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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
【完結編】黎明/月に吠える
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131.乱咲の騎士

 眩しい光に照らされたようで、私は咄嗟に目を開ける。

 目の前に広がっていたのは、先程と変わらない戦場の風景だ。


「咲き誇れ、乱咲剣レイブロッサム……ローズセレナーデ」


 舞い上がった薔薇の花弁が、一斉に敵を切り裂いて行く。

 状況は把握した。

 私が倒すべきは、あの羊男だ。

 名は確か……シーパー。


「花魔法……? ヴェロニカさん!」


 ルークさんの、私を呼ぶ声が聞こえる。

 再び剣を構えた私は、更にレイブロッサムへと魔力を込めた。


「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございません。カンパニュラ騎士団長、ヴェロニカ・グリーンウッド、乱れ咲かせます」


 先ずは敵の能力を把握する。

 恐らく、一つは催眠魔法……あとは何か……


「ヴェロニカさん、奴は影魔法の幻術を使います! 滅茶苦茶に強化されているので、十分に見極める術が必要です!」


「ルークさん、ご助言頂き……ありがとうございます!」


 本体を見極めるには、何が必要か?

 鋭い観察眼……否、目に見えるものが全てとは限らない。

 感覚を研ぎ澄ませ、僅かな気配も見逃さず戦うには……あれを展開するべきか。


「フロース・オブ・カンパニュラ」


 全身に纏った魔力と繋がるように足元へ桜花模様の法陣が展開される。

 これは乱咲剣レイブロッサムの魔法ではなく、私自身の花魔法だ。


 レイブロッサムと同様に、私自身も花魔法の使い手である。

 フロース・オブ・カンパニュラは、一時的に全花魔法の威力を底上げ出来るのだ。

 全身の細胞一つ一つに魔力が廻るおかげか、感覚が鋭くなって敵の気配にも敏感になる。


 たとえ幻術で身を隠そうと、本体の気配は誤魔化せない。


「リコリスレクイエム」


 赤い炎のように舞い上がるリコリスの花弁が、見えない敵を一瞬で斬りつける。


「ぐっ……!」


 先程までルークさん達の戦っていた幻は消え、散った花弁の中からシーパーの姿が現れる。

 奴は傷を少しずつ再生しながら、私を睨み付けた。


「お前……なぜ分かっ———」


「リリーコンチェルト!」


 続けて発動させた聖剣魔法は、敵の弱点を見極める。

 赤い百合の花弁が示した場所へ、私は舞い踊る白い花弁と共にレイブロッサムの剣先を突き立てた。


「ぐはっ……!」


 私は、もう二度と大切な人達を失いたくは無い。

 その為に乱咲剣レイブロッサムを手に取った。


 だから———


「ヴェロ……ニカ……」


 ……あれ?

 ここは、どこ?


 嫌だ、お父様……!


 どうして、これはあの時の……


「い、いや……ああ、あああ……」


 大切な人が、目の前で殺された時の苦しみは、一生消えることは無い。


 また眠らされた……夢だ。

 落ち着け、私。


 目覚めれば良いだけだ……!


「くっ……!」


 目を開き、シーパーの左目をレイブロッサムで突く。


「私を……そんなに私を怒らせたいか!? この外道がッ!」


 突いた瞬間、シーパーの姿が煙のようになって消えた。

 幻術……眠った隙に逃げられたか。


「ヴェロニカ殿、後ろだ!」


 しまった、背後を———


「ロッククラッシュ!」


 私が振り返る瞬間、シーパーの身体はルークさんの地砕剣スモークエイクによって薙ぎ倒された。


 すかさず私はレイブロッサムを構え、その剣先に魔力を集中させる。


「フラワーラプソディ!」


 聖剣魔法がシーパーに直撃した……かに思えたが、それもやはり煙のように消えてしまう。


「目障りだ……ゆっくり眠れないじゃないか」


 虚空からシーパーの声が響くと、奴の姿が何体も地上に現れた。

 幻術による分身で、目眩しのつもりか。


「……もう、終わりにしましょう」


 怒りに身を任せてはいけない。


 彼の目の奥には、悲しみの色が見えた。

 きっと辛い事があったのだろう。

 苦しい思いをしてきたのだろう……。


「ヴェロニカさん、こっちは、片付いた!」


 ありがとうございます、ゴルゴンさん、オーク兵団と獣魔軍団の皆さん。

 後は、彼だけだ。


「法陣展開……」


 私の詠唱に合わせて、ルークさんとジェラルドさんも動き出す。


「グランドコラプス!」


 大地が砕かれた事で、現れた分身の殆どが消滅する。


「そこだ、見つけたぞ! アナコンダスクイーズ!」


 ジェラルドさんが、熱感知で本体を探し当ててくれた。

 これで、心置きなくウルティマを構築できる。


「クソッ、そもそも何故お前は眠らない!? 僕の催眠は、人族には有効なはずだぞ!」


 そう言えば、ジェラルドさんはずっと眠らずに戦っていたように見えた。

 シーパーの魔法が効かなかったのだろうか?


「戦いの前、偶然にもエキドナという魔物の血を飲んだ。おかげで、蛇魔法の威力も増しているぞ!」


 エキドナ……ミアさん……?

 なんで?

 余計なことを考えるのはやめだ。


「法陣展開!」


 私に続いて、ルークさんもスモークエイクのウルティマを構築し始める。


「満開に奏でよ———」

「大地を砕け———」


 彼もメフィル・ロロに利用されたのかも知れない。

 もし、そうなる前に救う事が出来たのであれば……彼をここで倒す必要など、無かったはずなのに。


「ふざけるな、離せっ! クソッ!」


 シーパーが激しく抵抗し、ジェラルドさんの拘束から抜け出しそうになる。


「そうはさせん!」


 奴の背後から、タイタスさんが抵抗する身体を押さえ付けた。


「タイタス殿、感謝するぞ! ボアコンストリクター!」


 二重に拘束されたシーパーは、苦しそうに踠いている。

 だが、これでもう逃げられることは無い。


「ブロッサムシンフォニー!」

「ワールド・エンド・クェイク!」


 同時に発動されたウルティマにより、二つの領域が交差する。


 砕かれた大地に花々が咲き乱れ、それを譜面として私は演奏を始めた。


「譜面が完成しました。第一楽章・シラユリ」


 大丈夫……


「第二楽章・レンゴク」


 私が必ず救うから


「第三楽章・アオバラ」


 だから、あなたの苦しみを私に教えて


「フィナーレ・サクラカゼ!」


 桜風に踊る音符の数々が、満開の優しさを奏でている。

 その中で、私は彼の記憶の片鱗に触れた。

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