幕間 忍び寄る虚空
時々、視界の端に何かが映るようになった。
あの時からだ。
メフィル・ロロを倒し、ディアス皇子の元から虚空剣ヴァニタスが消えて以降、それが度々ボクの前に現れるようになった。
あの聖剣が何を望むかなんて分からないが、剣に浮かぶ蒼月は、まるでボクを品定めしているかのように見える。
「……ボクに何か?」
警戒して問い掛けてはみたものの、そちらを振り向いた時には既に消えていた。
こんな事が続くせいか、最近は心身ともに休まらない。
あの聖剣が、仮にボクを資格者として選ぼうとしているのであれば、流石に陰湿過ぎる。
この話を、ボクはベリィさんに相談する事にした。
ベリィさんになら、どんな話でも相談出来る。
「え、虚空剣ヴァニタスが?」
「そうなんです……おかげで、最近少し疲れてしまって……」
そうして考え込むベリィさんと一緒に、ルーナさんとロスヴァリスのコボルト達が首を傾げるような仕草をする。
「ヴァニタスは確かに危険な力を持つ聖剣だけど、ヘロディスが作った聖剣という事に変わりは無い。だから、きっと悪さをするような子では無いと思うの。やっぱり、ルカの事を資格者として選んだのかな?」
ベリィさんの言う通り、時折姿を見せるヴァニタスからは、悪意のようなものは一切感じられない。
ただ、ボクを観察しているだけのような、じっとりとした視線だけを感じるのだ。
「まあ、一先ずディアス皇子に相談してみる? 元所有者だし」
「そう、ですね。そうします、ありがとうございます」
どの道、ボク一人でどうにか出来る事ではない。
悪いものなんて無いのかも知れないけれど、ボク自身ヴァニタスの事を殆ど知らないから、ディアス皇子に聞いておく必要はあるだろう。
人族や魔族、魔物達だけでなく、聖剣とも友になれるだろうか?