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【第三十四話】秘石に宿りし守護聖獣

【前回のあらすじ】

ミレクシアへ戻ったパーティーは、その夜クローヴィスと共に今後を話し合う。彼は自作の魔方陣を用いて、森の浄化に協力したいと申し出た。話もまとまった折、エトルが修理を終えたタリスマンを届けに訪ねてくる。成り行きでみくるが着けてみると……なんと突然、謎の白い獣が出現。それを見たみくるは、かつての夜を思い出し動揺する。あの出来事は夢ではなかったのだ。

「……ふぅ~……」

 一旦頭も冷えて、落ち着いたあたしは再び椅子に腰掛けた。

「みくる~だいじょぶ?」

「う、うん。ごめんねリーリア、びっくりさせて……」

 一度、大きく深呼吸する。

 

「きゅ~……?」

 すると心配するかのような鳴き声が上がった。膝の上に座って見上げる、白い謎の生き物――推定、フェリスライトの守護聖獣。


「ほいで……どうしたんね、みくる。夢じゃなかったっちゅうなぁ、何ねぇ?」

 穏やかに切り出すオルフェ。他のみんなも注目している。

「えっとぉ~、あーもう何から話そうかな……」

 気が落ち着いたとはいえ、まだ混乱しているあたしはこめかみを押さえた。

 

 ちなみに女将さんはというと、さっき「まあよく分かんないけど、ウチはペットの宿泊も禁止じゃないからね! 机とか椅子をかじらないようにだけ気を付けとくれよ!」とだけ言い残してまたカウンターの奥に戻っていってしまった。ご、豪快な人だ……。


「とりあえず……あたしね、どうも前にこの子と会ってるっぽい」

 言いながら、白い子の背をぽんぽんとなでる。


「会ったって、どこでだよ?」

「あのね、多分、アムルーナの森」

「は?」

 あたしの回答に、ジタンの目が丸くなる。


「……前に探索行った時、って事か? でもお前、あん時はずっとオレらと一緒で、単独行動なんてしてなかったじゃねぇかよ」

「いや、違うんだよ。信じられないと思うけど……その日の夜中にあたし、アムルーナの森に行っててさ」

『なぁ!?』

「な、何じゃて!?」

 お兄ちゃんとオルフェの声がハモった。


「あがぁに危険な場所、よりによって一人で行ったんか!?」

『俺が見てない……って事は、イヤーカフ外してた時か!? 何でそんな』

「わー待って! 説明させて! あたし的にもここが一番訳分かんないポイントなの!」


 怒られそうな雰囲気に、あたしは慌てて両手を振る。

「行ったっていうか……気付いたらいたんだよ、アムルーナの森の中に!」

「……どういうことですか?」

 怪訝な顔をするシグレ。

「その~ほら、あの日あたし達女子会してたじゃん。その夜中に目が覚めてさ……」


 それから、あたしはあの不思議な夜の出来事を詳しく話した。


 外に出て、宿屋に戻ろうと振り返ったところでいきなり森の中へワープしていたこと。出口を探してさまよう内に奥まで来てしまって、そこで怪しげな二人を見かけたこと。

 そしてその内の一人に追いかけられて、捕まりかけたところでこの白い子が現れて、どうやら助けてくれようとしてたっぽいこと――。覚えている限り、全て。


「成程……? 自分の意思で来た訳ではなかったのか」

 あごに曲げた人差し指を当てて、クローヴィスさんが呟く。


 その隣で、神妙な顔をしたオルフェが視線を投げかけていた。

「その二人組ゆうなぁ……怪しいのぉ」

「あァ。そんな場所にいる奴、どう考えても無関係な訳ねぇからな」

「やっぱりこわーいもりには、こわーい人がいるんだぁ」

 きゅっと体を縮めるリーリア。

 

「ふむ。みくる君、二人組の会話は覚えているのかね? 些細な内容でも構わない」

 そんな中、真剣な顔で尋ねてきたクローヴィスさんに、あたしはうーんと唸りながら天井を見た。

 

