ヘヴンズバグ②
ファウナ、そう付けられた名前と共に、私には魔物としての種族が割り振られた。
どうやら、私はファラエナという魔物らしい。
ルシファーは多くの魔物達を従えていて、奇しくも私だけが彼女の眷属支配から外れていたようだ。
私は、ルシファーから言葉を学んだ。
彼女には既に夫がいて、その彼も優しく、私達に色々なことを教えてくれた。
言語を理解出来る魔物は、竜種以外では私が初めてだったようで、ルシファーはそれが嬉しそうだった。
そんな彼女の喜ぶ顔が見たくて、私は必死に言葉を覚えた。
ある時、ルシファーが大切に持っている何かの卵に、小さな罅が入っていた。
彼女が言うには、月から地球へとやって来る時、一緒に落ちてきたものだそうだ。
その罅は少しずつ大きくなり、軈て中から小さな命が誕生した。
それはトカゲのようだったが、額には三日月のような模様があり、キュイキュイと産声を上げている。
ルシファーは、これを竜だと言っていた。
そうして彼女は、その竜には月光竜ルーナと名付ける。
更にルーナの産声に呼応するかのようにして、世界中から10体の竜がルシファーの元にやって来たのだ。
竜達は新たな竜の誕生を祝福し、私は初めて会う竜種を恐れていたが、彼らは優しく接してくれた。
特に親しく接してくれたのは、樹竜ナーガである。
言葉が話せるようになった私は、皆と話すことが何よりも楽しかったのだ。
竜達が帰る頃、私は寂しくて大泣きしてしまった。
泣きながらナーガの脚にしがみついて離れなかった私に、彼女はこう言ったのである。
「また会いに来る。次は妾の元へ遊びに来ると良い」
絶対に約束だからね。
そう言って、私は新たに出来た友達と別れたのであった。
それからルーナは成長したが、キュイキュイと鳴くだけで、私や他の竜のように言葉を話す事は出来ないようだった。
それでも言葉は理解しているようで、時折ルシファーや私の会話へと、相槌を打つようにキュイと鳴く。
私はそんなルーナのことが可愛くて、沢山の時間を共に過ごした。
しかし、幸せはそう長くは続かない。
ルシファーが二人の子供を産んでから暫く経った頃、遂に彼女は倒れた。
元々、この星にやって来た時から弱っていたルシファーは、遂に限界が来たのだ。
そうして、彼女は安らかに———
息を引き取った。