33.アンタレスの獣
アストラ王国にある小さな村、アンタレス。
近頃、その村で凶暴な“獣”が目撃されており、家畜などが襲われているらしい。
私はこの話を、シルビア伝に聞いた。
「でさ、エドさんは気を遣ってくれて、あーしはベリィ達と一緒でも良いって言ってくれたんだけど……」
シルビアの考えている事は、今の話だけで何となく分かった。
いくら特別任務で私達と行動することを許されていても、自警団としての仕事をそっち退けには出来ないだろう。
シルビアは、そういう真面目な性格なんだ。
「その任務、よかったら私とシャロも手伝わせてよ。自警団には、色々とお世話になってるし」
そう言った私の横で、シャロも頷いている。
「ベリィ、シャロ……! ありがとう!」
そうと決まれば早速準備だと、私達は遠征の為に荷物を纏め始めた。
そうして今、私達5人はシリウスを出発して、アンタレス村を目指していた。
シルビア含め自警団の人達は自警団所有の馬に、私とシャロはナイトリオンに乗っている。
ナイトリオンはホースメアという魔物だけれど、カンパニュラの一件以降は私の獣操魔法で主従契約を交わし、転移が使えない際の長距離移動はこの子に任せている。
「いやぁ、悪いねぇベリィちゃん達まで」
私達を先導しているウルフは、アンタレス出身らしい。
その為、今回の事件はどうしても自身で解決したいと志願したそうだ。
「ううん、自警団にはお世話になったから。借りは返す」
プロキオンで会ってから今日まで、自警団には数えきれないほどの恩がある。
リタにもしっかりお礼をしたいけれど、あれからまだ彼女とは会えていない。
何でも、今は仕事の一環でマレ王国という島国に行っているらしい。
海に囲まれたマレ王国は漁業が盛んな上、世界で唯一魔族と人族が差別なく共生している国だ。
私も一度は行ってみたいけれど、かなり距離があって船でなければ渡れない。
海、泳げたら気持ちがいいだろうな。
「そう言えば、ウルフさんはどうして自警団に入ったんですか?」
私の後ろに乗るシャロが、ふとウルフにそんな質問をした。
確かに、わざわざアンタレスを出てまで自警団に入ったと言うことは、何か理由があるのかもしれない。
単純に都会へ出たかっただけという可能性も、無いわけでは無いけれど。
「実はオレ、元は騎士になりたくてさ。でも騎士になるにはそれなりの身分が必要だし、村生まれのオレには無理な話。
そんな時にシリウス自警団の存在を知って、入らせて貰ったんだ。人助けの仕事するのは、昔からの夢だったから。
あと、オレのことはマットって呼んで良いぜ!」
初めてウルフを見た時、少し不真面目そうな印象を受けたけれど、本当は凄く良い人なんだ。
世の中にこんな善人ばかりなら、きっと世界はもう少し平和だったのかもしれない。
「ウルフは誤解され易いが、人助けにはコイツのような性格の奴が必要だ。誤解はされ易いが」
フッとエドガーは笑い、そう私達に話した。
「ちょ、エドちゃん一言余計だろ!」
「その呼び方やめろ」
「えー! なんでリタだんちょは良いのにオレは駄目なんだよ! 同期の誼みだろー!」
エドガーとウルフ、真逆のような性格なのに、結構仲が良いらしい。
それから1日かけて辿り着いた村は、本当に小さな場所だった。
規模で言えばベガ村よりも小さいけれど、決して貧しい印象は受けない。
“獣”が出ていると聞いていたが、村に荒らされた様子はなかった。
村の周辺に倒木や地面が掘り返された跡などはあったけれど、これも“獣”の仕業なのだろうか?
「エドちゃん達さぁ、悪いけど先にメシ食っててよ。オレちょっと寄るとこあるから」
村に着いて食事をしようとなった時、ウルフがそんな事を言った。
「そうか、分かった。またあとで合流しよう」
エドガーはそう返し、私達はウルフと分かれて広場に向かった。