012 ……怖いわよ
新月ってのは満月の反対。
つまり新月の夜とは、月明かりがまったくない夜のことだよ。
豊海町のミクドマイルドから豊海ふ頭総合公園までは、歩いて二十分くらい。
ぼくが本気で走れば、十分程度で着くけどね。
「夜の公園って、けっこう暗いのね……」
豊海ふ頭総合公園は、外周1.5キロの遊歩道がある。
その外側は木立に囲まれていて、内側は所々に木が植えられているだけのただっ広い芝生だ。
ランニングしている人やベンチに座っている人は街路灯で照らされているけど、それ以外の場所は暗くてあまりよく見えない。
「どこなの? そのビルがあるって空き地」
「昼間に下見に来たときは、すぐわかったんやけど、たぶんあっちの奥の方やな……」
チャーシューが遊歩道を外れて、木立のなかへ入っていく。
美玲ちゃんが後ろを歩くぼくをちらちら見ながら何か言いたげにしていたので、その頭に飛び乗って聞いてみた。
「……美玲ちゃん、もしかして怖いの?」
「……怖いわよ。もし暗闇の中でチャーシューが襲いかかってきたら、ミッケ助けてよ」
いや、それはないと思うなぁ……。
でも人間よりもネコのぼくは夜目が効くので、何かあったら何とかしよう!
……と、美玲ちゃんの頭の上で何となく覚悟を決めた。
木立の奥はさらに暗くて、ほとんど何も見えなくなった。
土のうえを歩く、チャーシューの微かな足音だけを頼りについていく。
「せやっ!」
「きゃぁっ!! 何なに? なにいまの声?!」
美玲ちゃんがすばやく辺りを見渡したので、頭の上にいたぼくは地面に振り落とされてしまった。
「……痛いなぁ。チャーシューがいきなり叫んだんだよ。五メートルくらい先にいるよ」
ネコのぼくには見える。
雪だるまみたいな人影が、しゃがんで何かごそごそしているのが。
「どしたの? チャーシュー大丈夫?!」
美玲ちゃんが前方に向かって声をかけると、カチっと音がして、暗闇の中にオレンジ色に照らされた不気味な笑顔が浮かび上がった。
「……わい、持ってきてたんや。充電式のランタン」
「おどかすんじゃないわよ、この焼き豚がっ!!」
ぼくのご主人様はデリカシーをどっかに落としちゃったみたい。
ちょっと言い過ぎだよ。……と、美玲ちゃんをたしなめようとしたとき。
「チャーシュー、うしろ……うしろ……」
美玲ちゃんが怯えたような目で、チャーシューの背後を指差した。
その視線を追うようにチャーシューが後ろを振り返る。
そして呆然と見上げまま、立ち尽くした。
チャーシューのすぐ背後に、木々に取り囲まれた黒いビルがあらわれたのだ。
「……これや、これやで。ついに見つけた、六道ビル!」
「……六道ビル?」




