122.決戦計画
みんなと会うのは、久しぶりな気がする。
まさか、こんな形で再び集まる事になるとは……否、何となく分かっていた。
戦いは、まだ終わっていないのだから。
「ベリィちゃーん! サーナちゃーん! あ、ルーナちゃんもいる!」
いつも通りの元気な声で、シャロが私達の名前を呼びながら走って来る。
その声で、この場に居た皆の緊張が解れた。
「キュイキュイ〜!」
「久しぶりだね、シャロ! わっ!」
シャロは走って来たかと思えば、突然私とサーナに抱きついてくる。
これまでシャロとはずっと一緒に居たから、何日も会わなかったのは私としても寂しかった。
「二人とも会いたかったよぉ〜!」
相変わらずだな、シャロ。
「全く〜、なんか緊張ほぐれちゃったじゃん!」
サーナが、そう言ってアハハと笑った。
シャロの後から着いてきたシルビアとルカも、私達の様子を見て笑っている。
みんなが元気そうで良かった。
「お、結構集まってんねぇ!」
そう言いながらやって来たのは、リタである。
彼女は青い瞳で私を見ると、無邪気な笑顔を向けてきた。
シリウスの集会所に集まったのは、救出作戦の面々に加え、リタと魔王軍の軍団長3名、ディアス皇子、グレイ、カンパニュラオーク兵団のゴルゴン、そうしてサーナだ。
この作戦には、魔王軍3軍団とアストラ聖騎士団、カンパニュラ騎士団とオーク兵団、アイテール帝国ユニコーンナイツも参加する事になっており、これ迄で最も大規模なものになるらしい。
皆が揃ったところで、セシルがケイシーに車椅子を引かれながら正面へとやって来た。
それまで各々話していた皆が、一斉に静まり返る。
「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。この度、リタさんにご協力して頂き、メフィル・ロロの居場所を特定する事に成功致しました。そこで今回は、魔皇討伐作戦について、皆様にご説明する場を設けさせて頂いた次第です」
魔皇討伐作戦という言葉で、集会所内の空気が一気に変わる。
「此度の作戦に於いて、立案にご協力頂いた皆様は、前の席へとご着席をお願い致します。リタ・シープハードさん、ディアス・エヌ・アイテール様、ジェラルド・ローベルクさん、ヴェロニカ・グリーンウッドさん、エドガー・レトリーブさん、ベリィ・アン・バロルさん」
名前を呼ばれた私達は、セシルと並ぶように手前の席へと座る。
数日前、メフィルの居場所が分かったという報告を受け、私は急遽セシルに呼び出されたのだ。
その時、カンパニュラの集会所に集まったのが、今呼ばれたメンバーである。
今日は、その時に立てた作戦の説明会だ。
「それでは、皆様もご着席ください」
セシルの呼びかけで、各々が席に着く。
集まった面々を改めて見ると、何だか負ける気がしない。
否、絶対に負けない。
「それでは、決戦計画会議を始めます。これが、本当に最後の決戦となるかと思います。いいえ、必ずそうしましょう」
こうして、メフィル討伐における最後の会議が始まった。
「では先ず、こちらで予め決めさせて頂いた作戦の概要を、リタさんの方からご説明頂きます」
セシルの紹介で、リタは「よっこらせ」と声に出しながら、徐に椅子から立ち上がる。
隣に座っているのがディアス皇子であるにも関わらず、普段と変わらない様子だ。
「ご紹介に預かりました、シリウス自警団団長のリタです。堅苦しいのは苦手だ、とりあえず今回の作戦を大まかに話す」
リタは砕けた調子でそう言ってから、作戦の内容について話し始める。
「メフィルの居場所は特定した。場所はアストラ共和国領土内、メトゥス大迷宮付近の地下だ。この場所さぁ、過去の四精霊消失事件が起きた場所と同じなんだよね」
奴はずっとあの場所に居たのだ。
では、なぜこれまで見つからなかったのか?
