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【第一話】再会、そしてリスタート!

【前回のあらすじ】

休日に創から久々のテストプレイを持ち掛けられたみくるは、のんびりとゲームに興じていた。すると、またしても突然の転移が発生。だが混乱しきりだった前回とは違い、意気揚々と画面の向こう側へと乗り込むみくる。いよいよゲーム世界へのゲートへと辿り着いた彼女は、かつての仲間達との再会に胸を高鳴らせながら、二度目の冒険へと出発したのだった。

 楽しみにしていたゲームを初めてプレイする時の感覚は、きっと誰しも似ているんじゃないかなと思う。


 待ちきれない気持ちで、電源ボタンを押す。一気に明るくなった画面に、制作会社のロゴが表示される。


 その瞬間、もうあたしは別の世界に招かれているんだ。


 それから流れてくるテーマ曲は、その招待状みたいなもの。息つく暇もなく映し出されるOPムービーとタイトルロゴに、どうしようもなく気分が高まって、コントローラーを持つ手にも力がこもる。ボタンを押せば、いよいよゲームスタート。画面が切り替わって、あたしと目の前のモニター以外何にもなくなっちゃって、現実感を手放した、いつもとは違う世界に飛び込んで――


 ――そして、まだ見ぬストーリーが始まる。

  



 すたっ、と着地するような感覚があった。しばらくの間、浮遊感に包まれていた体が急に重さを取り戻す。


 ついに……到着だね!


 あたしが目を開けると……目の前に広がっていたのは、青々とした草原だった。澄み渡る空の下、風に揺れる草の音が耳に届く。


「あっれぇ……!?」

 てっきりゲーム内で最後にいた場所――町の中央広場にでも出てくると思っていたのに。予想が外れてきょろきょろと辺りを見回す。ここどこ?

 

『あ、みぃ。えーっと……もしもし? 聞こえてるか?』

 

 すると、左耳から声が聞こえてきた。その声の主は明白だ。

「あっお兄ちゃん。やっほー」

 あたしは左耳に付けたイヤーカフに触れる。


 前に来たときにもお世話になった、お兄ちゃんとあたし、そしてゲーム世界と現実世界を繋ぐ唯一のアイテムだ。

 これまた仕組みはよく分からないけど……とにかく、これを身に付けてさえいれば、こうしてお兄ちゃんと会話ができる。


 ちなみにあたしの言った言葉はウィンドウテロップになって画面に表示されているらしい。本当にゲームキャラの一人になったみたいだ。


「またあたしドット絵になってる?」

『ああ。なってるな』


 二回目で余裕があるのはお兄ちゃんも同じみたいで、いつもと変わらないトーンの返事が返ってきた。


「やー、また来ちゃったねぇ」

『次があるなんて思ってなかったんだけどな……』

「ということで、またサポートと解説役よろしく!」

『ふっ……了解、任せろ』

 笑い交じりにお兄ちゃんが言った。静かな返事がとても心強い。


「えーっと、とりあえず……ジタン達を探せばいいかな?」

 あたしは周りの景色を観察しながら言った。芝生に所々生えた木、向こうの方には砂地も見える。

『まあ、そうだろうな』


 背もたれに寄りかかったのか、ギッという椅子の音がかすかに聞こえた。


『前に来たときと同じなら、こっちに帰ってくる条件は直前に受けたクエストをクリアすることだ。主要メンバーがいないことにはストーリーも進まないし、近くにいると思うんだけどな……』

 そういえば、前も新しくクエストを受けたタイミングで転移したんだっけ。そしてそのクエストクリアと同時に現実世界に帰還できた。


「そうだよね。えーっと、じゃとりあえず歩いてみようかな。何もないし、ここ……」

『ところで、みぃ』

「ん?」


『大丈夫なのか? そこ。どう見てもフィールドマップだし、モンスターとか普通に湧いてるんじゃ』


 ブルォォォ……


 お兄ちゃんのその言葉がまるでフラグを立てたかのように、背後で異様な音が聞こえた。


「えっ、な、何……?」

 振り返るとそこには……長い牙を生やしたイノシシがいた。らんらんと光る目は明らかにあたしを見て、鼻を鳴らしている。牙の間から、ぼたっと涎が滴り落ちた。

 

 ……えっとぉ……これはぁ……来て早々ピンチってヤツ……!?

