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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
83/220

幕間 二人の双剣

 村に憑いた魔物の調査でデネブの村人に聞き込みをし始めると、みんなはあーし等に泣きながら縋ってきた。


「冒険者様……どうか魔物を、あのバフォメット達を倒して……我が物顔でこの村に居座って何もかも奪われて……」


 魔物はバフォメットだったのか。

 集まってきた村人達が泣き崩れる姿に、あーしは胸が苦しくなるのと同時に、魔物への強い怒りが湧いてきていた。


「して、魔物は何処(いずこ)に?」


 ビートさんの問いに、村人達は


「広場に沢山いる」


 と答えた。


 そんな目立つ場所に……しかも複数体いるなんて、何がしたいんだよ。


「……たった今、ポルカ殿から念話が届いた。森の中で魔物の気配を確認したらしい」


 森の中にまで……一体この村に何体いるんだ。


「応援に行きますか?」


 ルカが訊ねると、ビートさんはそれに首を振る。


「そうしたいが、こちらも状況が悪い。恐らく広場にいる魔物もこちらの存在に気付いているだろう。その間に人質を取られてはまずい故、早急(さっきゅう)に広場へと向かいたい」


 確かに広場で居座ってるなら、村人達の動向を見てあーし等のことも既に察知しているかもしれない。

 そこでビートさんは目を瞑り、聞き馴染みのない魔法を発動した。


「インセクトエコー」


 ビートさんから僅かに魔力の流れを感じるけれど、何かが起きているようには見えない。

 それから数秒後、不思議なことに彼の元へと数匹のトンボがやって来た。


(むし)魔法、小生の固有魔法だ。これより蜻蛉の力を借りて、広場の偵察を行う。視界共有!」


 次にビートさんが目を開くと、その瞳はまるでトンボの複眼のように、幾つもの個眼が集まって形成されたような状態になっていた。


 そうして広場へと向かっていったトンボ達が暫くして帰ってくると、ビートさんは魔法を解いてトンボ達が去って行く。


「広場には12体のバフォメット、ボスらしき者が中央に居る。人質は女性が一人。武器を構え始めていることから、やはりこちらには気付いているのだろう。奇襲を仕掛けたい。ルカ殿、遠距離攻撃は可能か?」


「はい、操血魔法でしたら」


「よし、ではこうしよう。先ずは小生の魔法で敵を撹乱し、ルカ殿は離れた所から人質を連れたボスのみを狙撃。その後に小生が魔法を解除したところで、シルビア殿が速やかに人質を救出。シルビア殿には、小生の合図があるまで耳をしっかりと塞いでいて欲しい。かなり騒がしい音が鳴るゆえ」


「りょ、了解っす!」

「わかりました」


 あーし等は作戦を始める為、ルカは少し離れた建物の上へと登り、あーしとビートさんは物陰から広場のバフォメット達を窺った。


『ボス含む12体と人質、全て確認出来ました』


 あーしとビートさんに、ルカからの念話が届いた。

 ルカがいる建物の屋根を見ると、こちらに向けてOKサインを出しているのが見える。


「よし、それでは行くぞ。シルビア殿、耳を塞いでくれ」


「はい」


 しっかりと耳を塞いだけれど、その音はあまりにも大きく、塞いでいなければ鼓膜が破れてしまったと思う。


「ヒートノイズ」


 まるで沢山の羽虫が一斉に鳴き出したかのような大騒音が、広場全体に鳴り響く。

 突然の爆音に慌てふためくバフォメット達の中、都合よくボスが人質を離してくれた。


 更にそこへ、ルカの放った血の弾丸が命中する。


(今だ!)


 ビートさんが、指であーしにそう合図をした。

 スピードならあーしが一番上だ。

 今のうちに、あの人を助ける!


「青嵐・銀狐一閃(ぎんこいっせん)


 爆音が止んだ瞬間、あーしは物陰から一気に飛び出し、一瞬で人質の女性を救出した。

 あーしには魔法が使えない。

 だから自分の強みであるスピードを活かして、独自の技を生み出した。

 その名も“青嵐(せいらん)

 ヒスイの聖剣魔法で使う身体の動きを応用し、魔力を身体の一部に集中させて瞬間的にヒスイの魔法と同等の速度を生み出す技だ。


「大丈夫っすか!?」

「ああ……ありがとうございます……本当に」


 人質の女性を逃し、あーしはバフォメット共を睨みつける。


「テメェら、何が目的だよ。なあ、罪のない人達を傷付けて、何がしてえんだよ!?」


 ヒスイを構えると、あーしはバフォメットにそう怒鳴り散らす。


「なんだぁ、人族のメスが。弱い犬程よく吠えるってやつか? この村はオレ達が貰っただけだ。別にいいだろう、こんなちんけな村一つぐらい」


「ああ? 黙ってろよ! そんなの人を傷付けて良い理由になんねーだろ! あと犬じゃねーから! キツネだし!」


 相手は12体、こちらは3人。

 ルカもビートさんもあーし以上に強いけれど、バフォメットのボスから放たれる闘気と威圧感は、本気で怒った時のベリィに劣らない程のものだった。


 コイツは間違いなく強い。

 脚が竦んで、剣を握る手も震えてしまっている。


「人質はもう居ない。シルビア殿、一気に片付けるぞ!」


 ビートさんは背に携えていたギザギザの凹凸がある黒い双剣を抜き、バフォメットに向けて構える。

 形状が特殊過ぎて確信が持てなかったけれど、やっぱりあれは剣だったんだ。

 ビートさんも、あーしと同じ双剣使い……!


「行くぞ、スタッグバイト!」


 ビートさんの攻撃は、宛ら大きな鋏状のアゴを持つクワガタのような動きをして、バフォメット一体を挟むと同時に突起した刃で斬りつけた。


 けれど、どうやら見た感じこれは魔法のようには見えない。


「小生の蟲魔法に斬撃魔法は無いが、これは昆虫の動きを応用して編み出した小生独自の技だ。そうしてこの刃に斬りつけられた者は……」


「……ぐはっ!」


 斬られた一体のバフォメットが、口から泡を吹き出しながらその場に倒れ込む。


「アルボスドクガの猛毒が傷口へと入り込み、死に至る」


 凄い、ビートさんもあーしと同じで、魔法以外の技を戦いで使うんだ……!

 魔法ではない斬撃があそこまで強いなんて、本当に凄い……!


「あーしだって……あーしだって、戦えるんだよ!」


 迫ってきたバフォメットを前に、あーしはヒスイの範囲攻撃を放つ。


「ヒスイ、爆空斬り!」


 爆風の斬撃は複数のバフォメット達を斬りつけたけれど、当然これだけで止まってくれるような相手じゃない。


「ブラッドロウル・サーベル!」


 ルカが剣を生成し、あーしの前でバフォメットと剣を交えた。


「シルビアさん、今ベリィさん達に連絡をとりました! 頑張りましょう!」


 まだ脚が竦んでる。

 今ここでルカが助けに入ってくれて、本当に良かったと思ってしまう。

 でもそれでは駄目だ……あーしはもっと強くなりたい。

 目の前の人を絶対に助ける為にも、兄ちゃんを見つける為にも、あーしは今この村を救う為に、コイツらを倒さなきゃいけないんだ!

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