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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
【完結編】黎明/月に吠える
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118.マギアクリスタル

 どうやら、最近ルカの具合があまり良くないらしい。


 原因は、何故か彼の元に度々現れる虚空剣ヴァニタスだ。

 私は彼に「ディアス皇子に相談してはどうか?」と提案し、今はそのディアス皇子を待っている。


 暫くすると、部屋のドアがガチャリと開き、ディアス皇子と一人の付き人が入ってきた。

 こちらにはウールとグレイも一緒にいるので、室内には合計6人が居ることになる。


「お待たせしてすまなかったね。君が、ルカ・ファーニュ君か」


「いえ、この度は貴重なお時間を取らせてしまい申し訳ございません! 改めまして、ルカ・ファーニュと申します。本日はよろしくお願い致します!」


 ルカは椅子から立ち上がると、深々と頭を下げて挨拶した。

 目に見えて緊張しているのが分かる。


「そんなに硬くならなくても良い、くつろいで座っていてくれたまえ。それで、話とは何かな?」


 ディアス皇子は椅子に腰掛けると、優しい笑顔でそう問い掛ける。

 ルカも椅子に座り、最近度々現れる虚空剣ヴァニタスの事について全てを話した。


 ディアス皇子は黙って聞いていたが、ルカが話し終えてからゆっくりと口を開く。


「ワタシは、虚空剣ヴァニタスの資格者では無いから、あまり詳しい事は分からないが……あの聖剣が危険なのは確かだ。半神ヘロディスの聖剣で、最も恐ろしいと言っても過言では無いだろう。あの剣を握っていると、精神を飲み込まれそうになる」


 ディアス皇子は恐れるように目を瞑り、テーブルの上で組んだ拳を強く握り締めると、更に話を続けた。


「しかし聖剣である事に変わりはない。恐らく、あの剣は他の物よりも強い自我を持っているのだろう。否、飢えと言うべきか。奴が君の前に現れたのは、やはり君の事を資格者に選ぶか迷っている可能性が高い。確か、君は吸血鬼とのクォーターだったかな?」


 ディアス皇子の問いに、ルカがコクリと頷く。


「はい、ロスヴァリスに移り住んだお祖父様、ロディ・ツェペシュ・ヴァレンタインの孫です」


 そう言えば、ルカの家族について詳しく聞いたことが無かった。

 お祖父さんの名は、ロディ・ツェペシュ・ヴァレンタインと言うのか。

 ……あれ、ではファーニュという姓は?


「なるほど。ところで、君のファーニュという姓は、お父上のものかな?」


 ディアス皇子がそう訊くと、ルカが頭を振って否定する。


「いえ、これはかつてお世話になった人族の、恩人のものです。ボクの本当の名は、ルカ・ツェペシュ・ヴァレンタイン。長いので、恩人から頂いたファーニュを名乗っています。その方が、人族の町では怪しまれないので……」


 そういう事だったのか。

 確かに、もしロスヴァリスの歴史を知る者がいた場合、このヴァレンタインという姓で吸血鬼という事が分かってしまう可能性だってある。

 彼は人族の姓を名乗る事で、それを上手く回避して来たのだ。


「なるほどな、その件については秘匿しておこう。実は先程、吸血鬼と虚空剣ヴァニタスに関連があるかを調べてみたのだ。結論としては、特に関係性は見留められなかった。しかし、ヴァニタスはある特性を持っている」


 ヴァニタスの特性……魂を消滅させるだけでは無いのか?


「一つは、斬った者の魂を消滅させる事。もう一つは、刃に触れた血を吸収する事だ。ワタシ自身、ヴァニタスの刃に触れずとも、奴の吸血衝動を肌で感じた事がある。しかし君の自在に操ることの出来る血と合わせれば、更に強力な力を発揮出来るはずだ。虚空剣ヴァニタスは、それを考えた上で君を選ぼうとしているのだろう」


 そんな危険な能力を持った聖剣を、これまでディアス皇子はずっと使い続けていたのか……?

 全ては、メフィルを倒すという一つの目的の為だけに……やっぱり、永きに亘る意志を紡いできた帝国の皇子は凄い。


「なるほど……分かりました。ヴァニタスがボクを選ぼうとしているのであれば、ボクはそれを受け入れようと思います。色々と教えて頂き、ありがとうございました!」


 安心したのか、ルカの表情は少し明るくなっていた。

 その様子を見て、ディアス皇子も優しく微笑む。


「聖剣というものは、元々マギアクリスタルという鉱石によって、半神ヘロディスが作ったものらしい。マギアクリスタルの詳細については分からないが、女神降臨と同時にこの星の鉱石が変異したものとも言われている。他と同じように作られたものである以上、未知の危険を秘めている可能性は低いはずだ」


 マギアクリスタル……?

 それって……


「ねえ、マギアクリスタルってこれの事?」


 私はアビスと初めて会った時に貰った、あの鉱石をポケットから取り出してみせる。

 確かアビスは、これをマギアクリスタルと呼んでいた。


「それは……!」


 ディアス皇子は目の色を変え、私の持つクリスタルをじっくりと観察し始める。


「ワタシも実物を見たことは無いが、文献にあった通りだ。ベリィ様、これをどこで……?」


「アビスに貰ったの。アビスは、魔物の女王から貰ったと言っていたけれど」


 私の話に、ディアス皇子は妙に納得した様子で、軽くため息を吐きながら頷いてみせた。


「そうか、ファラエナ・レギーナは女神ルシファーと深い関わりを持っている。きっと彼女から貰い受けたマギアクリスタルを、自分には必要が無いからと友であるアビスガードに渡したのだろう」


 そう言えば、ファウナが必要無いからと言って貰ったのだと、アビスが話していた。

 これは聖剣の材料だったのか……という事は、これがあれば聖剣を作る事が可能かも知れない。


 簡単な事とは思わないけれど、試してみる価値はありそうだ。

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