038 鬼畜の所業だ!!
申し訳なさそうに目を伏せる美玲ちゃん。
でも、その後に起こした行動にぼくは目を疑ってしまった。
あろうことか、おにぎりを欲しがるやせ細ったひとの目の前で、拾ったおにぎりをモグモグと食べ始めたんだ。
「やめなよ、ばっちい! それに、このひとの前でがつがつ食べるなんて可哀想だよ!」
「だって、もったいないじゃない……」
なっ……?!
なんて残酷なんでしょう!!
空いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
我がご主人ながら、信じきれない鬼畜の所業だ!!
ぼくは見ていられなくなって、文字通り目を背けようとした、その瞬間ーー。
美玲ちゃんはやせ細ったひとの顔を両手で持って、その小さな口にキスをしたんだ!
まるでしぼんだ浮き輪に空気を入れるように、何でもない感じでキスを続けている。
いや違う……。
あれは口移しで食べさせているんだ。
小さい口で満足に食べられないひとに、あえて自分が噛んで柔らかくしたおにぎりを流し込んでいるんだ。
「信じられねぇぜ。そこまですんのか、お前の姉ちゃんは……」
いつのまにかジョーが後ろに立っていた。
口ではあんな風に言ってたけど、心配して見に来たのだろう。
やせ細ったひとの目があったであろう真っ黒な穴から、次々と涙があふれ出る。
まるで乾いた大地に雨が降ったように、やせ細って皮と骨だけになったその身体に生気が戻っていく。
「おい見ろ、なんだありゃ……」
ジョーに言われるまでもなく、ぼくもその姿を見つめていた。
やせ細ったひとの身体に、光が帯び始めたんだ。
ようやく目を開けた美玲ちゃんは、その姿に驚いて両手と口を離した。
やせ細ったそのひとは、全身が輝く光のひとになっていた。
光のひとが手を伸ばし、美玲ちゃんに何かを手渡す。
そして何か言葉を交わしたあと、目にも留まらぬ速さで天に舞い上がって消えた。
圧倒されて、天を見上げるぼくたち。
やがてそれは明かりのつかない蛍光灯がぶら下がる見慣れた天井に変わり、いつのまにか4階は、木箱が転がる夜の物置に変わっていた。
「キラキラの人と、何を話してたの?」
いまだ天井を見上げている美玲ちゃんに、ぼくはたずねた。
心配そうに天井を見つめながら、ぽつりとこたえる。
「おにぎり、美味しかったって……」
「銀シャリの握り飯が食えるなんてよぅ、あのときのおれらにとっちゃあ夢みたいなんだぜ……」
ジョーがキャスケット帽を目深にかぶり直して、独り言のようにつぶやいた。
「……あとこれ、もらったよ」
美玲ちゃんが手に持った何かをぼくらに見せた。
その手に握られていたのは、『餓鬼階』と書かれた小さなプレートだった。




