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【第三十五話】導きの獣と少女のお話

【前回のあらすじ】

あの不思議な夜の出来事が、夢ではなかったと知ったみくるは、皆に一部始終を説明。森の奥で目にした不審な二人組に、警戒感を露わにするパーティー。そして名無しであった白い獣は、ダイフクと命名された。その後は各自、部屋で休む事に。みくるは創と共に今後のバグ発生を懸念しつつも、ひとまず明後日のセレフィア湖行きに備え、眠りにつくのであった。

 次の日の朝。珍しく早起きしたあたしは、ミレクシアの図書館にいた。


「ん~……これにも載ってない……なぁ」

 ぺらぺらとめくって流し読みしていた本を閉じて、本棚に仕舞う。

「宝石と魔法ってタイトルだったし、あると思ったんだけどな」


 あたしが探しているのは、フェリスライトの守護聖獣に関する本だった。クローヴィスさんの話してたことが気になってたんだ。聖獣に導かれた少女の神話があるって……まぁお兄ちゃん曰く、そんなもの設定してないらしいんだけど。


 ただ、一口に神話と言っても大量にあって、その中からピンポイントで目当ての話を見つけるのは難しい。さっきから空振りを繰り返していた。当然、蔵書検索ができる機械なんていう便利な物は無い。


「んきゅ~」

 すると足元で小さく鳴き声。ダイフクがつぶらな瞳であたしを見上げている。宿屋を出る前、枕元に置いていたタリスマンを身に着けてみたら、やっぱり出てきた。なんかちょっと、魔獣使いか召喚士にでもなった気分。


「ダイフクの話、なかなか見つかんないね」

 ちょっと息抜きするつもりで、あたしはしゃがみ込む。言葉が分かっているのかいないのか、ダイフクは短く一声鳴くと首を傾げた。


「この本棚じゃないのかなぁ……? さすがに今日で全部見るのは無理だよ」

 目を擦りつつ、そこそこ広い室内を見回して小さく溜息をついたその時。

 

「おや、此処に居たのかみくる君」

 後ろから声をかけられて、振り返るとクローヴィスさんがいた。落ち着いた物腰で、片手を上げる。


「へへ、ちょっと調べ物しに……クローヴィスさんも?」

「私はこれから授業があってね」

「あっそうか」

 そういえば前に参加したときもこのくらいの時間だったっけ。よく見たら、小脇にノートみたいなものを抱えている。


「ところで、調べ物というのは?」

「昨日言ってた神話が気になって……ただそれっぽいの見つかんなくてさ、苦戦中」

「成程、それなら任せてくれ。フェリスライトの聖獣ついては……この辺りではないかな」

 そう言ってクローヴィスさんが近付いたのは、あたしが見ていた本棚の斜向かい。全然マークしてなかった場所だ。しばらく指で背表紙を追った後に、スッと一冊を抜き出した。ぱらぱらめくって、あたしに差し出す。


「うむ、これだ」

「うわ〜すごい一発で……!?」

「はは、長年読んでいると大体分かる物だよ」

 それは古い布張りの本で、いろんな神話を集めたものみたいだった。目次を頼りにそれっぽそうなページを開いてみると、目に飛び込んできたのはカラーの挿絵。白い一角獣が、毛並みをなびかせて立っている。


 あった。多分この話がビンゴだ。だけど……。

「挿絵とダイフクじゃ、全然違うね……」

 本の中の聖獣は、スラッとした体で目もキリリとクールでかっこいい。対するダイフクはぽってり愛くるしい二頭身に、くりくりなアーモンド型の目だ。


 本と足元を見比べながら言うあたしに、クローヴィスさんも苦笑いを交えつつ口を開く。

「ううむ……しかし特徴は一致している。もしかすると、まだ幼体なのかもしれない」

「赤ちゃんってこと? そっか、確かにね」

「きゅ?」

 

