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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
陽光/月と太陽 編
39/220

32.月と太陽

 目が覚めると、身体が動かなかった。


 無理に起きあがろうとしても、全身が痛くて苦しくなる。


「ベリィちゃん!」

「ベリィ!」


 気付けば、私の前にシャロとシルビアがいた。


「シャロ……シルビア……」


 私は、生きているのか?


「ベリィちゃ~ん、目が覚めて良かったよぉ! 治癒魔法じゃ治すのに限界があるって言われて心配だったぁ!」


 相変わらず、シャロは元気だな。

 シルビアは……何だか凄く泣いている。


 今分かったけれど、ここはシルビアの家だ。


 あの後、どうなったのか全く覚えていないけれど、おそらくアンデッド軍は殲滅出来たのだろう。


「ルーナ……は……?」


 アンデッドの攻撃から私を助け、傷まで癒してくれたルーナ。

 あの子は、無事だろうか?


「あ、ルーナちゃんならその中に……」


 シャロは私が寝ているベッドの掛け布団を指差した。

 そこでは何やらもぞもぞと動いており、お腹の辺りが少しくすぐったい。


「キュイ!」


 案の定、布団から頭を出したのは元気そうなルーナだった。


「おはよ……ルーナ」

「キュイ~」


 かわいい。

 ルーナにはいつも癒される。


 それにしても、あの時ルーナは明らかに魔法を使っていた。

 知能が高い魔物であれば、魔法を記憶して構築することもあるけれど、悪いがルーナはそれほど知能が高いようには見えない。


 とはいえ、この子は月光竜だ。

 竜の生態に詳しくはないけれど、ルーナは何か特別な理由で魔法が使えるのかもしれない。


 それから少しシャロ達と話をしていたが、どうやら倒れていた私を見つけてくれたのは、リタとシャロだったらしい。


 サーナとの事は詳しく聞いていないけれど、奴を相手に戦えたシャロは本当に強いと思う。


 それに、シルビアも新しい聖剣魔法が使えるようになったそうだ。


「あとさ、あの時すごかったんだよ! セシル様が加勢しに来てくれて、巨人みたいな人形どかーんって! で、なんか光線みたいなので、敵をどがーんってしてたんだよ!」


 と、防衛戦の様子を話してくれたシルビアだったが、言っていることがまるで分からなかった。




 それから数日間、二人に介抱されながら生活していたけれど、暫くして一人で歩けるようにまでなった。


 その頃、私は転移魔法でカンパニュラ公国に行き、セシルからの依頼であったカンパニュラを襲っていた魔物について報告した。


 報告内容は、シリウス襲撃の主犯であるブライトが、知恵の眼を持つセシルをあわよくば消せたら……というような目的であった。


 なんて、非常に簡素で曖昧なものになってしまった。


「ブライト・ハート・プラネテス。創星教の代表であるとは知っておりましたが、陰でこれ程のことを企んでおられたとは、恐ろしいお方ですね。それも、リタさんのご友人だったとは」