「まあ、なんでこれまで見つからんかったかって言うと、魔法で閉ざされているっぽい。グレイの認識阻害ほど良いもんじゃ無いけど、外側からじゃ分からない程度だな」
リタのさり気ない言葉に、グレイが得意げな表情をする。
「ほんで、今回の作戦は超大人数なわけだけど、移動はベリィちゃんの大規模転移に任せる。負担が大きくなっちゃうけど、ごめんね」
リタの謝罪に対し、私は頭を振った。
「大丈夫、魔力は足りるから」
とは言え、あれほどの人数を転移させるのは初めてだから、多少の不安はある。
「よし、でも一気に全員で転移しちゃうと、魔力に気付かれて逃げられる可能性もあるんだよな。そこでサーナちゃんにやって欲しいのが、封じ込めの結界を張って欲しい」
不意に名を呼ばれたサーナが、ビクッとなって自分の顔を指差す。
「え、アタシ!?」
封じ込めの結界とは、リタが結界魔法の簡易結界を弄って生み出した魔法だ。
法陣さえあれば、サーナはその魔法を簡単にコピーすることが出来るし、女神であるサーナならば魔力消費の面でも心配がない。
「簡単だから平気だよ! あとでお手本見せるから、コピーしてみてね」
そこで、サーナの隣に座っていたシルビアが手を挙げた。
「はい、ルビちゃん」
「質問です。メフィルには魔力阻害があると思うんスけど、結界って魔力阻害で解除されることはないんスかね?」
シルビアの問いに、リタはうんうんと頷いてから答える。
「確かに、そう思えるね。でも、メフィルの魔力阻害が適用されるのはあくまで魔法の発動者のみ。奴の力は、既に発動された魔法には適用されないんだ。つまり、気付かれる前に結界を張れば良い。そんで、結界が出来上がったらその内側へと一気に転移! という感じ」
リタの答えに納得したようで、シルビアは「なるほど」と頷いていた。
サーナに張ってもらう結界は、内側からの移動や転移を阻害するものであり、外側からの侵入は可能なものだ。
そうすることで、多少なりとも魔法に割く労力を減らすことが出来る。
「んじゃ、次はベリィちゃんかな? よろしく!」
リタにそう言われて、私は慌てて椅子から立ち上がる。
「は、はいっ」
一先ず手元の文書に目を向け、内容を確認してから話し始めた。
「えっと、私からは地下への侵入について話すね。さっきリタが話した通り、メフィルは簡易的なカモフラージュの魔法をかけている。だから、普通にその場所に行っても地下への入り口は見つからない。そこで、シャロにやって欲しい事があるんだ」
私がシャロを見ると、彼女もサーナと似たような反応をした。
「うぇっ、アタシ!?」
なんか少し似ているな、あの二人。
「シャロが黎明魔法で分身のメフィルを倒した時、本体のメフィルも一時的に魔法が使えなくなる程のダメージを受けた。それは恐らく、黎明魔法による力だと思う。だから、シャロとグローライザーなら、メフィルの魔法を簡単に破れるはずなんだ」
これは、あの時シャロと一緒に戦っていた、ジェラルドとヴェロニカから聞いた話。
シャロはメフィルに向かって、黎明魔法は禁忌の魔力を焼き尽くす力だと言い放っていたらしい。
そうであれば、メフィルの魔法はシャロの力で攻略できる。
「わかった、任せて!」
「うん。よろしくね、シャロ」
それからは、私達で陣形とそれぞれの配置について説明をした。
細かい陣形はそれぞれの軍隊に任せるとして、こちらである程度のチーム分けをしたのである。
説明を終えると、最後にディアス皇子の言葉で締め括られた。
「メフィル・ロロは、まだ何かを仕掛けてくる可能性がある。しかし我々が負けることは決して無い。そう言い切れる程の精鋭達が、ここには集っているのだ」
彼は両拳を握り、力強い声で話している。
「皆を帝国と魔皇の因縁に巻き込んでしまった事、大変申し訳ないと思っている。だが、ワタシには皆の力が必要なのだ。どうか最後まで、共に戦って欲しい」
ディアス皇子は、そう言って頭を下げたのだ。
次期皇帝である彼が、他国の民に向けて……
「水臭い事言わないでくださいよ〜、ディアス皇子。私達は、私達の意思で此処にいるんだ」
リタは明日から立ち上がり、ディアス皇子の元まで行くと彼の肩にポンと手を置いた。
あの方にそんな事が出来るのは、恐らく彼女と父親のクロード陛下だけだろう。
そうだ、私達は自分の意思で此処に立っている。
だから……
「これは、帝国だけの戦いじゃないよ。私たちの戦いなんだ」
「キュイッ」
私の言葉に、ディアス皇子は力に満ちた目で頷いた。
決戦の時が、刻一刻と近付いている。
*
その日の夜は、ルーナとサーナも含めてシャロ達と食事をした。
皆が知り合いとは言え、人前で話すのは緊張して疲れた。
これからは、そういう機会も増えるんだろうな。
しっかり練習しておかないと。
「見て、シャロ! 魔剣グリムセイバー!」
「キュイッ!」
私はガスタに作ってもらった自分専用の剣を、シャロ達に見せびらかす。
「わー! かっこいい!」
これを持っていると、まるで本物の勇者になったみたいで、凄く勇気が湧いてくる。
今日は久しぶりにみんなと会ったからか、柄にも無く少しだけはしゃいでしまった。
「ベリィも二刀流だな〜、あーしが教えたげよっか?」
シルビアがそう言って、得意げな顔をする。
確かに、ロードカリバーとグリムセイバーの二刀流は有りだ。
「いいの? 教えて貰えたら助かる!」
「うん、まあ型がそもそも違うからざっくりだけど、ベリィなら平気っしょ。任せて!」
二刀流か……剣が大きいから大変そうだけれど、習得すればこれまで以上に上手く立ち回ることが出来るだろう。
ちょうど仕事も一段落ついた所だから、二刀流の練習に集中するのも良いかも知れない。
決戦の日までにもっと強くなって、必ずメフィルを倒してみせる。
この仲間達と、必ず。