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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
明星/カラスの北斗七星 編
73/220

58.刻星の英傑

 途轍もない衝撃と威圧感。

 周囲の建物は根こそぎ吹っ飛ばされて、みんなもどこかへ行ってしまった。


 爆風の中で、微かに聞こえたベリィちゃんの言葉……


「そっちは任せた!」


 任されちゃったなぁ。

 そうだよね。

 私が戦わないと、みんな死んじゃうからさ。


 ベリィちゃんの父親、魔王ローグへの冒涜を具現化したような存在を前に、私は珍しく足が竦んでしまっている。


 顔を上げて正面を見ると、そこには恐ろしい魔王のミメシスの姿と、変わり果てたブライトの姿があった。


「リタ、もう分かっただろう? あの頃には戻れない。前向いて生きろよ」


 目の前の怪物は、声だけでなく仕草や表情までブライトそのものだ。

 そりゃブライト本人だもんな。

 アイツがした決断だ。

 私はそれを止められなかった。


 ベリィちゃんから任されちゃったし、みんな戦ってるんだもんな。


 私のすべきことは、あのミメシスをぶっ倒すこと。


「おい、魔王の偽物。テメェ言葉は話せんのか?」


 私の問い掛けに、ミメシスは不敵な笑みを浮かべて口を開く。


「俺は偽物ではない。魔王ローグ・ロス・バロル、地獄の底から蘇りし者だ。貴様は?」


 あー、もう最悪だ。

 こういう自分をガチの本物だと思い込んでる偽物が一番タチ悪いんだよ。

 それに本物の魔王ローグは、多分こんな言い方しない。

 あと女に対して貴様とか使わん筈。

 ベリィちゃんから聞いた魔王ローグのイメージは、もっと紳士的で超優しいイケオジだったんだぞ!

 こんな……こんなに悍ましい化け物なんかじゃない。


「教えてやるよ……私は……刻星の英傑、リタ・シープハード! 今からテメェを討ち取りし者だよ!」


 決まったぁ……

 なーんか勇者っぽくて良い感じじゃん?

 相手は本物と違って情が薄い分、残忍で強いと思う。

 つまり私がコイツに勝てば、私が世界最強ってことだよな。

 そんなん倒して証明するしかないじゃん!


「うん、いつものリタに戻ったね。その青い一等星を宿したキミの瞳が、ワタシは大好きだったんだ。ここに居ては邪魔だと思うから、ワタシはベリィ・アン・バロルの相手でもしてくるよ。じゃあね、リタ」


 ブライトはそう言って姿を消した。

 何言ってんだアイツ?

 もういいよ、ブライト。

 お前が本気なら、私も本気でお前を止めるよ。


「今宵、俺が世界の王となる。それを果たす為にも、貴様は排除せねばならない存在のように思える」


「へぇ〜、見る目あんじゃん。私もテメェもぶっ殺して最強になる。友達いっぱいお金もいっぱい! おっぱいいっぱい夢いっぱいだよ!」


 圧倒的な強さを感じる。

 魔王ローグが死んでから、ここまで完成された偽物をどう作り上げたのか?

 それが不思議なぐらいの凄まじい闘気と威圧感。


 シリウス事件の時は遠くからだったけれど、今回は目の前にいる。

 あの時とは桁違いの恐怖で、今にも押し潰されそうだ。


 でもコイツを倒さないと、私は全部を失っちゃう。

 もう何も失いたく無いんだよ。


 大事な愛弟子、ベリィちゃんの為にもな。


「光れ! 刻星剣ホロクラウス! スタアメイカ・エクスプロージョン!」


 開幕直後、ミメシスに聖剣魔法を浴びせた。

 最初は避けられる可能性もあったから、最小限の魔力で放ったものだ。

 最大火力の出せる技は確実に直撃させたい。

 その為にも、確実に勝つ方法を考えるんだ。


 スタアメイカは直撃した。

 でも……ミメシスは無傷だった。


「聖剣魔法もこの程度か。でかい口を叩く割に大したこともないな、小娘」


 最初っから本気で行くわけねえだろ馬鹿がよ。

 私はこう見えて慎重派なんだ。


 別に相手を油断させるつもりなんて無い。

 そもそも、奴からはそんな気を感じないんだよな。


 だから少しでも、少しでも多く手数を増やして、奴に確実な一撃を撃ち込むんだ!