「でも、たぶんもうカンパニュラに魔物は来ない。ブライトは、それ以上の収穫があったとか言ってたから」


「……なるほど、そういう事ですか。何はともあれ、今回はご協力頂きありがとうございました。報酬はそちらに」


 そう言って渡された報酬は、凄い額の金貨だった。

 シリウス事件で魔王のアンデッドを倒した陰の英雄などと言い、その分の謝礼金まで上乗せしてもらった。


 本当は私が倒したわけでは無く、お父様が全てやってくれた事だけれど、お金は欲しいから黙っておこう。


 金貨は収納魔法で収納し、シリウスに戻ってからは自警団にも寄った。


 リタにお礼を言いたかったけれど、その日リタは仕事で外出していて居なかった。


 いたのは、エドガーとジャック。


 エドガーは私の元まで来ると、優しい表情で


「具合はどうだ?」


 と労ってくれた。


「だいぶ良くなったよ」


 と私が言うと、エドガーはホッとした様子で私のフードを外し、頭を撫でてくれた。


 その後、エドガーとは裏庭でシリウス防衛戦のことについて話していた。


 どうやらあの事件は『シリウス事件』と呼ばれているらしく、現在は自警団や聖騎士団が被害地域の復興に当たっているとのことだ。


 最近は、シルビアもその事で外出が増えた。


「だが、ベリィが無事で良かった。郊外は他と比べて被害も大きかったから、相当派手にやり合ったんじゃないかって」


「あ、えっと……荒らしちゃってごめん。最後はね、お父様が他のアンデッド達を倒してくれたんだ」


「いや、おかげでシリウスが救われた。本当に感謝してるよ。それより、おやっさんが倒したって……どういうことだ?」


「え、たぶんミアの時と同じかも。ロードカリバーを刺したら、元のお父様に戻って……」


 いや、違う……

 ミアの時は、私がアンデッドとしてのミアを倒した後、彼女の肉体に残った魔力で屍操魔法が構築され、一時的に意識を取り戻したに過ぎない。

 お父様は、あの程度の傷で倒せたことになる筈がないのだ。

 事実、お父様は最後に自ら命を絶った。


「お父様は……もしかして、自分で屍操魔法の支配を断ち切った……?」


 エドガーは何か引っかかるものがあるようで、少し間を置いてから口を開いた。


「……ああ、それだけじゃないんだ。ブライトは、ディアスがおやっさんを斬ったと言っていたよな?」


 アイテール帝国第一皇子、ディアス・エヌ・アイテール。

 エドガーの実兄であり、お父様やルシュフさんを殺したという男だ。


「それが、どうかしたの?」


「ディアスは……アイテール帝国に封印され、歴史から抹消されたはずの禁断の聖剣、虚空剣ヴァニタスを目覚めさせたとブライトは言っていた。そうしてディアスがおやっさんを倒すには、虚空剣ヴァニタスの力で無ければ倒せる筈がない」


 虚空剣ヴァニタス、封印されてきたと言う事は、それほどに強い聖剣なのだろう。

 確かに、あのお父様が簡単に倒される筈がない。

 それも、光竜剣ルミナセイバーに選ばれし勇者でもない限り……


「でも……虚空剣ヴァニタスだから、どうしたの?」


「虚空剣ヴァニタスに斬られた者は、その肉体から魂も魔力も、全てが無に帰す。矛盾してるんだよ、ヴァニタスで斬られたのなら、おやっさんの意識が戻る筈がない。だから……おやっさんを殺したのは、ディアスでは無いかもしれない」


 そんな……それでは、ブライトがディアスに罪を着せようと嘘をついているのだろうか?

 しかし、サーナはルシュフさんがディアスに殺されるところを、実際に目撃している様子だった。


 この件にディアスが絡んでいる事は、間違いないかもしれない。

 それでも……


「お父様を殺した真犯人は……他にいる……?」


 仮にディアスが絡んでいるとしても、確実に協力者がいるだろう。

 それがブライトなのか、それとも他の誰かなのか……


 また一つ、謎が増えてしまった。


 それからエドガーは仕事に戻り、私も他に用はないので家に帰った。


 家に着くと、シャロが庭で草むしりをしていた。


「あ、おかえりベリィちゃん! ちょっとこの辺の草が伸びてきちゃったから、お手入れしてるんだ」


「ただいま、綺麗になったね」


 こんな細かいところにまで気を配れるなんて、シャロは本当に凄い。

 そうしてまた彼女の笑顔は、陽光のように眩しかった。


 シャロが少し休憩すると言うので、私達は二人で庭のベンチに腰掛け、前の道を折々通過する人達を眺めながら(ぼう)としていた。


 こうして、何も考えずにのんびりするのはいつ振りだろうか?


 お父様が死んでから、常に何かを考えたり、気持ちが沈むことが多くなったりして、気が付けばあっという間に時が過ぎて、今の生活にも慣れていた。


 私がここまで立ち直れたのも、あの時ベガ村でシャロと出会えたおかげだ。


「ねえ、シャロ」


「うん?」


 私はベンチの上に置かれたシャロの手をそっと握り、不思議そうな顔をしている彼女を見た。


「出会ってくれて、ありがとう」


「ベリィちゃん……!」


 シャロが居てくれたから、辛いことがあっても生きてこれた。

 シャロのおかげで、今日まで道を間違えずに進んで来れた。


 これを改めて本人に言うのは恥ずかしいけれど、それも全部込めて感謝を伝えたかった。


「シャロと初めて出会った日、私にはシャロが太陽に見えた。シャロの笑顔が、真っ暗な月を優しく照らす陽光みたいだった。あの時、一人じゃ何も出来なかった私を助けてくれて、嬉しかったんだ」


「な、なんか照れちゃうよ~! でも、こちらこそありがとう! アタシはね、元々こういう性分なんだ。お節介過ぎて鬱陶しいって言われちゃうこともあるけど、アタシは自分の手が届く限り、出来るだけ沢山の人達を助けたい。魔法は使えないけど、力持ちだから!」


 シャロの強さは、力だけじゃない。

 その心の優しさが、本当の強さなんだ。


「人助け、私も協力する。だから、これからもよろしくね」


「やったー! こちらこそだよ!」


 今日の太陽は、何だかいつもより眩しく思えた。

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