 興味を示したように前足を上げるダイフクヘ、あたしはしゃがみ込んで挿絵を見せた。

「ほら、大きくなったらこーんな爆イケ守護聖獣になるかもしれないよ」

「んきゅ〜!!」

 嬉しそうに鳴いて跳ねるダイフク。やっぱりかわいい。


 その時、何人かの足音と話し声、そして階段を上がる音が耳に入ってきた。

「……おっと、もうこんな時間か」

 クローヴィスさんが懐中時計を見て言うと、近くの椅子に置いていたノート類を取る。


「それではみくる君、私は授業に向かうが……今日はどうするかね? もし参加するならば歓迎だよ」

「んー、ダイフクの本見つかったし、これ読んでみたいかも」

「そうか。いや、構わないよ。折角芽生えた好奇心だ、大切にしなければね」

「きゅうっ」

 するとダイフクが、クローヴィスさんの長い上着の裾をくわえて引っ張った。引き留めるみたいな仕草だ。


「こらこら、邪魔しないの。これから大事な用事があるんだからさ」

 あたしはダイフクを宥めて、抱き上げる。

「ははは、すっかり聖獣のご主人様だね」

 笑ったクローヴィスさんは、ではまた後で、と手を振って、階段を上がっていった。それを見送ってから、あたしも広いテーブル席に移動して、本を開く。




【――天界に、慈愛の神がいた。彼は下界に恵みと調和をもたらしていた。

 しかしある時、悲劇が起こる。突如として悪心と妄執に囚われ、彼は狂える神へと変貌したのである。


 途端に美しかった彼の棲み処は、呪詛を束ねた濁流に吞み込まれ、近付く者全てを呪う怨嗟の海へと変わり果ててしまった。

 同時に彼の庇護下にあった下界も荒れ、歪み、崩壊の一途を辿る。そこに住まう者達は、成す術も無い恐怖に、ただ打ち震えるのみであった。

 

 そんな下界の小さな村に、一人の少女が住んでいた。勇敢で心優しく、活発な少女である。


 ある大雨の日、彼女は川のほとりで弱って倒れている一匹の白い獣を見つける。それは銀糸の如き艶やかな毛と、宝石のような角を持つ、神秘的で美しい獣であった。雨で増水した川に今にも流されそうになっていた獣を、少女は助け、介抱した。

 すると驚くべき事に、獣は言葉を発し、彼女に語りかけたのである。


 獣は自らを、天界と下界を繋ぐ者だと言った。そして困惑する少女へ、汝は囚われの神を救い、世界を覆う混沌を正す使命を受けたのだと伝えた。


 続いて獣は、契約と加護の証として少女に秘石を与える。その秘石の名はフェリスライト。温かな光を内部に宿し、まるで生きているかのように不規則な揺らめきを見せる、幻想的な石であった。

 

 かくして自身の使命を自覚した少女は、白い聖獣に導かれるまま、旅に出たのである。聖獣は、下界の者が天界へと昇るためには、相応の試練を越えなければならないと言った。】


「……ほぉ〜……」

 あたしは読みながら、小さく声を出した。世界のピンチ、選ばれし者、導く役割を持った聖獣に、試練……王道中の王道って感じの始まりだ。

 

 ちなみにダイフクは、陽の当たるテーブルの上が気持ちいいのか、いつの間にか丸くなって寝てしまった。


『ど……どんな事が書いてあるんだ?』

 イヤーカフから声。そっか、この話はバグで勝手に付け足されたものだから……お兄ちゃんも全く内容知らないんだ。やっぱり気になって仕方ないみたい。


「んー待ってよ、あたしも読み始めたばっかりだし。終わったらお兄ちゃんにも教えるからさ」

『……なあ、せめて書かれてる文章音読してくれないか? それなら俺もテキストとして読めるから……』

「えー? だーめ。横でダイフク寝てるし、それに図書館ではお静かに~。わ、イラストすっごくきれい……!」

『ぐ……』

 

 小声でわざと意地悪に言うと、もどかしそうな声のあと、少し経ってからコココという小気味いい音がわずかに聞こえてきた。あ、これスマホのフリック入力の音だ。さては諦めてSNS開いたか、ソシャゲの周回やりだしたな。

 さて、あたしは続きを読むとしますか……。再び、ページに目を落とす。

 

【■第一の試練

 聖獣に導かれ、少女が辿り着いたのは厳かな庭園。

 美しい花々や緑を誇る庭園の中央には、一体の石像がぽつんと立っていた。


 言葉を話せるその石像は、非常に偏屈で気難しかった。故に庭園を飛び回る虫や小鳥たちからも煙たがられ、孤独であった。彼の頑なな心を解く事が、第一の試練――そう聖獣は告げる。

 

