幕間 キュウ
幼い頃から、愛とは無縁の生活だった。
パパはアタシがまだ小さい時に家を出て行って以来戻ってこないし、ママは毎日アタシのことを叩いた。
ママは水商売をしていて、毎日大変なのは分かっていたから、大人しく良い子にしていたつもりだったのに。
多分、アタシのことは単なるストレスの吐口としか思っていなかったのだろう。
何度もママのことを殺そうと思ったけれど、ママが居なくなったら結局アタシは生きていけない。
だからと言って、アタシが死ぬのは嫌だ。
誰かに愛されたい。
そんな事を願ってしまう自分が、大嫌いだった。
14歳になった頃、遂にアタシは家出をした。
勿論、お金も無いし頼れる人だっていない。
だからアタシは、男に体を売って何とかお金を稼いできた。
幸いにも容姿には恵まれていたから、男達は困っているアタシを簡単に家へ泊めてくれる。
そうして各地を転々としているうちに、アタシはある男と出会い、彼から「うちの店で働かないか?」と誘われた。
いわゆる売春というものだったけれど、やることは今と変わらない。
適当に男達の相手をしていれば良いだけの話だ。
世間知らずなアタシは、彼からの提案を何の疑いもなく承諾してしまった。
それから彼の店で働いてきたが、仕事は案外と楽なもの。
時々酷い目に遭うこともあったけれど、そんな時は彼が慰めてくれたから、苦しいなんて感じたことはなかった。
こんな事を繰り返していくうちに、アタシと彼は恋仲になっていったのだ。
アタシにとって、初めての恋だった。
彼だけが、アタシに本当の愛をくれたのである。
そう、思っていた。
ある時、アタシは自分がもらうはずのお金が減っていることに気づいた。
元々そんなに大金ではなかったから、こんなものかと納得していたけれど、暫くこの仕事をしていると相場なんてものが分かってくる。
アタシだけが、明らかに少ない。
初めは彼にそれとなく伝えてはみたけれど、その度に体で慰められるばかり。
我慢ができなくなってキツく問い詰めたら、遂に彼はその本性を見せた。
反抗し始めたアタシのことが、用済みになったのだろう。
アタシは何か固いもので頭を殴られ、その薄れゆく意識の中で彼の話を聞いた。
やはり彼は、アタシを利用していただけだったのだ。
世間知らずで馬鹿なアタシのことを、金になる道具だとしか思っていなかった。
結局、アタシを愛してくれる人なんていない。
こんな事なら、もっと早く死ねばよかった。
そこで一度、アタシの意識は途絶えている。
目が覚めると、アタシはベッドの上に寝かされていた。
見覚えのない部屋の中、ベッドの横に誰かが座っている。
「お目覚めですか。具合はどうです?」
優しい声の主は、貴族のような風貌の男だった。
彼はどうやら魔族のようで、人族とは違い耳が尖っている。
「突然すみませんね、私はメフィル。あなたを捨てようとしていた男性がいたので、無視できずにあなたを助けました」
この時、アタシは彼がどうなったのかを真っ先に聞いた。
するとメフィルは
「抵抗してきたので、殺してしまいましたが……」
そう言って、アタシに謝ってきた。
これを聞いたアタシは、少なからずショックを受けた記憶がある。
あんなクズでも、アタシを愛してくれた人だ。
愛に飢え、性に飢えたアタシを、一瞬だけでも満たしてくれた。
だから、今度はきっとメフィルがそうなってくれる。
助けてくれたお礼として、アタシはメフィルに何でもすると約束したけれど、彼はとても紳士的で、体の関係を望まなかった。
そんなところも素敵だったのだ。
彼の為であれば、アタシは何でもしてみせる。
例えそれが、誰かを殺して欲しいと言う願いであったとしても。