「いやぁそこがあんま覚えてないというか……そもそもよく聞き取れなくて。追いかけてきたのは男の人っぽかったけど」

「その男の顔を見たりは?」

「ううん……暗かったし、フード被っててよく見えなかったから……」

「……そうか。いや、気に病む事ではないよ。そんな状況下では仕方あるまい」

 安心させるためか、優しく微笑みながらクローヴィスさんが言った。

 

「というか、そんなのから追いかけられてよく逃げ切れましたね。ただでさえトロくさいアナタが」

「こ、これでも結構早い方ですー! 体育祭のクラス選抜リレーとか出たし!」

「まあまあ。無事じゃったけぇ良かったわい」

 やいやい言い合うのをやんわり宥めてから、オルフェはあたしを見た。

 

「ほいでそん時に、この子と初めて会うたんじゃのぉ。っちゅうこたぁ……このタリスマンは元々、その男のもんじゃったいう事じゃろうか」

「うーんそう……なのかな? 慌ててたからこの辺も結構曖昧なんだけど」

 膝の上の白くて柔らかい毛を指で梳きながら、記憶を辿る。


 一度捕まって揉み合いになってた時、いきなりこの子は現れた。

 確かその直前に――男の人が首から下げてたアクセサリーに、触れた気がする。


 正確には触れたって言うより、偶然手が引っ掛かって、引っ張り合った末にちぎれたんだ。それで飾りがあたしの方に落ちてきて、この子が出現した……そんな流れだったような。


「じゃあお前、そん時にこれ持ち逃げしたのか? やるなぁ、意外と盗賊の才能あんじゃねぇ?」

 ジタンが口の端を上げてニヤリと笑った。

 

「嬉しくないんだけど!? ていうかさすがにしないよそんなこと!」

「そんなら部屋着のローブからコレが出てきた事はどう説明すんだよ」

 冷静な指摘にグッと詰まる。

 

「まあそうなんだけど……なんでポケットになんか入って……ん? えっもしかしてあたし、コレ大っぴらに着けてたらヤバい? 男の人取り返しに来たりしないかな?」

 なんだか急に不安がよぎって、恐る恐る聞いてみたけれど。

 

「さぁなぁ。せいぜい背後に気を付けるこった」

 そんなものまるで興味が無いとでも言うかのように、素っ気なく返されてしまった。

 

「……ねーシグレ、今日からシャワーとトイレ付いて来てほしいんだけど」

「嫌に決まってるでしょうが気色悪い!?」

 バッサリ即答して体ごと引くシグレ。


「ん~きゅぅ~」

 すると白い子が元気づけるように、あたしの腕に前足をちょこんと乗せてきた。

「うぅ~君だけだよあたしを心配してくれるのは~!」

 両腕で抱え込んで、ふかふかと温かい体に顔を埋める。あぁ~アニマルセラピー……。猫吸いならぬ、聖獣吸いだ。


「そがぁに怖がりんさんな。わしらもおるんじゃけぇ……。ところでみくる、その後は自力で宿まで戻ったんか?」

 一連の流れを苦笑いで見ていたオルフェが、またまた脱線した話を軌道修正した。


「いやそれがさ、実はそっからが全然記憶無いんだよね。気付いたらベッドの上だったの。だから、全部ただの夢オチだって思ってたんだけど……」

「現に、今こうして森で見たんと同じのがおる……と。ほぉ~、そりゃいなげな事じゃわい」

 視線を落として、まるで難しい本でも読むみたいに目を細める。

 

「じゃ、この子ほんとにみくるの、しゅごせーじゅーだったんだね!」

 そう言って、リーリアがパァッと顔を輝かせた。その声に反応するように、白い子はしっぽをふるふる揺らす。表情もどことなく誇らしげだ。

「んふふ、そうかも。この子がいなかったらどうなってたか」

 くすっと笑ったあとに、あたしはふと考えた。

 

 ……なんか、さっきからずっと“白い子”とか“謎の生き物”とか“聖獣”呼びもなんだかなぁ。

 

