均衡が取れていた。


 なのに、魔法の土俵に上がった瞬間、話が変わる。


 カリナは、そこで飲み込まなかった。飲み込むと後に残ると知っている顔だった。


「……お前さ」


 声が強い。だが、刺す方向は選んでいる。


「できるなら、そう言えよ。こっちは散々お前の世話してたんだぞ。私がバカみたいじゃねえか」


 場が一瞬だけ止まる。

 怒りではない。自分の中の複雑さを、言葉にして処理するための音だった。


 リュシアは目を瞬いた。意味は分かる。けれど、謝るべき点がどこかは、すぐには掴めない。


「……すみません」


 丁寧に言ったが、言葉が軽い。軽くなってしまう。

 リュシアにとって、魔法ができるのは最低ラインで、特別な報告事項ではなかった。


 カリナは鼻で息を吐いた。笑いではない。区切りだ。


「まあいい。ムカついたけど、今言ったから終わり。お前のせいで班が崩れるのはもっとムカつく」


「はい」


 その返事は早い。命令の形なら、リュシアは動ける。


 教官が短く手を叩いた。


「よし。今日からが本番だ。量がある奴ほど事故る。できる奴ほど周りが止まる。止まったら連携は死ぬ。――今日はここまで。自分の“止めどころ”を紙に書いて持って来い」


 列が解けていく。

 リュシアは台座から手を離し、指先を見た。魔力は、まだ余っている。余っているのに、空気の方が重い。


 ライオットは横目でリュシアを見た。

 愕然は、怒りよりも静かに残る。


 ――こいつ、最初から別の場所に立っていた。


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