表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
【完結編】黎明/月に吠える
173/220

122.決戦計画

 みんなと会うのは、久しぶりな気がする。

 まさか、こんな形で再び集まる事になるとは……否、何となく分かっていた。

 戦いは、まだ終わっていないのだから。


「ベリィちゃーん! サーナちゃーん! あ、ルーナちゃんもいる!」


 いつも通りの元気な声で、シャロが私達の名前を呼びながら走って来る。

 その声で、この場に居た皆の緊張が解れた。


「キュイキュイ〜!」

「久しぶりだね、シャロ! わっ!」


 シャロは走って来たかと思えば、突然私とサーナに抱きついてくる。

 これまでシャロとはずっと一緒に居たから、何日も会わなかったのは私としても寂しかった。


「二人とも会いたかったよぉ〜!」


 相変わらずだな、シャロ。


「全く〜、なんか緊張ほぐれちゃったじゃん!」


 サーナが、そう言ってアハハと笑った。

 シャロの後から着いてきたシルビアとルカも、私達の様子を見て笑っている。

 みんなが元気そうで良かった。


「お、結構集まってんねぇ!」


 そう言いながらやって来たのは、リタである。

 彼女は青い瞳で私を見ると、無邪気な笑顔を向けてきた。


 シリウスの集会所に集まったのは、救出作戦の面々に加え、リタと魔王軍の軍団長3名、ディアス皇子、グレイ、カンパニュラオーク兵団のゴルゴン、そうしてサーナだ。

 この作戦には、魔王軍3軍団とアストラ聖騎士団、カンパニュラ騎士団とオーク兵団、アイテール帝国ユニコーンナイツも参加する事になっており、これ迄で最も大規模なものになるらしい。


 皆が揃ったところで、セシルがケイシーに車椅子を引かれながら正面へとやって来た。

 それまで各々話していた皆が、一斉に静まり返る。


「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。この度、リタさんにご協力して頂き、メフィル・ロロの居場所を特定する事に成功致しました。そこで今回は、魔皇討伐作戦について、皆様にご説明する場を設けさせて頂いた次第です」


 魔皇討伐作戦という言葉で、集会所内の空気が一気に変わる。


「此度の作戦に於いて、立案にご協力頂いた皆様は、前の席へとご着席をお願い致します。リタ・シープハードさん、ディアス・エヌ・アイテール様、ジェラルド・ローベルクさん、ヴェロニカ・グリーンウッドさん、エドガー・レトリーブさん、ベリィ・アン・バロルさん」


 名前を呼ばれた私達は、セシルと並ぶように手前の席へと座る。

 数日前、メフィルの居場所が分かったという報告を受け、私は急遽セシルに呼び出されたのだ。

 その時、カンパニュラの集会所に集まったのが、今呼ばれたメンバーである。

 今日は、その時に立てた作戦の説明会だ。


「それでは、皆様もご着席ください」


 セシルの呼びかけで、各々が席に着く。

 集まった面々を改めて見ると、何だか負ける気がしない。

 否、絶対に負けない。


「それでは、決戦計画会議を始めます。これが、本当に最後の決戦となるかと思います。いいえ、必ずそうしましょう」


 こうして、メフィル討伐における最後の会議が始まった。


「では先ず、こちらで予め決めさせて頂いた作戦の概要を、リタさんの方からご説明頂きます」


 セシルの紹介で、リタは「よっこらせ」と声に出しながら、(おもむろ)に椅子から立ち上がる。

 隣に座っているのがディアス皇子であるにも関わらず、普段と変わらない様子だ。


「ご紹介に預かりました、シリウス自警団団長のリタです。堅苦しいのは苦手だ、とりあえず今回の作戦を大まかに話す」


 リタは砕けた調子でそう言ってから、作戦の内容について話し始める。


「メフィルの居場所は特定した。場所はアストラ共和国領土内、メトゥス大迷宮付近の地下だ。この場所さぁ、過去の四精霊消失事件が起きた場所と同じなんだよね」


 奴はずっとあの場所に居たのだ。

 では、なぜこれまで見つからなかったのか?


