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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
【完結編】黎明/月に吠える
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125.グリードナイツ

 結界の外側から続々とやってくる軍勢は、千を超えていた。


 団員の殆どは凶暴な魔物で構成されており、三軍団に分かれているらしく、それぞれが先頭の黒ローブに率いられている。


 グリードナイツって何だ?

 メフィルにそんな配下が居たなんて……


「彼らはグリードナイツ。欲望に飢えた魂に、私の創星魔法で力を与えた存在です」


 メフィストが話し終えた直後、グリードナイツの3人はローブを脱ぎ捨てた。


 それは人の姿をしていると思っていたけれど、皆それぞれ何かが違う。


 一人はスライムのような、大きなナメクジ に近い姿をしており、一人は兎のように長い耳の生えた淫魔に見える。

 そうして3人目は、頭に羊のようなツノが生えていた。


「ベル、キュウ、シーパー、邪魔者の処理は任せましたよ」


 今回の戦闘で、相手の数は予想出来ていなかった。

 魔物やアンデッドを使役して来る程度のことは考えていたけれど、まさか奴にこんな配下が居たなんて、誰が予想出来ただろうか?


「さあ、始めましょうか」


 嬉々としてそう言ったメフィストが、小指の欠けた右手を地面に当てる。

 まずい、発動される……!


「第十禁断魔法、新冥界秩序ニューアンダーワールドオーダー


 改変可能な魔力の許容量は、然程大きくはないはずだ。

 魔法を使え、魔法で相殺すれば———


「ッ!?」

「キュイッ!?」


 突如、メフィストとの距離が大きく開く。

 これは……しまった、移動させられる!


 私とルーナ、そうしてシャロは、ワームホールのような何かに吸い込まれて行く。


「やば、ベリィちゃんッ!」


 リタが手を伸ばし、私の腕を掴んできた。

 咄嗟の行動だったのだろう。

 彼女は私達と共に、先の見えない空間へと吸い込まれて行く。


「先に邪魔者を排除しておきたいので、後程またお会いしましょうか」


 遠ざかって行くメフィストは、確かにそう言っていた。

 魔力阻害に耐性を持たない私と、最大の脅威であるシャロを飛ばす事で、少しでも戦力を削ぎたいのだろう。

 その証拠に、私達が吸い込まれる直前になって、メフィルが姿を消していた。


 恐らく、こちら側にはメフィルがやって来る。


 幸いにもリタが来てくれた事により、魔力阻害は防ぐことが出来るだろう。

 とは言え、早急(さっきゅう)に戻らなければ皆が危険だ。


「メフィストッ! お前の思い通りにはさせないッ! 必ずお前を倒して、世界を救ってみせる!!」


 遠ざかる視界の先に映るメフィストに対し、私は精一杯の大声で叫ぶ。

 この声が届いているかも分からないけれど、必ず……この刃だけは、奴に届けてみせる。



 空間を抜けて落下した先は、シリウスの市街地であった。

 サーナの結界は町全体を覆っている為、ここも結界内である。

 あの結界には法陣改竄防止を施してあるけれど、先程のように新秩序を使われては、簡単に解除されてしまう可能性がある。

 早く向こうに戻って、サーナ達に加勢しなければ……


「おいおい、お前たった一人でよく私達を相手にしようと思えたな」


 私の横に着地したリタが、誰かに向けてそう話す。

 彼女が視線を向ける先に目をやると、既に魔法の発動しているメフィルの姿があった。


「制約解除。第二禁断魔法、ブラッディドール。第三禁断魔法、蠱魔。第四禁断魔法、蛇霊。さあ、いつまでその余裕を保っていられるでしょうね」


 メフィルの前に現れた三体の怪物からは、凄まじい悪意が放たれている。

 以前に見た時よりも、更に強化されているようだ。


「あーハイハイ、そーゆーの良いから。もう小細工は飽きたんだよ」


 リタは飄々とした態度を示しているが、その声色からは緊張感が伝わってくる。

 人族最強の剣士でも、強力な禁断魔法だけではなく創星魔法まで使える敵が相手では、お父様のミメシスを相手にした時よりも厳しい戦いになるだろう。

 それ程までに、今のメフィルは厄介なのだ。


「リタさん、アタシの黎明魔法なら、メフィルの魂を焼き尽くせます。一度斬った肉体が再生される事もない。だから、アタシがメフィルを斬ります!」


 この場において、最もメフィルの脅威となり得るのは、黎明魔法の使い手であるシャロだ。

 それに加えて、人族最強の剣士と魔王である私が居る。

 自信を持て、きっと大丈夫だ。


「頼もしいね、シャロちゃん。だったら、私はその道を全力で切り拓く!」


 リタの魔力が一瞬で昂ったかと思えば、凄まじい速度でメフィルの元へと移動した。


 彼女の標的は、奴の召喚した三体の怪物である。


 怪物達は迎え撃つ為に動き出すが、その動きがやけに遅い。

 否、違う。

 リタがあの三体に重力魔法をかけているのだ。

 一瞬で、しかも無詠唱……


 まさか、重力管理魔法の進化固有魔法、重力掌握魔法か……!


「トゥインクルス」


 ホロクラウスの天体魔法が、三体の怪物達へと同時に炸裂した……かに思えたけれど、寸前で怪物達に避けられたようで、攻撃は掠っただけであった。


 拘束の役割を果たしていた重力魔法(グラビロウル)が、メフィルによって解除されたらしい。


「チッ、やっぱり三体同時はムズいか」


 リタの視界にメフィルが入る限り、リバース・パノプティコンによって魔力阻害は発動されない。

 しかし今のメフィルは、創星魔法で法陣を改竄し、簡単に解除する事が出来てしまう。

 それだけであれば、予め法陣が刻み込まれた聖剣魔法は改竄されない上、一部の魔法は法陣を固定してある為、大きな支障は無い。


 問題は、先程メフィストにやられた新秩序(ニューオーダー)による魔力の改変だ。


 それを突破するには、新秩序の許容範囲を超える魔力で攻撃をする事。

 確実な方法は、やはりウルティマだけだろう。


「以前のようには行きませんよ。私と創星神メフィストは同一の存在であり、あなた方は神に牙を剥いているのです。何とも、罪深き者達なのでしょう……」


「自称神様が何か言ってら。ふざけんな残り滓、テメェのやってる事は神を冒涜する行為だ。他人の罪を責める前に、先ずは自分の罪でも懺悔しとけ。まあ、私達が無理にでも償わせてやるけどな。親友の仇、ここで取らせてもらうぞ」


 その通りだ。

 奴は絶対に許されない。

 みんなを守る為に、メフィル・ロロだけは倒さなければならないのだ。


「やってみなさい、出来るものなら……」


 やってやる。

 両手に握りしめた二つの剣に魔力を込め、私はメフィルを睨み付けた。

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