136.本当の愛
斬った首が地面へと転がり、倒れた身体は徐々に崩壊して行く。
メフィルによる強引な強化に身体が耐えられず、死ぬと肉体が消滅してしまうのだろう。
「うそ、アタシ……死ぬの……?」
まだ意識があるのか。
彼女は既に人では無く、別の存在に変えられていたのだ。
メフィル・ロロ、人の想いをどこまで踏み躙れば気が済むのだろうか?
「……ボクは昔、呪われた血の一族と言われる吸血鬼である自分の事が、嫌いだったんです」
キュウへと語りかける様にそう話しながら、ボクは地面に転がる彼女の首の横に座る。
「でも、ある人が教えてくれたんです。ボクは、ボク自身を愛してもいいんだって。キュウ、君も自分を愛してあげてください」
少し前までは、ボクもボク自身のことが嫌いだった。
もし生まれた環境が違えば、カルムさんやベリィさん達が居なければ、ボクもこうなって居たのかも知れない。
だから、彼女の事を放っておけないのだ。
「直ぐには難しいかも知れませんが、君は今日まで頑張って生きてきたと思うし、君だけは君を愛していて欲しいんです」
ボクが何を言ったところで、彼女には何一つ届かないかも知れないけれど、伝えたい事は伝えられた。
「……うっさい! アンタに何が分かんのよ! いや、死にたくない! 死にたくな———」
やがてキュウの姿は完全に崩壊し、跡形も無く消え去った。
いつかきっと、彼女が本当の愛と出会える事を願う。
「ルカ殿、すまない……」
「くっそー、最後の最後でぶっ倒れた……」
魅了の解けたビートさんとバーナさんが、謝りながらこちらに歩いてくる。
皆が無事で本当に良かった。
「いえ、一緒に戦ってくれてありがとうございました。この中の誰かが欠けていたら、勝てなかったと思います」
ボク達は平気だったけれど、他は大丈夫だろうか?
かなり距離が離れてしまったけれど、サーナさんや飛ばされたベリィさん達は?
シルビアさんの事も心配だ。
「念の為、周囲を調べろ」
ザガンさんが、使役するアンデッド達にそう指示を送っている。
一先ずこちらは片付いたから、直ぐにでも他へと加勢したほうが良いかも知れない。
「ポルカさん、ビートさん、バーナさん、三人は先にメフィストの所へ行ってください。ザガンさんも、後程そちらへ」
「ルカくんは?」
ボクの言葉に、ポルカさんがそう問い掛ける。
直ぐにでも向かった方が良いのだろうけれど、何だか胸騒ぎがするのだ。
「ボクは、一度寄りたいところがあるので。後で必ず向かいます」
「オッケー、向こうで待ってるね!」
ポルカさんは笑顔で言うと、ビートさんとバーナさんを連れて、戦いの音が響く方へと走って行った。
ボクも急ごう。