55.明けの明星
物凄い威圧感だった……
ベリィちゃんのツノとは比べものにならないぐらい、本当に恐ろしかった。
あれが魔王なんだ……シリウス事件のとき、ベリィちゃんはあのレベルの相手と戦っていたんだ。
自分のお父さんとは言っても、最強と呼ばれる存在の本気と……
「あの、シャロ……助けてくれたのは嬉しいんだけど、そろそろ下ろしてもらえると……」
「あっ、ごめんシルビアちゃん!」
吹き飛ばされたとき、落下前にシルビアちゃんを抱きかかえて着地したんだった。
アタシはシルビアちゃんを下ろすと、改めて周囲を見回してみる。
町外れまで飛ばされてしまったらしい。
こっちには魔物達が来ていないけれど、早く戻って応戦しないと住民の人達に被害が出るかもしれない。
そうしたいのに、出来ない理由がアタシ達の前に立っていた。
「シャーロット……ヒル、アンタのことは、アタシが殺す……!」
サーナちゃん……飛ばされたときに頭を打ったのか、額から赤い血が伝っている。
本当は戦いたくないけれど、やるしかないんだ。
今のサーナちゃんと向き合うには、これしか……
「アタシは殺されないよ、サーナちゃん。お世話になった人達を置いて死ねるほど、アタシは薄情じゃないんだよ……!」
またアタシの言葉に怒ったのか、サーナちゃんが舌打ちをした。
ベリィちゃんから聞いた、リタさんの過去。
そのお話に出てきた女神教と、ブライトさんが引き継いで名前を変えた創星教。
かつてこの星に降り立ち、その魔法で世界に改変を齎した女神の伝説は、昔話にもなっている。
ベリィちゃんは勿論、アタシだっておばあちゃんにその本を読んでもらったことがあるし、きっと殆どの人達がその物語を知っていると思う。
本の題名は“明けの明星”だった。
そこに登場する女神の名前はルシファー。
星に降り立った時、自身の膨大過ぎる魔力で世界の一部を大きく改変してしまい、それによって誕生したのが魔族と魔物だと言われている。
力を得た魔族は女神を信仰し、魔物達は女神に忠実であった為、人々も次第にその生活に慣れていった。
そうして女神は人間との間に二人の子供を作り、半神である二人の名前はアラディアとヘロディス。
娘であるアラディアは現在の魔王の始祖となり、息子であるヘロディスは世界の均衡を保つ為に聖剣の鍛治師になった。
明けの明星の物語は、大体こんなお話だった気がする。
これは別のお話になっちゃうけれど、ルシファーの死後に増え過ぎた魔物は独自の進化を遂げて人々の生活を脅かす存在になったり、アラディアが魔族との間に子供を作ってその子が初代魔王になったりもしている。
そうしてその何代か後の魔王が重い罪を犯して、それに怒ったヘロディスが魔王の一族に恐怖と嫌悪の象徴であるツノを、人族には魔王の暴走を止める為の光竜剣ルミナセイバーを託した。
今日の昼間、ベリィちゃんとこの話になってから、アタシに教えてくれたことがある。
「サーナは、ルシュフ公爵の本当の子供じゃないって言っていたの。奴の使う魔法のことも、どうしてブライトが奴を誘拐したのかも、全部が繋がった。たぶん……いや、間違いなく……サーナは女神ルシファーと同一の存在なんだよ」
未だに信じられないし、もしそうだとしても女神ルシファーが生き返ってサーナちゃんになったというのは納得ができない。
圧倒的に格下のアタシが言うのも何だけど、サーナちゃんの強さはベリィちゃんと同じか少し下ぐらいだから、世界を改変できるほどの力があるとは思えない。
だから、きっと生き返ったわけじゃない。
何か別の方法で、サーナちゃんは女神としてこの星に現れたんだ。
「シャロ、どうするよ? あの子マジでやる気だよ」
隣のシルビアちゃんが、少し不安げな表情でアタシにそう言った。
「うん、死なないように頑張ろうね、シルビアちゃん!」
「お、おう……よし、吹き飛ばせ、疾双剣ヒスイ!」
アタシはアイネクレストを、シルビアちゃんは二刀のヒスイを構えてサーナちゃんと対峙した。
「いいよ、二人まとめて殺してやるよ。下等種族共!」
直後、サーナちゃんが持つ黒星剣ホロクロウズの刃が迫る。
アタシはアイネクレストをぐっと持ち、その攻撃を迎え撃つ体勢を取った。