 

 思わず後ずさりすると、その動きにピクリと反応したイノシシが、ものすごい勢いで突進してくる!


「ギャァーーッ!?」


 慌てふためきながら地面を転がると、そのすぐ後ろをけたたましい足音と突風が駆け抜けていった。


『逃げろ!』

「わっ、わ、わわ分かってるってぇ!」


 もう後ろを確認する余裕もなく、もつれそうな足を無理やり動かして走り出した。


「ブルッ!」

 一回避けられたくらいじゃ全く諦める様子もないイノシシは、ザザッと後ろ足を鳴らして追いかけてくる。

 どうやら曲がるのは苦手みたいで、ジグザグに走れば避けられないこともなさそうだけど、それでも獰猛な獣に追いかけられる恐怖はたまったものじゃない。


「ひぃーっ!」

『みぃ!』

 イヤーカフから切羽詰まったお兄ちゃんの声が聞こえた。


『そこから東にひたすら走れ、村がある! 入ってしまえばシステム上モンスターも追ってこない!』

「ひっ、東! 分かった!」

『ま、待て待てそっちは南だ……!』


 分からない、もう何もかも分からない。がむしゃらに走っていたけど、さすがに息が切れてきた。どうしようどうしよう、せめて何か武器とか防具とか! こんな開始早々、野良モンスターにやられてゲームオーバーなんて嫌すぎる――!

 

 ドッゴォッ!

 

「えっ!?」

 急にものすごい音がして、イノシシの体が横に吹っ飛んでいくのが視界の端に映った。あたしは思わず足を止めると振り返る。


 な、何!? 一瞬衝撃波みたいなのが見えた気がしたけど……。


「ブルオォッ!」

 イノシシは突然の攻撃に驚きつつも、すぐに身を起こして、怒りの声を上げる。直後その頭上に、黄色っぽい光が現れた。


 ピシャアァッ!

「ブフゥッ!?」


 次の瞬間、眩しい稲光をとどろかせながら、真下に雷が落ちた。感電して、全身ビリビリと小刻みに震わせるイノシシ。

 こんな晴れた空で、しかもこんなタイミングで、自然現象なんてありえない。間違いなくこれは……魔法の雷だ。


 すると、電流に悶えるイノシシに向かって一直線に駆けてくる影があることに、あたしは気付いた。

 逆光になって見づらいけれど、走る動きに合わせてたなびく長い一本結びの髪、両手には短剣。その人物は走る勢いを消すことなく飛び上がって、イノシシの横っ面を思いきり蹴り飛ばした。


「グオッ!」

 よろめくイノシシ。しかしそこは筋力のある野生の猛獣。四本の足を踏ん張って倒れるのをこらえると、お返しとばかりに上向きに生えた牙を突き上げる。


「ふんっ!」

 反撃にあったその人は、二本の短剣を叩きつけるように斜めに振り下ろして迎え撃った。金属製の刃と頑丈な牙がぶつかり合って、ガチィンと火花が散りそうな音が響く。


 それを見て、あ、とあたしは声を上げる。


 その時、突然後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。


「キミ。ここおったら危ないけぇ、こっちに来んさい」

 背中越しに聞こえた、特徴的な口調。

 振り返る間もなく、体が抱え上げられた。柔らかい布の感触があたしを包む。そしてイノシシから離れた岩陰に移動すると、優しく下ろされる。あたしを避難させた男の人は、岩越しに戦況を確認しながら言った。


「悲鳴を聞いて来てみりゃぁ……なしてキミみたいな子ぉが、こがぁなとこに一人でおるんね? 護身用の武器一つ持っとらんようじゃし……」

 ふうと一つ息をついてから、男の人は座り込むあたしにかがみ込んだ。左側にモノクルを付けた、はしばみ色の目が真っ直ぐあたしを見る。でも圧は少しも感じなくて、むしろ柔らかい笑顔が安心感すらあった。

「けど、もう大丈夫じゃけぇね。わしらに任せんさい。ちぃと待っ――」

 

 そう言った男の人の言葉が、ふと途切れた。笑顔から一転、少し驚いたような表情になって、あたしの顔をまじまじと見る。

 