「そういえばこの子、名前あるの?」

 試しにクローヴィスさんに尋ねると、彼は首を傾げた後、横に振った。

「いや、神話にもただ白い聖獣としか……個体名は語られていなかった筈だよ」

『……名前決める前に没ったから……俺もずっと白いのって呼んでた』

 続いてお兄ちゃんの補足も追加される。

 

「うーんなるほど」

 吾輩は聖獣である、名前はまだ無いってやつかぁ。

 

「ほいじゃぁ、みくるが決めちゃりんさいな」

 するとオルフェがそう提案してきた。

 

「え、あたし?」

『いいぞ、この際みぃの自由に呼んでも』

「ま、それがいいんじゃないですか」

 お兄ちゃんだけじゃなくて、意外なことにシグレも口を挟む。

 

「例えばジタンに決めさせると、どうせポチだのチビだの適当付けるでしょうからねぇ」

「あァ? じゃあお前は何て名前にすんだよ」

「ふふん、やはり名前は己を表すもの。聞いた相手が怯むような、強そうなのがいいですからねぇ……羅刹丸なんてどうです? いや黒閃王というのも捨てがたい」

「自分で言ってて笑わねぇのすげぇな」

「やだかわいくなーい!」

「な!? 何ですかリーリアまで!」

 

 三人がわちゃわちゃとやっている横で、あたしは考え込んでいた。な、なんか緊張するなぁ……一気に責任重大な気分になってきた。単純に見た目から付けてもいいんだけど、せっかくだしちゃんと意味のある名前にしてあげたい。


 んー……意味かぁ……あっそうだ。


「ねぇクローヴィスさん。フェリスライトってさ、なんか意味あるんだったよね? 祝福が何とかって」

「ああ。古代語で、大いなる祝福だ」

 その答えを聞いて、あたしは大きく頷く。

「……よーし分かった」

 白い子を両手で持ち上げると、くりくりした目を見つめて言った。

 

「君は今からダイフクだ!」

 

「だ、ダイフク?」

 クローヴィスさんが呆気に取られたように繰り返す。オルフェも不思議そうに身を乗り出した。

「なしてそがぁ美味しそうな名前に……」

 あ、こっちの世界にもそういう名前の食べ物として実在してるんだ。

 

「だって大いなる祝福でしょ? 縮めたら大福じゃん」

「いや当然のように言うなよ」

「でも良くない? 見た目にも合ってるし」

「きゅ~きゅ~」

 白い子――もといダイフクは、気に入ったみたいに弾んだ声を上げた。

 

「ほら、この子も喜んでる!」

「わぁ~。よろしくねっ、ダイフク!」

 無邪気な笑顔で抱き着くリーリア。並んでみると大体同じくらいのサイズ感だ。

 

「ふん……ま、せいぜい大事に世話してやることですね。愛想つかされたら、ヘナチョコなアナタをもう守ってくれないかもしれませんし」

 頬杖を付いたまま、片手をひらっと振ってシグレが言った。

「へ、ヘナチョコは余計だけどぉ……! でも、前からワンコ飼うの夢だったんだよね。へへっ嬉しい」

「聖獣をペット扱いかよ」

「まぁ、仲良ぅするんはええ事じゃ」

 穏やかにうんうんと頷いているオルフェ。


 話が一段落して、背もたれに背中を預ける。なんだかんだで、結構な時間が経ってしまった。時刻はもう十時近いかな? 村全体も静かになって、虫の声がしんしんとしている。


「では……ひとまず、共有は全て済んだかね?」

 おもむろに、クローヴィスさんが口を開いた。それに合わせて頷くみんな。


「後はもう明後日の夜を待つしかねぇって感じだよな、オルフェ?」

「……ほうじゃのぉ。今の時点で他に出来るこたぁ……無いはずじゃ」

 そのやり取りを見て、彼はテーブルの上で組み合わせた指を解く。


「それでは、今日の所は解散としようか。凄いな、あれだけ手詰まりだったのに、たった数日で此処まで事態が進展するとは。君達のお陰で、希望の兆しが見えてきた……本当に、助かるよ」

