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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
【完結編】黎明/月に吠える
169/220

幕間 勇者として

 あの瞬間、俺は全てを悟った。

 ディアスが……否、兄貴が何をしようとしているのか。

 何の為に、今日まで悪の道化を演じて来たのか。


「見ていろ、ユーリ。ワタシの悲願が果たされるその光景を……!」


 あの時の目は、今でも鮮明に覚えている。

 俺は何も、光竜剣ルミナセイバーに選ばれた者だけが勇者であるとは、微塵も考えていない。


 おやっさんの言う通り、大切な人や大切なものを守れるのであれば、誰であろうと勇者になれる。

 誰もが誰かにとっての勇者だ。


 だから俺には、あの時の兄貴が本当の勇者に見えた。


 ただ……それで全てを水に流したわけでは無いのも事実である。


「ユーリ、少し良いか?」


 自警団へと来ていた兄貴が、見回りに出ようとしていた俺を呼び止める。

 ウルフの方に目を向けると、奴は笑顔で親指を立てて見せた。


「オレ先に行ってっから、ゆっくり話しとけよ」


「ああ、悪いな」


 そう言って見回りに出ていったウルフを見送り、俺と兄貴は中庭のベンチに腰掛ける。


 事情があって敵対していたとは言え、今でも二人きりになるのは気まずい。

 俺の中にある兄貴への(わだかま)りは、まだ消えてはいないのだ。


「今更、ワタシの事を許してくれ等とは言わない。お前が帝国を恨む気持ちは、きっと消えてはいないだろう。だが、もしもまたやり直せるのであれば……帝国に戻ってこないか?」


 恨みはもう無い。

 俺は元より兄貴が嫌いな訳では無かったし、不満はあの親父にある。


「戻る気は無ぇよ。そもそも、親父は俺の事が嫌いなんだろ。今更俺が帰ったところで、何になるんだよ」


 まるで俺の事を自分の子供として見ていないような、あの冷酷な目。

 奴は兄貴に対して、そんな目をした事は一度たりとも無かった。


 そうなったのは、いつからだろうか?

 俺がガキの頃、親父はもっと優しい人だった記憶がある。


 奴も、メフィルに人生を狂わされたのだろうか?


「父上がお前を相手にしなかったのは、お前を巻き込みたくは無かったからだ。だから、お前が帝国を出て行くと言った時も、引き止める事も咎める事すらもしなかった。ユーリ、父上はお前の事も愛しているよ」


 そうだったのか……いや、俺自身も既に気付いていたはずだった。

 そう信じていたからである。

 肉親から負わされた深い心の傷と同時に、家族を信じていたいという気持ちがあったのだ。


 過去は消えない。


 それでも、漸く……信じて良いと思えるようになったんだ。


「俺は……俺は今でも、アンタの家族で良いのかな……?」


 これまで溜め込んできた苦しみが濁流のように押し寄せ、瞼からボロボロとこぼれ落ちて行く。


「ああ、勿論だ」


 そう言って、兄貴は優しく微笑む。


 これまでずっと、怒りの感情で本音を押し殺して来た。

 怒りだけが、俺の生き方を肯定してくれた。


 だが、ベリィと出会って俺も変わったらしい。

 勇者として、大切な人達を守る為に戦う事の大切さを、彼女は俺に思い出させてくれたのだ。


 ベリィ、お前は俺にとっての勇者だよ。


 兄貴の前で、俺は年甲斐も無く泣いてしまった。

 暫く嗚咽が収まらずにいたが、その間も兄貴はずっと俺の横で黙って座っていた。


 ルミナセイバーも、この時は一言も発さなかった。


「さっきの話だけど、俺は遠慮しておくよ」


 俺の言葉に、兄貴はゆっくりと頷く。


「そうか」


 帝国に帰れば、俺はまた第二皇子としての地位に戻ることが出来るだろう。

 だが、今の俺にはもっと大切な居場所がある。


「俺はエドガー・レトリーブ、シリウス自警団の団員で、世界の均衡を守る勇者だ。でも……親父には一度会いに行かせて貰うよ」


「分かった。ワタシはユーリの選んだ道を尊重しよう」


 シリウス(ここ)で出会った仲間達と、俺はこれからも、大切を守る為に生きて行くのだ。

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