「ん……?」


 男の人が膝をさらに深く折り曲げたことで、視線の高さがあたしと完全に合った。

「あれ、キミ、まさか……」


 地面に置かれた杖の金具同士が軽くぶつかって、カランと音を立てた。呆気に取られていたように少し開いていた口が、再び動く。


「み、みくる……!?」

「うわ~! オルフェ~!!」


 たまらなくなったあたしは、はしゃいだ声を上げながら男の人、ことオルフェに飛びついた。膝立ちの状態で抱きついたまま、足をばたばたさせる。


「覚えててくれたんだね!? あとすごいベストタイミング! 助けに来てくれてありがとっ!」


 そう、彼は僧侶のオルフェ……本名、オルフェニウス。頭部をすっぽり覆う薄布の付いた帽子も、ゆったりとした白いローブも、先程までパソコン上のグラフィックで見ていた姿まんまであり……そして、初めて会ったあの日と変わらない姿でもあった。またこうして話せるなんて!


「ちょぉ、待っ……! げにみくるなんか……!?」

 あたしの重みで後ろに倒れ込まないように踏ん張りながら、混乱しきりの声で言うオルフェ。いきなりすぎる再会に、まだ理解が追いつかないみたい。

「うん! あたしまた来ちゃったよ~!」


『……はぁ、いきなりどうなることかと……』

 ほっとしたようなお兄ちゃんの声もイヤーカフから聞こえた。

 

 その時、岩の向こうでドサァッと重たいものが倒れる音がした。


「ははん、楽勝! チョロいもんですよ全く」


 見ると、イノシシの巨体が地面に横たわっていて、その上に先程戦闘を繰り広げていた人物が仁王立ちになっていた。短剣を持った両手を腰に当てて、高笑い。


 そうこうしているうちに、倒されたイノシシは一瞬白い光に包まれて、跡形もなく消え去った。代わりに、肉や牙などのドロップアイテムが周囲に転がる。


「ワタクシに正面から挑むなど、身の程知らずが過ぎるんですよ!」

「何お前一人の手柄みてぇに言ってんだ」


 その横で呆れたように言う、たくましい体つきで大柄な男の人が一人。幅広の重そうな大剣を背中の鞘に収めて、ツンツン逆立った金髪を無造作に掻く。


「お前が連携無視して無計画に突っ込みまくるから、こちとらやりづれぇっつーの」

「そんなもの知りませんよ。アナタがすっとろいんでしょう」

「おー分かった分かった、そんじゃ次からお前ごとぶっ飛ばすから覚悟しとけ」

「はっ、やれるものならやってごらんなさい。そんな大振りな攻撃、寝起きでも見切れますよ」


 軽口を叩き合う二人。向かい合うと身長差がものすごいことになってるんだけど、女の子のほうは一切怯まず不敵な笑みで言い返している。


「ねーねー、さっきの人だいじょぶだったかなぁ」

 そんな二人の小競り合いを全く気にすることなく、マイペースに戦利品を集めていた小さな女の子が、これまた呑気に言った。背中の羽でひらひら飛びながら、両手で一つずつアイテムを掴んでいる。ちょっとUFOキャッチャーみたい。