「ロストワールド」


 その一瞬が、早くも私の心を折りそうになった。

 強い重力のような負荷に押し潰され、私は地面へと落下した。

 何とか着地したものの、膝をついた状態から立ち上がれない。


 初手から範囲攻撃とは、やってくれるじゃん。


 たぶん私じゃなかったら即死だったな。

 私も気を抜いたら死んでたかもしれない。

 それぐらい強かった。

 これは少しヤバいかもしれないぞ。


「アンチグラビロウル……!」


 この魔法は、本来ならば浮遊を目的としたものだ。

 私が弄ってバリアにしたり攻撃に転用したりと、普段は変な使い方ばかりだけど、やっぱり基本が一番大事だって再確認出来たな。


 地面が没落する中、私は反重力によって立ち上がり、再び剣を構える。


「重力魔法の反転か。小娘、先程から身体に纏っている小細工もそれだな?」


「正解っ! 凡ゆる事象は、私に近付くに連れてその動きが僅かに遅くなる。そこらの奴が私に攻撃した程度じゃ、当てることすら出来ない。それはテメェの攻撃も例外じゃねえからな! 攻撃が届くのが遅くなる分、私には避ける余裕と考える時間が増える! 力だけのテメェには出来ねえ私の才能だよ! 無駄に威圧感だけあって大したことねえのはテメェのほうだな、模造品のカスがよぉ!」


 正直、避ける余裕も考える時間も無い。

 それに、あまり多くの魔法を使い過ぎても決め手の一撃を放つ為の魔力が足りなくなる。

 もう聖剣魔法は使えない

 重力と反重力だけで、奴の隙を作らなければ……

 虚勢を張ったはいいものの、どうすればこの化け物を倒せるだろうか?


「弱い犬ほどよく吠えるな。貴様の泣き叫ぶ声を聞くのが楽しみになってきた」


「悪趣味だねぇクソカス、私はテメェがたった一人の人族如きに負けて死にゆく様を拝んでやりてぇよ!」


 魔力の消費を抑えろ……身体には常に反重力結界を張り、攻撃時のみ剣と全身の空気抵抗をゼロにする。

 あとは……


「グラビロウル バレット」


 ルカたんの操血魔法を見せてもらった時に思い付いた、重力によって空気を極限まで圧縮し、それを弾丸のように押し出す新しい技。

 目に見えない空気の弾丸は私のかけた重力に押し出される上に、弾丸周囲の空気抵抗まで消してある。

 別にその辺の石ころを使っても出来るんだけど、圧縮した空気を弾丸にしたほうが格好良いと思っただけ。


 放った弾丸はミメシスの右目に直撃し、動揺している様子だが苦しんでいる様子は無い。

 まさか、痛覚が無いのか?


「ほう……貴様から感じていた違和感はこれか。本来あるべき形の法陣を組み換え、新たな魔法を生み出しているな? 今のは避けられなかった。だが、もう見切ったぞ」


 ミメシスはそう言うと右目に回復魔法を施し、一瞬で私の視界から姿を消した。

 いや、ギリギリ目で追えるぐらいだし、消えたわけじゃない。


 問題は、この速度に反応出来るかどうか……


「グリムオウド」


 急速に接近し、物理的な攻撃を仕掛けて来るかと思ったミメシスは、ベリィちゃんと同じ魔法で地面から長く伸びた怪物の手を伸ばし、私を拘束しようとした。

 いや、これは拘束の為の魔法じゃない。

 グリムオウド、ここまで強力な攻撃魔法に転用出来るなんて知らなかったよ。


「イレジスト!」


 私の間合いに入って僅かに速度を落とした手を、一瞬空気抵抗をゼロにした剣で一掃する。

 次は……間髪入れずに頭上から攻撃、速すぎだろ。


「良い動きをするではないか!」


「褒めてみたり貶してみたり、テメェは何なんだよ」


 物理攻撃を反重力とホロクラウスで往なし、ギリギリのところでミメシスの間合いに入り込む。


 一瞬でも相手の動きを止めるには、とにかく攻めるしかない。


「オーバーコラプス」


 ミメシスが使う魔法は、ベリィちゃんと同じ闇魔法。

 それなのに、魔法の規模も威力も桁外れだ。


 聞いたこともないその魔法をミメシスが詠唱した時、私は謎の危機感を覚えてミメシスから距離を取った。


 直後に次々と崩壊していく周囲の建物と地面……ただ壊れただけじゃない。

 魔法の効果範囲を抜け出すのが少し遅れたから、私のペリースがその影響を受けて灰のようにボロボロと崩れた。

 こんなの即死魔法じゃん……

 下手に間合いに入ることすら出来ないな。


 それに、覇黒剣ロードカリバー無しでこの力だ。

 本来の魔王はこれほどまでに残忍で攻撃的な性格では無いとは言え、聖剣を手にしていたことでより強かった筈。

 私はここへ来て、初めて自分よりも圧倒的に格上の相手と戦っているのだ。

 怖くて泣きそうだよ。

 シリウス事件で、ベリィちゃんはこんなのとタイマン張ってたのか。

 本当に凄過ぎるよ、ベリィちゃん。


「なぜ魔法を使わない? 魔力を温存しているのか?」


「まあ、使うまでも無いって感じ」


 絶対にそんな訳ないし、ハッタリだってバレバレだろうけど、格上相手に弱腰で行くのは駄目だ。

 私は刻星の英傑であり、アストラ王国の抑止力で居なければならない。

 強気で行けよ、私!