「まあ、なんでこれまで見つからんかったかって言うと、魔法で閉ざされているっぽい。グレイの認識阻害ほど良いもんじゃ無いけど、外側からじゃ分からない程度だな」


 リタのさり気ない言葉に、グレイが得意げな表情をする。


「ほんで、今回の作戦は超大人数なわけだけど、移動はベリィちゃんの大規模転移に任せる。負担が大きくなっちゃうけど、ごめんね」


 リタの謝罪に対し、私は(かぶり)を振った。


「大丈夫、魔力は足りるから」


 とは言え、あれほどの人数を転移させるのは初めてだから、多少の不安はある。


「よし、でも一気に全員で転移しちゃうと、魔力に気付かれて逃げられる可能性もあるんだよな。そこでサーナちゃんにやって欲しいのが、封じ込めの結界を張って欲しい」


 不意に名を呼ばれたサーナが、ビクッとなって自分の顔を指差す。


「え、アタシ!?」


 封じ込めの結界とは、リタが結界魔法の簡易結界を弄って生み出した魔法だ。

 法陣さえあれば、サーナはその魔法を簡単にコピーすることが出来るし、女神であるサーナならば魔力消費の面でも心配がない。


「簡単だから平気だよ! あとでお手本見せるから、コピーしてみてね」


 そこで、サーナの隣に座っていたシルビアが手を挙げた。


「はい、ルビちゃん」


「質問です。メフィルには魔力阻害があると思うんスけど、結界って魔力阻害で解除されることはないんスかね?」


 シルビアの問いに、リタはうんうんと頷いてから答える。


「確かに、そう思えるね。でも、メフィルの魔力阻害が適用されるのはあくまで魔法の発動者のみ。奴の力は、既に発動された魔法には適用されないんだ。つまり、気付かれる前に結界を張れば良い。そんで、結界が出来上がったらその内側へと一気に転移! という感じ」


 リタの答えに納得したようで、シルビアは「なるほど」と頷いていた。

 サーナに張ってもらう結界は、内側からの移動や転移を阻害するものであり、外側からの侵入は可能なものだ。

 そうすることで、多少なりとも魔法に割く労力を減らすことが出来る。


「んじゃ、次はベリィちゃんかな? よろしく!」


 リタにそう言われて、私は慌てて椅子から立ち上がる。


「は、はいっ」


 一先ず手元の文書に目を向け、内容を確認してから話し始めた。


「えっと、私からは地下への侵入について話すね。さっきリタが話した通り、メフィルは簡易的なカモフラージュの魔法をかけている。だから、普通にその場所に行っても地下への入り口は見つからない。そこで、シャロにやって欲しい事があるんだ」


 私がシャロを見ると、彼女もサーナと似たような反応をした。


「うぇっ、アタシ!?」


 なんか少し似ているな、あの二人。


「シャロが黎明魔法で分身のメフィルを倒した時、本体のメフィルも一時的に魔法が使えなくなる程のダメージを受けた。それは恐らく、黎明魔法による力だと思う。だから、シャロとグローライザーなら、メフィルの魔法を簡単に破れるはずなんだ」


 これは、あの時シャロと一緒に戦っていた、ジェラルドとヴェロニカから聞いた話。

 シャロはメフィルに向かって、黎明魔法は禁忌の魔力を焼き尽くす力だと言い放っていたらしい。

 そうであれば、メフィルの魔法はシャロの力で攻略できる。


「わかった、任せて!」


「うん。よろしくね、シャロ」


 それからは、私達で陣形とそれぞれの配置について説明をした。

 細かい陣形はそれぞれの軍隊に任せるとして、こちらである程度のチーム分けをしたのである。


 説明を終えると、最後にディアス皇子の言葉で締め括られた。


「メフィル・ロロは、まだ何かを仕掛けてくる可能性がある。しかし我々が負けることは決して無い。そう言い切れる程の精鋭達が、ここには集っているのだ」


 彼は両拳を握り、力強い声で話している。


「皆を帝国と魔皇の因縁に巻き込んでしまった事、大変申し訳ないと思っている。だが、ワタシには皆の力が必要なのだ。どうか最後まで、共に戦って欲しい」


 ディアス皇子は、そう言って頭を下げたのだ。

 次期皇帝である彼が、他国の民に向けて……


「水臭い事言わないでくださいよ〜、ディアス皇子。私達は、私達の意思で此処にいるんだ」


 リタは明日から立ち上がり、ディアス皇子の元まで行くと彼の肩にポンと手を置いた。

 あの方にそんな事が出来るのは、恐らく彼女と父親のクロード陛下だけだろう。


 そうだ、私達は自分の意思で此処に立っている。

 だから……


「これは、帝国だけの戦いじゃないよ。私たちの戦いなんだ」

「キュイッ」


 私の言葉に、ディアス皇子は力に満ちた目で頷いた。

 決戦の時が、刻一刻と近付いている。


        *


 その日の夜は、ルーナとサーナも含めてシャロ達と食事をした。

 皆が知り合いとは言え、人前で話すのは緊張して疲れた。

 これからは、そういう機会も増えるんだろうな。

 しっかり練習しておかないと。


「見て、シャロ! 魔剣グリムセイバー!」

「キュイッ!」


 私はガスタに作ってもらった自分専用の剣を、シャロ達に見せびらかす。


「わー! かっこいい!」


 これを持っていると、まるで本物の勇者になったみたいで、凄く勇気が湧いてくる。

 今日は久しぶりにみんなと会ったからか、柄にも無く少しだけはしゃいでしまった。


「ベリィも二刀流だな〜、あーしが教えたげよっか?」


 シルビアがそう言って、得意げな顔をする。

 確かに、ロードカリバーとグリムセイバーの二刀流は有りだ。


「いいの? 教えて貰えたら助かる!」


「うん、まあ型がそもそも違うからざっくりだけど、ベリィなら平気っしょ。任せて!」


 二刀流か……剣が大きいから大変そうだけれど、習得すればこれまで以上に上手く立ち回ることが出来るだろう。

 ちょうど仕事も一段落ついた所だから、二刀流の練習に集中するのも良いかも知れない。


 決戦の日までにもっと強くなって、必ずメフィルを倒してみせる。

 この仲間達と、必ず。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