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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
【完結編】黎明/月に吠える
197/220

幕間 ベル

 腹が減った。


 何て事はない、自然界で群れない魔物は常に飢えているものだ。


 強い魔物であれば良いが、現実は非情である。

 俺は弱い魔物で、共に暮らす仲間も居なかった。


 動きの遅い俺では、殆ど獲物を捕えることも出来ず、元よりその森には餌となるような生物が少ない。


 このまま俺は、子孫も残せず孤独に死にゆくだろうか?


 ああ、腹が減った。


 誰か、俺に食べ物をくれ。


 そうか、そうだ。

 人里へ行けば良い。


 人里であれば、きっと食べ物も沢山あるだろう。


 村人に見つからないよう、静かに行けばきっと平気だ。


 そう思い、俺は人里へと降りた。


 しかし、そこは既に廃村と化していたのである。


 当たり前のように食べ物など無く、餌となる生物の気配も無い。


 ここまでの移動に、どれほどの体力を消耗したのだろうか?

 もう動くことが出来ない。


 腹が……減った……


「スラッグですか。随分と弱っているようですねぇ」


 誰……だ……?


 視線を上げると、そこには貴族風な装いの魔族が立っていた。

 奴は俺の顔を無表情で覗き込んでいる。


 これだけ近くにいれば、食える。


 食わせ……ろ……


 直後、全身に激痛が走った。


 頭に何かを刺され、全身に膨大な魔力を流し込まれている。

 何だ、この力は……


「丁度いい。その欲望を解放し、私の為に使いなさい。そうすれば、沢山の食事を与えましょう」


 俺は腹が減っている。

 その為であれば、何でもやってやろう。


 俺の頭の中は、空腹に支配されていた。


 だが、本当は違ったらしい。


 俺は仲間が欲しかったのだ。

 そうして出会った、血肉に飢えた目の餓狼に。


 あの瞬間、奴は俺に共感したわけでも、憐んでいたわけでも無いのだろう。

 ただその境遇が、俺には同情出来てしまった。


 奴も苦しかったのだろう。

 きっと、一匹で寂しかったはずだ。


 だから、気付いて欲しかった。

 もうお前は一匹では無いだろうと。


 お前を使役する人族は、きっとお前のことを大切に思っている。


 それを受け入れ、主人に心を開くのだ。


 友よ、お前は生きろ。

 いつかその飢えが、満たされることを願っている。

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