 少女は他者との関わりを拒むその石像に近づき、優しく声をかけた。しかし彼は冷たく答えるだけで、心を開こうとはしなかった。

 しかし少女は諦めず、石像の傍に座り続け、その苦しみや孤独に寄り添おうとした。


 ――やがて、次第に変化が訪れる。

 少女の真摯な態度と優しさに触れた石像は、少しずつ彼女の話に耳を傾け、自身の過去も語り始めたのである。少女は、石像の心の傷を理解し、以降も真摯な対話を続けた。


 そしてある日、石像の固い表面にひびが入り始めた。ひびは瞬く間に全体へと広がり、ついには石像が割れるに至った。 

 すると割れた石像の残骸から、世にも美しい鳥が姿を現したのである。


 鳥は長年失われていた自由を取り戻した事に感謝の意を示し、少女に言った。

「辛抱強く心優しき少女よ、貴女は天界へと至るに相応しい。その証を授けましょう。私が立っていた場所を掘ってみなさい」


 少女が言われた通りに地面を掘ると、古い木箱が現れた。その中には、艶やかで非常に柔らかい布が入っていた。


「この布は不死鳥の長い尾で織られたもので、火に触れると再生する神秘の布です。必ずや貴女の助けになるでしょう。持っていきなさい」


 かくして、少女は不死鳥の布を手にし、聖獣と共に次の試練へと向かった。


■第二の試練

 聖獣は次に、少女を神殿へと連れて行った。神殿の中では、一人の神官が佇んでいた。

 

 神官は少女に清らかな水が並々と入った壺を手渡し、厳かに告げる。

「証を求める者、日の落ちる前に、聖水を神木に捧げよ。ただし、一滴たりとも失ってはならない。さもなくば、汝に神木の怒りが降り掛かるであろう」


 少女は壺を大切に抱え、神木の元へ向けて歩き出した。その道のりは長く険しかったが、少女は疲労に耐えながら、壺の水をしっかりと守り続けた。


 その時足元から、か細い声。見れば、一匹の蜥蜴が弱り果てて倒れている。蜥蜴は苦しそうに言った。

「お嬢さん、どうかその水を分けてください。干からびて死んでしまいそうです」

 

 少女は神官からの言いつけを思い出したが、目の前で苦しむ蜥蜴を見捨てることはできなかった。ついに心を決め、壺の水を少しだけ蜥蜴に飲ませてやった。


 その後、疲れた体を引きずりながらも神木の元へと辿り着いた少女は、神木の根元に跪くと、両手を合わせ、震える声で言った。

 

「ご神木様。私は言いつけに背き、壺の水を減らしてしまいました。私には、どのような罰が下るのでしょう」

 

 その時、背後から優しい声が聞こえた。

「見事だ、人の子よ」

 

 振り向くと、そこにはあの蜥蜴がいた。

 蜥蜴は神の遣いであり、少女を試していたのである。少女の献身を見届けた蜥蜴は、静かに言った。

 

「君の心の清らかさと、無私の行動は素晴らしかった。我は迷える者を光へと導く使徒。君に力を貸そう」


■第三の試練

 少女は聖獣に導かれながら、古びた館へ赴いた。館の門の前には、粗末なローブに身を包んだ老人が立っていた。老人はしわがれた声で語りかけた。

 

「この館は呪われている。中に恐ろしい魔物が閉じ込められているのだ」

 老人は少女に剣を渡し、続けて言う。

「その魔物を消し去る者を待っていた。どうか呪いから解き放っておくれ」

 

 剣を受け取った少女は、館の中へと足を踏み入れた。館の中は薄暗く、冷たい空気が立ち込めていた。少女は恐怖心を抑えながら進み続け、ついに大広間に続く扉を開ける。

 

 件の魔物はそこで待ち構えていた。

 腐敗した肉のようなもので覆われた巨大な体躯。その奥から覗く目はぎらぎらと赤く光り、縦に裂けた口は鋭い牙を乱雑に生やしていた。


 魔物は濁った雄叫びを上げ、少女に襲い掛かった。少女は聖獣の加護を受けながら、懸命に戦った。

 やがて、魔物に剣を突き立てる好機が訪れる。しかし、少女は考え込んでいた。


 このまま魔物を殺してしまって良いのだろうか――攻撃から逃れながら、魔物の恐ろしい声の中に、どこか哀しさのようなものを感じ取っていたのである。


 魔物が口を大きく開け、少女に迫った。しかし少女は驚く事に剣を捨て、両手を広げて微笑みかけたのだ。まるで抱擁でもするかの如く、少女は無防備に近づいた。

 