「お礼を言うのは、森が元に戻ってからじゃないですか? まだまだ、何も解決してないんですから」

 腕を組むシグレに、一度目を丸くした後、眉を下げて笑った。

「はは、それもそうだ。どうもせっかちで良くないな……。ただ、君達がミレクシアに来てくれたのは、どうも幸運の一言では済ませられない巡り合わせを感じるよ。もしかすると、必然だったのかもしれないね」

 

 そう言いながら立ち上がったクローヴィスさんは、鞄を手に取ると、もう一度あたし達を見回す。

「今夜と、それから明日は、しっかり体を休めてくれたまえ。セレフィア湖に行き、神具を捧げた後は一体何が起こるか……私にも想像がつかない。万全を期しておくに越した事は無いだろう。では……失礼するよ」


 軽く会釈して、宿屋を後にするクローヴィスさんを見送ったあたし達は、改めて一息ついた。

「じゃ、部屋に戻るか……もう眠ぃ……」

 欠伸混じりにジタンが言った。それが伝染したのか、リーリアもふにゃっと机に突っ伏す。


「そういえば、そいつはどうするんです?」

 シグレがダイフクを指差しながら言った。あ、そうだ、この子の寝る場所も考えてあげないと。

「ダイフク……えっと、とりあえずあたし達の部屋に来る?」

「きゅぅ!」

 

 するとダイフクは、心配いらないと言うかのように一声鳴いた。その直後、全身が緑っぽい光に包まれて、一つの小さな球体になる。

「えっ!?」

 

 ……驚いている内に、その光の玉はタリスマンの中心へ吸い込まれてしまった。

 

「そこ、ダイフクのおうち……なのかなぁ」

 リーリアが小首を傾げる。

「獣なのか精霊なのか……全く訳の分からねぇ生き物だな」

 頭を掻くジタン。そしてのっそりと立ち上がった。


「明日なんも無ぇならのんびりすっからな。下らねぇ事で起こすんじゃねぇぞお前等」

「はん、アナタこそワタクシの優雅な朝の時間を邪魔したら許しませんからね」

「何が優雅だ、まず起きねぇだろがよ寝過ごし常習犯が」

 言い合いつつ、二人は客室に続く扉へと向かう。あたしとリーリアも続いた。


「……あ……」

 すると、後ろで曖昧な声が聞こえた。振り返ると、オルフェが手を中途半端な位置で上げる妙な姿勢のまま固まっている。

「どしたのオルフェ」

「んー?」

 あたしにつられて、すぐ目の前にいたリーリアも振り向いた。


「……ああ……いや」

 オルフェは何を迷っているのか、ぎこちない反応を返す。そしてジタンとシグレが気付かないまま扉の向こうに消えてしまうと、肩を落とした苦笑いであたし達を見た。

「すまん、何でもないわい。なんか言おうとした事があった気がしたんじゃが……忘れてしもうた」

「えっと……うん?」

「なぁにー? ヘンなオルフェ」

 きょとんとするリーリア。確かに、ここ最近なんだかちょっと様子が変だ。

 

「いんやぁ大丈夫じゃ。気にせんで、ゆっくり休みんさいね」

 でも当の本人はそんな疑問をやんわりかわすと、あたし達を扉へ促した。

「わ、分かった……おやすみ、オルフェ」

「おやすみ~! みくる行こっ!」

 ちょっぴり引っ掛かるものは感じつつ、リーリアと一緒に部屋へ。扉を閉める時ちらっと見えた彼の様子は、やっぱり何か考え込んでいる風に見えた。

 



 その後諸々の支度を済ませて、残すところあと寝るだけ。あたしはローブ姿でベッドに腰掛けていた。


『……ちょっと色々起こり過ぎてて俺も混乱してるけど……ひとまず、まとめとくな』

「そうだね……予定外のこととか、結構あるもんね」

 イヤーカフに手を添えて、お兄ちゃんと会話する。ちなみにリーリアとシグレはシャワー中で留守だ。

 