「あァ、オルフェに任せてたっけな……どこに行ったか……」

 女の子の言葉を聞いて、男の人がゆっくりと辺りを見回した。


「あ……み、みんな。大変じゃ。みくるがまた……」


 オルフェが慌てて立ち上がろうとする。

 しかしそれよりも早く、あたしは岩の陰から飛び出した。


「おぉーいっ! ジタンっ! リーリア! シグレーっ!」


 走りながら大きく手を振って、呼びかける。三人はこっちを振り向いて、最初こそ怪訝な顔をしていたけれど……すぐに全員、目を見開いた。


「あーっ! みくる!? えっほんとにみくるなのぉ!?」


 最初に反応したのはリーリアで、目を輝かせながら一直線に飛んできた。再会にふさわしく、二人で両手を握り合って、きゃーきゃー言いながらぶんぶん振る。


「やったー! みくるだー! あいたかったよぉー!」

「あたしも! ずーっとまた会えないかなって思ってたよ!」

「なんでぇ!? なんでまた来れたのぉ!?」

「あはっ分かんない! けどなんか来ちゃった!」

 はしゃいでいる間に、みんながあたしの周りに集まってきた。


「お前なぁ……今度は何やらかしに来たんだ?」

「急に帰ったかと思ったら、またいきなり現れて。まったく忙しない人ですねぇ」

 軽くからかうように言うジタンとシグレ。でもその声音にどこか、迎え入れるような気さくさも感じる。あたしは二人にも改めて笑顔を向けた。


「えへへ。久しぶりっ!」

「えへへじゃねぇよ。まともに戦えもしねぇ奴が、こんなとこ一人でほっつき歩いてんなよ危ねぇな」

「運よくワタクシ達が通りかかったから良かったものの、アナタわりと死ぬとこでしたからね。分かってます? どんなザコもアナタには強敵なんですよ」

「だってしょうがないじゃん、スポーン地点ここだったんだから」

「スポ……? 相変わらずお前の言うことは意味が分からねぇな」


「まあでも、おかげで無事会えたんだし! 結果オーライってことで、ね!」

 びっ! と親指を突き立てながら言う。やれやれといった調子の二人。


 ……すると、ジタンがいきなり思い出し笑いでもするかのように肩を震わせた。


「ん? どしたの?」

「いや」


 目を細めてくつくつと笑いながら、口を開く。

「お前さ……前に元の世界帰るとき何つってたっけ? なんか一生忘れないみてぇなこと言ってなかったっけか。その割にゃ、意外と再会早かったなって思ってよ」

「ああ、そういえば今生の別れのような言い方してましたねぇ」

 ニヤニヤしながらシグレも乗っかってきた。ここぞとばかりに腕組みして、口の端を吊り上げる。


「湿っぽく涙なんか流して。いやーこうなってしまってはなんと気まずいこと」

「や、やめてよ二人してさぁ! あたしだってまた来れるって思ってなかったんだもん!」

 イジられた照れ隠しで、あたしは両腕を力任せに振りながらまくし立てた。二人とも何だかんだちゃっかりと覚えてるのがまた気恥ずかしい。


「こりゃ、二人共。せっかくの仲間との再会なんじゃ、そがぁな意地悪しんさんな」

 少し離れて見守っていたオルフェが、苦笑しながらたしなめる。


「……あ、それはそうと、だ。おいみくる」

 その時、ジタンがふと思い出したように改めてあたしの名前を呼んだ。


「え? 何?」

「約束が違ぇじゃねえか」

「はっ? ……あ、まさか」


 唐突に言われて思わず素っ頓狂な反応をしたけど、その直後に言わんとすることを何となく予想できてしまった。


 ジタンは元々仏頂面な眉間のシワをさらに深めて言う。

「お前が向こうの世界に帰ってからずっと待ってたんだぞ。オレいつんなったら予言の書から解放されんだよ。創造主の兄貴によろしく伝えといてくれっつったろ」 

「いや最初からそんな約束してなかったし! っていうか予言の書を呪いみたいに言わないでよ!」


 思わずあたしが強くツッコむと、ますます不満げな顔。

「あァ? 充分呪いだろうがよ。こっちの意思とは関係無しに伝説だの魔王だの受け継がれし魂だの、んなもん知るかっての。つーか拒否権無ぇのがまずおかしいんだよ。ん? そういやお前、離れてても兄貴と会話はできるんだったか? じゃあ今がベストタイミングじゃねぇか。ほれすぐ伝えろ。今からでも遅くねぇから予言の書の内容改ざんすべきだって。『やっぱ違う気がする』で全部ひっくり返せ」

「嫌すぎるでしょそんなテキトー言う重要アイテム!」

『まだこんなこと言ってるのかこいつ、全然成長してないな……』

 ボソッと呟くお兄ちゃんの低い声が聞こえてきた。

「はは……いやー変わんないねぇジタンも」


 ああ、でも……呆れ笑いをしつつ、あたしは何だか感慨深い気持ちになる。コレだよコレ。このはちゃめちゃな感じ……本当にまた来たんだなぁって感じがする!


 この世界のメインキャラクター達はみんな、性格や口調、何なら一部の見た目まで、あたしがテストプレイしていた時のものとはまるで違うものに変わってる。


 シグレは遠慮のえの字も無いような超強気の自信家だし、オルフェはなぜか広島弁の方言キャラになってる。リーリアは話しただけじゃ分かんないけど、実は大食いという謎設定が追加されていたりして、そしてジタンに至っては……選ばれし者なのに、全然やる気が無い面倒くさがりな干物勇者ときた。

 

 この何でもアリな変化を、あたしとお兄ちゃんはとても大掛かりな「バグ」だという風に解釈してる。

 