 魔物の口が少女を呑み込む。

 ところが次の瞬間、魔物の体から光が吹き出した。その光は魔物の体を包み込み、少しずつ溶かし、消し去っていった。

 

 光が止んだとき、魔物は影も形もなくなり、少女は無傷で立っていた。

 そして彼女の目の前には、美しい女神の姿があった。

 

「選ばれし人の子よ」 

 女神は微笑みながら、鈴を転がすような声で言った。

 

「よくぞ仮初めの姿に惑わされず、私の真の姿を見通しましたね。貴方こそ加護を授けるに相応しき者」

 

 女神は少女を館の外れにある森へと案内した。その森の中に、一本の木が生えていた。

 その樹は青白い光に包まれ、神々しく輝いている。女神はその木の枝の一本を手折ると、少女に与えた。

 

「この木は天界樹と呼ばれ、地上に神々が降り立つ際、道標となるものです。きっと、貴方の助けにもなるでしょう」

少女は恭しく、女神から天界樹の枝を受け取った。


 かくして試練の果て、集まった三つの証。

 聖獣は、これで天界へと昇る資格を得たと少女に告げた。】


『おわ、こいつに上方修正来るのか……あー悪くないな。デッキ考え直すか……』

「ちょっとお兄ちゃん気が散るんだけど。今いいとこなんだから」

『ん? ……あぁ、すまんすまん』

 あたしの声に反応したのか、ピクッと顔を上げたダイフクが大きな欠伸をした。背中をゆっくりなでてあげてから、読みかけのページに視線を戻す。


【聖獣が一声吼えると、少女の体は光に包まれ、高く高く昇っていった。ついに天界へと至る時が来たのだ。


 ところがその道中もまた、狂神の影響を受け、荒れていた。


 ある場所は、延々と燃え盛る業火に包まれていた。

 ある場所は、終わり無き迷宮と化していた。

 ある場所は、一筋の光さえ見えぬ暗闇に閉ざされていた。


 しかし、これまでの試練で得た「証」が、少女に加護をもたらす。


 身を包む不死鳥の布は僅かな焦げ目すら付かぬまま、猛る炎から少女を守り抜いた。

 また先導する蜥蜴は一切迷うことなく進み、隠された出口を見つけ出した。

 さらに手にした天界樹の枝は煌々と輝き、神にさえ届くその光が、行く道をはっきりと照らし出した。

 

 かくして少女と聖獣は、見事天界へと辿り着いたのである。


 少女は出迎えた神々から船を賜り、怨嗟の海の突破を試みる。


 しかし天界の船を以てしても、その濁流を乗り越える事は至難の業であった。幾重にも束ねられた呪詛が押し寄せる。

 とうとう船は転覆し、少女の体は投げ出された。

 

 激しい呪詛の渦に身を揉まれ、苦しい息の下、少女は秘石を握りしめ懸命に祈った。その祈りは、この窮地においてなお、かつての善神を救いたいと心から願う無垢なる祈りであった。


 すると秘石が光り輝き……奇蹟が起こった。

 

 突如少女の体が、まるで見えざる手に掬い上げられるかのように浮かび上がったのである。


 少女は荒れ狂う怨嗟の海の上を、陸地同然に歩いて渡った。

 そしてとうとう、狂える神の御元に到達したのだ。

 

 その場所は重苦しい絶望に満ちていた。中央に鎮座する狂神の目は紅く燃え、周囲には淀む暗黒が渦巻いている。

 しかし少女は、心身を圧し潰さんとする闇にも臆さず、前に進み出た。


 すると少女の澄んだ思いと勇気は、もがき苦しむ神の内に残っていた善の心と共鳴。神を蝕んでいた狂気が徐々に薄れ、解き放たれてゆく。

 

 ついに、彼に巣食っていた悪心や妄執は浄化された。狂える神は、再び慈愛の神としての姿を取り戻したのだ。

 辺りを取り巻いていた闇も、呪詛も、全てが祓われ、彼の棲み処も清らかな水を湛えた美しい場所へと戻っていった。


 こうして神は救われ、下界にもかつての平和と調和がもたらされたのだった。

 