「まあ良い、次で終わらせてやる」


 そうして再び動いたミメシスは、あろうことか真正面から向かってきた。


「ディスペアライジング!」


 拳に魔力が集中しているのが分かる。

 避けられない、往なすか?

 いや、ミメシスの身体能力に加えてこの闇魔法だ……普通に受け流せない。


「ミルキーウェイ!」


 最大出力の聖剣魔法で拳を受け止めた。

 互角だ!

 聖剣魔法ならミメシスの力にも対処出来る!

 でも、これで一撃必殺は使えなくなった。

 魔力が足りない……通常の聖剣魔法で最大火力を誇るグランシャリオを含めれば、あと3回が限度だ。

 いや、ここまで来て出し惜しみはしていられない。

 グランシャリオ2回、これで決めてみせる。


「堕ちろ、ロストワールド!」


「堕ちんのはテメェだよ! グランシャリオ!」


 直後、私の身体が地面へと叩き付けられる。

 どこかの骨にヒビが入ってそうだし、もう内臓も何箇所かやられている。

 聖剣魔法を放ってから、反重力を使いガタガタの身体を起こした。

 グランシャリオは発動成功。

 ミメシスは空から降り注いでくる隕石のような刀身に飲まれ、周囲一帯が光で包まれた。


 ……直撃、これが効いていればいいんだけどな。


「ぐ……」


 私の視界に、片膝をついてこちらを睨むミメシスの姿があった。


「見事な魔法だ。だが……」


 最悪だ……せっかく直撃したのに、負傷させた箇所は回復魔法で治されてしまった。

 最大出力のグランシャリオだぞ?

 それがこんな簡単に……


 この時、私は初めての絶望を感じた。


 どうやって、どうやって倒すんだよ、こんな奴……

 私じゃ、勝てないの……?


「終わりだ、アポカリプス」


 世界が赤く染まる。

 耳を劈くような不快音と、吐き気を催すほどの眩暈に、初めての死を直感した。


 こんなところで……こんな……


「サンダークラップ!」


 激しい轟音と共に、ピカリと空が光る。

 私はそのまま身体を掴まれ、ミメシスが放った魔法の範囲から抜け出した。


「しっかりして下さい、リタ団長!」


 私を助けたのは、どこかに飛ばされていったはずのエドちゃんだった。

 戻ってきたのか?

 どうして……


「エドちゃん、危ないから逃げなきゃ駄目だよ」


「馬鹿な事を言わないでください! 俺だって元勇者だ。住民の避難は順調で死者はゼロ、アンデッドは誰かがザガンを止めたのか全て消滅、だから俺が来たんです!」


 そっか……アンデッドは消滅したんだね。

 でも、もうこの化け物は倒せない……私の力じゃ敵わなかったんだ。


「ごめんね、エドちゃん……私、もう駄目だ」


「なに弱気になってるんですか! とりあえず酒でも飲んでください! 持ってきました!」


 そう言ってエドちゃんは私に酒瓶を渡す。

 何で持ってんの?


「おい貴様ら、何をしている?」


 そりゃミメシスもそうなるわ。

 とりあえず飲もう。


「団長、俺の魔力を全て渡します。今残っている魔力量なら、団長の魔力を全快出来ます」


 そうか、エドちゃんが……私の知る限りエドちゃんだけが使える魔力補助。

 普段は補助目的で一部の魔力を補填してもらう形だけど、時間をかければ多くの魔力を他者に譲渡する事も可能だと言っていた。


 あの化け物がそんな隙を与えてくれるとは思えないけれど、少しだけ希望が見えた。


 あと酒美味え!

 やっぱ酒だぜ酒最高!


「ありがとね、エドちゃん。おかげで目が覚めたわ」


 再び立ち上がった私は、ホロクラウスをミメシスに向けた。


「おいクソカス、この勝負……私の勝ちだ!」


 私の背中に当てられたエドちゃんの手から、少しずつ魔力が流し込まれてくる。

 必要な量には程遠いけれど、それでも確実に。


「面白い、ならば俺も全力で行くぞ!」


 魔力消費の激しい治癒は無く、相変わらず身体はガタガタ。

 それでも攻撃は出来るし、この勝機を絶対に無駄にはしない。


「ディスペアライジング!」


「ネビュラメイカ!」


 全力の聖剣魔法を2回使っても、エドちゃんからの魔力供給がある。

 私のホロクラウスとミメシスの拳が衝突し、凄まじい衝撃波で大地がひび割れた。

 さあ、勝負はこれからだ!

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