132.おやすみ
シーパーとの戦いが終わった頃、空は既に暗くなり始めていた。
私は溢れ出す涙を拭い、辛うじて呼吸が出来ているだけのシーパーに歩み寄る。
「あなたは十分に頑張りましたよ。もう安心して、眠ってもいいですからね」
シーパーの頭をそっと撫でた後、私は彼の身体が徐々に崩壊し始めていることに気付いた。
「僕は……寝てもいい……のかな……」
掠れた声でそう言った彼に、私は優しく笑顔を向ける。
「ええ、ゆっくり寝てくださいね。おやすみなさい」
「……おやすみ……なさい」
そうして、シーパーは跡形も無く消滅して行った。
辺りを見ると、先程まで沢山居たはずの敵が全く見当たらない。
メフィストのいる位置から、随分と離れてしまったようだ。
「みなさん、周囲の状況確認を」
目を覚ましたカンパニュラ騎士団員達に、私はそう指示を出す。
「ってか団長よ、アンタさっきエキドナの血を飲んだっつってたよな? それ絶対ミアさんのやつだろ? なぁ、なんで? どゆことなの? きっっっっしょ!」
「あー待て誤解だ。違う、ミア殿の提案でな」
「うっわー、被害者に責任転嫁するオッサンきちぃー! こんにちは〜あたま大丈夫ですか〜? アンタってそんな趣味あったんだな〜。失望しました。もう団長を引退してください」
「話を聞け! 違うと言っているだろ!」
ああ、ひどい状況になっている。
初めに聞いたときは驚いたけれど、ジェラルドさんに事情があったことぐらいは想像していた。
今は、ルークさんを落ち着かせるべきだろうか?
「あ、あの……ルークさんその辺で……」
「大丈夫ですよ、知ってます。このクソ団長を揶揄っていただけなので」
えぇ……怖い……。
「お前……はぁ、もう疲れて怒る気にもならん。一応説明しておくとだな、ミア殿が俺に提案してくださったのだ」
ジェラルドさん曰く、蛇魔法は蛇型魔物の血を飲むことで、更に強化されるらしい。
それを知っていたミアさんは、ジェラルドさんへとご自身の血を少量分けたのだそうだ。
「なんだよ〜先に言えよ〜!」
「お前が話を遮ったからだろ! 全く……ヴェロニカ殿、申し訳ない。お見苦しいところをお見せしてしまったようで……」
ジェラルドさんは、そう言って私に深々と頭を下げてくださった。
「いえ、お気になさらず……! それよりも……」
そうして私は、未だ戦いの音が飛び交う遠くの空を見やる。
よくは見えないけれど、激しい戦闘になっているようだ。
ベリィ様やシャロさん、それにリタさんは、もう戻られたのだろうか?
「急ぐ必要がありそうだな」
ジェラルドさんの言葉に、私もルークさんも頷いた。
「ベリィ様……」
タイタスさんが、不安そうにそう呟く。
私もセシル様が心配だ。
「あっ、なんか姉さんの匂いが濃くなっているぞ! 姉さ〜ん!」
ルークさんがよく分からない事を叫んでから、大急ぎで駆け出して行く。
匂いで、分かるんだ……。
兎に角、まだ戦える私達は早急に加勢するべきだ。
「戻りましょう、向こうへ」
私達はそれぞれの軍に指示を出し、駆け足で向かって行った。