 神と世界の浄化を見届けた少女は、誇りを胸に下界へと降り立った。彼女の優しさと勇気が成した偉業は神話と語られ、今なお世に受け継がれている。

 そして役目を終えた聖獣は、秘石の中で永い眠りについた。再び聖獣がその役割を必要とし、奇蹟がもたらされるとき、秘石は大いなる祝福と輝きを取り戻すであろう。】

 

 ……これで、話は終わっていた。次のページでは、もう別の物語が書かれている。

「んきゅ~」

「あ、起きた?」

 タイミングよく目を覚まして、まだ寝ぼけまなこなダイフクの頭をわしゃわしゃとなでた。


「すごいよダイフク、世界を救う旅のナビゲーターしたんだってさ。奇蹟を起こせるんだってよ?」

 そう言っても当の本人(本獣?)はきょとんとしている。

「あれ? でもそうなってくると……状況的に、次の選ばれし少女役ってあたし? ……んはは、まさかね」

 

 周りに誰もいないのを良いことに、そんなことを呟いてみる。そして胸元で揺れるタリスマンを改めて手に取って眺めた。秘石かぁ……こんなエピソード知っちゃうと、なんだか一層特別感がある気がする……。


「ねぇお兄ちゃん、なんでダイフクとフェリスライトを没っちゃったの?」

 下手したらスマホに没頭しててパソコン画面見てないんじゃないかとも思ったけど、さすがにそこまで気を逸らしてはなかったみたいで、イヤーカフの向こうから微かに反応して体を動かす音が聞こえてきた。

 

『……なんでって聞かれると一言で説明が難しいけど……まぁ上手くまとまらなかったんだよ。ストーリー展開と絡められなかったというか。別に無くても成立するよな……とか色々あって』

「ふーん……? どういう風に登場させるつもりだったの? 没アイディアなら聞いてもいいでしょ」

『あー、うーん……確かセレフィエル関連のイベントで考えてた気がするけど……すまんとっくに構想練ってた時のメモ捨てたから、もうあんま覚えてない』

「もーお兄ちゃんそういう時すぐアイディアメモ捨てるよね。取っといたらいつか役に立つかも……とか思わない?」

『ごちゃごちゃするのが嫌なんだよ。みぃこそ、机の引き出しの中いつか使うかも……で結局使わなくて、そのうち捨てるのも面倒になったものだらけだろ?』

「こ、これからだもんこれから……」


 そんな雑談を挟みつつ、せっかくだからと別の物語も読んだりしていると……。


 階段の方がざわざわと少し騒がしくなった。授業が終わったらしい。

 程なくしてゆっくりと降りてくる足音。クローヴィスさんが戻ってきた。


「やあ、まだ残っていたのだね」

 別れた時と同じに手を振って、あたしの向かいに腰を下ろす。


「きゅ~ぅ~ん」

 するとダイフクがトコトコと近寄って行った。甘えるみたいに、鼻先をぐりぐりと擦りつける。

「ん? ふふふっ、可愛らしいな」

 両手で構ってやりながら、クローヴィスさんはあたしを見た。


「聖獣の神話については、どうだったかね?」

「なんか表紙は堅苦しそうでビビったけど……結構読みやすかった! やっぱ王道な話って良いよね。試練クリアして、特別なアイテム手に入れたら特別な世界行けるのとかさぁ。あと証ってあったけど、そういう、三種の神器的なやつ? あたし大好き」

「気に入ったようだね。良かった良かった」

 微笑むクローヴィスさん。


「純真な少女を天界へと導き、狂える神を救う橋渡しをした……そんな神話から転じて、フェリスライトには邪悪を退け、持ち主を正しき道へ導く力が有ると信じられているんだ。宿る聖獣も、悪心を持つ者を見抜く、なんて言われているな」

「へー。だってよ、ダイフク」

「んきゅ?」

 頬をつつかれて、振り返ったダイフクは相変わらず能天気な表情。


 すると……そんな様子を見ていたクローヴィスさんが、不意にくすっと笑った。

 

「では、みくる君」

「ん? 何?」


 なんだか改まった感じで呼ばれてきょとんと前を向くと、クローヴィスさんはちょっと含みのある表情になって、内緒話でもするみたいに、上目遣いな視線を投げかけてきた。

 

「私がこの神話でもう一つ、さらに面白い話を知っていると言ったら……気になるかね?」

「え?」


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