『まず、いきなり村から森へワープしたって話だが……アイテムを使ったとかそういう心当たりが全く無いんなら、これはもう一旦バグという事にしておこう。座標バグでキャラが吹っ飛ぶとか、まあ一応あり得る話だしな』

「うん」

 

 相槌を打ちながら、手持ち無沙汰にローブの裾をいじる。

 

『森の中では例の二人組以外、何か見たか?』

「見てない……はず。そもそも奥の方は瘴気で曇ってて、あんまりよく見えなかったし」

『そうか』


 答えながら、お兄ちゃんの口振りで一つ察した。

 あの二人組自体は、お兄ちゃんの予想外の存在じゃないんだ。バグで出てきた訳分からない人とかじゃなくて、ちゃんと作られたキャラクター。

 でもその正体については一切何も言わない辺り、こっちも聞かない方がいいのかな……?

 

『ある意味一番恐ろしいのはフェリスライトと、ダイフクの存在だな。ただ勝手に現れたってだけなら別に良いんだが、変な干渉してきかねないとなると……』

「でもさすがにタリスマンをリュックの底に閉じ込めとくのはかわいそうな気もするよ? 一応、森であたしを守ろうとしてくれた恩人……恩獣? な訳だし」


 枕元に置いたタリスマンを何気なく手に取る。いかにも装備してくれと言わんばかりに、中央のフェリスライトは複雑で惹き込まれるような輝きと艶めきを放っていた。

 

『そこまでしろとは言わないけど、良くも悪くも想定外の存在なのは確かなんだ。何か余計な事しでかしそうだったら、とにかく全力で止めてくれ。俺もおかしな事があればすぐ教えるし』

「う、うん。できるか分かんないけど、がんばる」

『最悪なのは、シナリオに関わるバグが起こった場合だな。進行不可なんて事になったら……みぃ、こっちに帰れなくなるかもしれないぞ』

「うえぇおどかさないでよ。こっちの世界は楽しいけど、引っ越すつもりまでは無いんだから」

『異世界に行った妹がそのまま帰って来れなくなりました……か。ネット上の都市伝説の方がまだリアリティーあるな』

 

 独り言のように呟いて、小さく溜息を一つ。するとその後に、座り直すような音が聞こえた。

 

『ああ、それと。好奇心旺盛なのは良いんだけどな、これからは最低限、せめて俺が状況把握出来るようにはしておいてくれ……。本当に危なかったかもしれないんだぞ』

「あう……わ、分かってるよ。気を付けるから……」

 ぐうの音も出ない小言。気まずくてモゴモゴと返事しつつ、裸足の爪先をそっと重ね合わせた。


「明日はフィールドに出る予定は無いし、次セレフィア湖に行くときはパーティーだけじゃなくてクローヴィスさんも一緒だし、心配ないよ。今のとこ、メインストーリー自体には何も問題起きてないんでしょ?」

『まあ……そうだな。余計なイベントがくっついたにしろ、一応俺の書いたシナリオ通りには進んでる』

「それならオッケー……ふあぁ……お兄ちゃんもう寝ていい?」

 

 もうだいぶ頭も働かなくなってきた。座ったまま寝ちゃいそうだ。

『ああ、そっちはもう遅いよな。いいぞ、お疲れ様』

「じゃあイヤーカフ外すね~おやすみ……」

 

 あと残すところはセレフィア湖に神具を持って行くだけ。その先はまだ分からないけど、それまでは何事もなくいけるといいなぁ……なんて思いながら、布団にもぐり込んだ。

 部屋のライトが付いたままの明るい室内。でも目を閉じたらすぐにとろんとした心地いい眠気が押し寄せてきて、あっという間に眠りに落ちてしまった。


 ――だけどこの時、ちょっと考えていたら、ピンと気付けたのかもしれない。


 そのことに最後まで思い至らなかったのは、あたしがこの世界にすっかり馴染んでしまって、あくまでもゲームだというメタな感覚が薄まってきていたからなのか。


 ストーリーが進む目前で、わざわざ何の予定も無い一日が挟まる――


 それはシナリオとして、あまりにも不自然な空白だということに。

 

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