ヘヴンズバグ⑥
当然ながら、多くの竜達が去ったこの世界の自然を、私だけで管理することは到底不可能だろう。
幸いにも、メトゥス大迷宮はアビスによって均衡が保たれ、ウィリディスの巨大樹もナーガによって管理されており、魔物達が凶暴化することは無い。
後は、人々に任せよう。
人がこの星の自然とどう向き合っていくのか、私はそれを見守るのみだ。
今の地球は、それで問題ないだろう。
最も、私に出来ることなど限られている。
人々が自然への恩を忘れたら、時折蝗害や旱魃を起こし、警鐘を鳴らす。
人々が悔い改めれば、翌年は豊年としよう。
私の力は、人々を含むこの星の全ての生命による信仰で、これから先の何百年、何千年と保たれて行く。
それを絶やさない為には、私自身がこの星の魔力と繋がり、人々からの信仰を得続ける必要がある。
その為に、私はフロース山の麓へと私の祭壇を作らせた。
私はここに眠るから、必ず信仰を絶やさぬようにとの約束も交わした。
本音を言えば、私は人が嫌いだ。
目先の利益の為に自然を淘汰し、弱い癖に姑息な手段で竜達を淘汰してきた。
それでも、この星はルシファーが愛していた。
ルシファーは人々が大好きだったから、彼女の大切なものを絶やすわけにはいかない。
生命が生きて行く上で、生物多様性は必要不可欠である。
私の役割は、それを守り続ける事。
自然界が均衡を崩さないように、観測し続ける事だ。
きっといつか、この星の自然を脅かす程の事態が起こるかも知れない。
もしも本当にそんな事が起きたら、私が命に替えても地球を守って見せる。
それまでは、ただひたすらに見守って行こう。
アビスやナーガとも、暫くお別れだ。
アビスには餞別として、マギアクリスタルを渡した。
私としては、不要なものを処分したかっただけなのだが、アビスは喜んでくれた。
最後にナーガと会った時、彼女は泣きながら私の事を抱きしめてくれた。
その温もりで、私も泣いてしまった。
ナーガ、愛している。
アビス、また沢山語り合いたい。
ルシファー、後は私に任せるのだ。
貴女の大切なものは、永遠に私が守り続けてみせる。