幕間 ベル
腹が減った。
何て事はない、自然界で群れない魔物は常に飢えているものだ。
強い魔物であれば良いが、現実は非情である。
俺は弱い魔物で、共に暮らす仲間も居なかった。
動きの遅い俺では、殆ど獲物を捕えることも出来ず、元よりその森には餌となるような生物が少ない。
このまま俺は、子孫も残せず孤独に死にゆくだろうか?
ああ、腹が減った。
誰か、俺に食べ物をくれ。
そうか、そうだ。
人里へ行けば良い。
人里であれば、きっと食べ物も沢山あるだろう。
村人に見つからないよう、静かに行けばきっと平気だ。
そう思い、俺は人里へと降りた。
しかし、そこは既に廃村と化していたのである。
当たり前のように食べ物など無く、餌となる生物の気配も無い。
ここまでの移動に、どれほどの体力を消耗したのだろうか?
もう動くことが出来ない。
腹が……減った……
「スラッグですか。随分と弱っているようですねぇ」
誰……だ……?
視線を上げると、そこには貴族風な装いの魔族が立っていた。
奴は俺の顔を無表情で覗き込んでいる。
これだけ近くにいれば、食える。
食わせ……ろ……
直後、全身に激痛が走った。
頭に何かを刺され、全身に膨大な魔力を流し込まれている。
何だ、この力は……
「丁度いい。その欲望を解放し、私の為に使いなさい。そうすれば、沢山の食事を与えましょう」
俺は腹が減っている。
その為であれば、何でもやってやろう。
俺の頭の中は、空腹に支配されていた。
だが、本当は違ったらしい。
俺は仲間が欲しかったのだ。
そうして出会った、血肉に飢えた目の餓狼に。
あの瞬間、奴は俺に共感したわけでも、憐んでいたわけでも無いのだろう。
ただその境遇が、俺には同情出来てしまった。
奴も苦しかったのだろう。
きっと、一匹で寂しかったはずだ。
だから、気付いて欲しかった。
もうお前は一匹では無いだろうと。
お前を使役する人族は、きっとお前のことを大切に思っている。
それを受け入れ、主人に心を開くのだ。
友よ、お前は生きろ。
いつかその飢えが、満たされることを願っている。