 どうやら、あたしの出現はゲーム世界にとってかなりのイレギュラーで――まあそれは言うまでもないというか、至って当たり前のことなんだけど――あたしがここに来るってことが引き金になって、重大なエラーみたいなものが起きるらしい。


 その証拠は、あたしがこの世界に来る前に通ってきた真っ黒い空間にある。


 あの時、あたしが踏んでぐちゃぐちゃな順番にした白い文字列……その正体は、ゲームのプログラムコードだ。ゲーム世界を構成する元のようなもの。

 それを物理的に破壊して、捻じ曲げたことで、この世界そのものにおかしな影響を及ぼしてしまった。要するに、めっちゃくちゃバグってしまったという訳。


 しかも一般的に言われるバグとは違って、本来なら変わりようのない、シナリオや設定にまで影響が及んでしまうんだ。それが、この世界に転移するときのお約束みたい。


 前回も、この自由すぎるバグにはかなり悩まされたんだっけ……。

 

「ほうじゃ、わしらは何も変わらんよ」

 優しく笑って、オルフェが言った。


「変わらず旅を続けとる。みくるも元気そうで何よりじゃ」

「まぁコイツも何だかんだ言って、一応やることはやってますし」

 親指でジタンを指しながらシグレも続ける。

「うるっせぇな、お前らがヤイヤイ言うから仕方なくやってんだろ」

 それに対してジタンは、しかめっ面で金髪を掻き上げながら言い捨てた。見方によってはツンデレ発言に思えなくもないセリフだけど、その表情は心底嫌そう。


「あはは。じゃあ、前と変わらず一緒に冒険できそうだね」

「みくる、またいっしょに行けるの!? やったぁ!」


 あたしが言うと、リーリアが嬉しそうに腕に飛びついてきた。小さな体でぎゅっと二の腕を抱え込む。……なんか、こういうおもちゃをテレビで見たことある気がするような。


「そーそー。またいーっぱいお喋りしようねぇ」

 そうやって笑いながら、じゃれつく。楽しげに甲高い声を上げながら、羽をぱたぱたさせるリーリア。ピンク色のツインテールが上機嫌に舞った。


 ……すると、ふいに横からため息のような声が聞こえてきた。ん? とあたしはそちらに顔を向ける。


「アナタ達ねぇ。ほんっとお気楽能天気なんですから……」


 声の主はシグレだった。ツカツカとあたしに歩み寄ると、顔をずいと近づけてくる。あたしの目線のほんの少し下、気の強そうな紫色の瞳が迫った。


「わ。ど、どしたの?」

「なんだか当然のようにパーティーに加わろうとしてますけどねぇ。本来冒険者ですらないような人を仲間にするなんてありえないんですよ? ウチは託児所じゃないんですから」

「えーっ……じゃダメ?」


 ちょっと肩をすくめて聞き返すと、シグレは鼻を鳴らして腰に手を当て、大袈裟に首を振ってみせる。


「ふん……ま、放り出して野垂れ死なれても寝覚めが悪いですし、仕方がありませんねぇ。ただし、ワタクシの足を引っ張るようでしたら容赦なく追い出しますから、そのつもりでいなさい」


「結局仲間にすんじゃねぇかよ何したかったんだお前」

「まったく捻くれたことばっかし言うて……素直に来てええよって言やあええんじゃ」


「んふふっ、はーい。気を付けますシグレせんぱーい」

 あたしが軽く笑いつつ、おどけ交じりに返事をしたその時。


「ね、ね、みくる。はいこれっ!」

 名前を呼ばれて振り向くと、リーリアが全身でずるずるとリュックサックを引きずって持ってくるところだった。

 さっきの戦闘で邪魔にならないように地面に置いてあったやつだ。パーティー共用のアイテムが詰まった、ちょっと大きめの素朴なリュックサック。それを置いて一息つくと、きらきらとした目であたしを見上げる。


「みくるがもつでしょ?」

「うん! リーリア、ありがとね」


 幅広のショルダーベルトに手をかける。その重みまでなんだか懐かしい。金具に日光が反射してちかりと光った。冒険の始まりには、ふさわしい天気だ。


 リュックサックを背負って、これであたしは、パーティーの一員になる。


『いよいよだな、みぃ』

「えっへへへ……」


 みんなの方に向き直ると、大きく息を吸い込んで、ビシッと元気よく敬礼してみせた。

 

「あたし、また付いて行くから! もう一度よろしくね、みんな!」

 


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