140.灼炎の鬼人
「ヒートブラスト!」
「ヒスイ突風斬り!」
俺とシルビアの同時攻撃で、グラトニュードラの首を狙う。
本来は胴体を狙うべきなのだろうが、今の状態ではとてもじゃないが斬れない。
ただでさえ硬い胴体を狙うまでに、幾つもの長い首が邪魔をしやがる。
「ぐっ……!」
首を一本斬ったかと思えば、直ぐに別の頭が邪魔をする。
シルビアはその頭に突き飛ばされ、地面へと落下して行く。
「シルビア!」
間に合わない……!
地面に叩き付けられそうになった彼女の身体が、ふわりと空中で留まる。
「ギリギリセーフですね!」
ブラストの風魔法だ。
「ブラスト、お前に感謝する!」
アイツ、最初に見たときよりも更に魔法が洗練されている。
この短期間で、相当な努力をしてきたのだろう。
「助かったよ、ブラスト!」
「いえ、支援は任せてください!」
俺だってそうじゃないか。
サラマンダーに託された灼炎剣ヒートルビーを、一日も早く使い熟す為に鍛錬してきた。
未だウルティマは使えないが、俺自身の蒼炎と合わせれば聖剣魔法の威力も上がる。
あのグラトニュードラを倒すには、恐らくウルティマしか無いだろう。
この場でウルティマが使えるのは、シルビアとヒスイのみ。
俺らで何とか隙を作って、シルビアにウルティマの機会を与えるんだ。
「シルビア、グラトニュードラの首は俺らに任せろ! お前のタイミングでウルティマを使え!」
「わかった、ありがとう兄ちゃん!」
幸い、鬼人の姿に変身している時は肉体もかなり丈夫になるから、多少無理をしてでも道をこじ開ける事が出来る。
記憶の祭壇で勝手に改造されたこの身体が、まさか役に立つとはな。
妖魔軍団の魔物達は、グラトニュードラを取り囲むように絶え間なく魔法を撃ち続けている。
奴らが魔力切れになる前に、何とか倒してやらないと。
「ヘルフレイム!」
全身に蒼炎を纏いながら、ヒートルビーの聖剣魔法も発動する。
「フレイミングバッシュ!」
グラトニュードラの攻撃を避けながら、狙いを定めた一本の首へと確実に刃を入れる。
こんな首ぐらい斬れなければ、ウルティマなんて一生使えない。
「どりゃああああああっ!」
蒼炎を纏った刀身で、グラトニュードラの太い首を一刀両断する。
まだだ、一本斬っただけでは時間が経つと再生されてしまう。
最初に斬った首は、既に再生されているのだから。
そうなる前に、俺が全ての首を斬り落として見せる。
「キイイイイィッ!」
刹那、俺の真横へと巨大な頭が迫る。
だがそんな事は関係ない。
「邪魔だクソッタレ!」
俺は炎を纏った切先を、奴の目玉に突き刺した。
「キィィィィィィィィィ!」
グラトニュードラは叫び声を上げながら、その首を激しくのたうち回らせている。
今がチャンスだ。
「カーディナルプロージョン!」
燃え盛る炎の中で、俺はその首を爆散させた。
「どうだ!?」
妖魔軍団の魔物達は、既に次の首へと狙いを集中させている。
「トルネードアロー!」
そこへブラストの矢が直撃し、首の半分が裂けた。
「サンキュー、みんな!」
大地を強く踏み込んだシルビアは、風どころかまるで閃光のような速度で上昇し、聖剣魔法も無しにその首を斬り落とした。
残るは二本、これなら俺だけでも抑え込めそうだ。
「シルビア、頼んだ!」
集中しているのか、彼女は声は出さずにその首だけを縦に振った。
シルビア、お前は俺の自慢の妹だ。
お前なら出来る。
だから、頼んだぞ。