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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
【完結編】黎明/月に吠える
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117.アルブ復興計画

 休暇を終えた後、シリウスに帰ってからは、アルブ王国の再建について事を進めていた。


 主な話し合いは、ルシュフさんとウール、そうしてディアスが既に決めていてくれたけれど、一先ずアルブは王政を崩さず、私を魔王として擁立してくれる形になったらしい。


 本来であれば、私も話し合いには加わるべきだったのだけれど……


「これから忙しくなりますから、ベリィ様はゆっくりと休まれてください」


 と、ルシュフさんがそう言ってくれたので、シャロやサーナ達との時間を過ごしたいのもあり、お言葉に甘えさせて貰っていたのだ。


 そうして今、私はシリウスの刑務所に居る。

 目的は、ザガンとの面会だ。


「こんにちは、思ったより元気そうで良かった」


 私の挨拶に、牢の中のザガンは顔を上げる。


「今更何の用だ、ベリィ・アン・バロル」


 あまり抑揚のない口調だけれど、彼の表情は以前と比べて、僅かながら明るいように見えた。


「いや、あなたの身柄を引き取ろうと思って」


 私の言葉を聞いたザガンは、一瞬戸惑ったような顔をする。


 ジェラルドや教会と話し合った結果、彼の身柄のみこちらに引き渡して貰える事になったのだ。

 今後、彼をどうするかの決定権は私にある。


「……そうか」


 もっと色々訊かれるかと思ったけれど、案外すんなりと受け入れて貰えた。

 勿論、ザガンはシリウスを襲撃した犯罪者であり、このまま牢の中で罪を償って貰うべきなのかも知れないけれど、私は彼に対してほんの僅かな感謝と、情けがある。


「俺は、死罪か?」


 普通はそう思うだろう。

 私には、彼を死罪にする気なんて微塵も無いけれど。


「死んで償おうとか、させないから。あなた私の配下になるの。アルブの復興、手が足りてないから……ちゃんと手伝ってね」


 そうだ、死なせてたまるものか。

 これからは皆の為に生きて、自分の罪を償い続けて欲しい。

 というのは、正直建前だ。


 きっとザガンの罪を赦してしまうと、彼はこれからずっと罪悪感に苛まれ続けて生きて行く事になる。

 だから私は、敢えて強い言葉で命令をした。


「……承知しました、魔王様」


 やっぱり、まだその呼ばれ方は慣れないな。


「ベリィで良いよ。ほら、早く来て」


「はい、ベリィ様」


 一先ず、これで一件片付いた。


 もう一人、過去にシリウスへと襲撃を仕掛け、私にも反逆をしたクリフという狩人の男に面会をしたが、彼は私の顔を見るなり、突然泣き出して深く頭を下げてきたのである。


「オレは……ベリィ様になんて酷い事を……あなたが、こんなに国を変えてくださるなんて……本当に……」


 私は、彼を一切許していない。

 虫のいい話だ。

 今更謝ったところで、私は彼を解放するつもりは無いのだ。


「身柄を引き取ろうと思ったけれど、やっぱりやめた。だって、あの寒い国にはもう閉じ込められたく無いんでしょ? ここで一生引きこもっていればいいよ」


「本当にすみません……本当に……」


 まあ、時が来たらアルブの刑務所にでも移そうか。

 今はまだ、受け入れが困難だから。


 現在、アルブはアイテール、アストラ、カンパニュラからの支援を受け、復興の真っ只中にある。

 王城は従者達に任せて、片付けなどをして貰っているけれど、それでも手が足りないのは事実だ。

 だから、ザガンにもそれを手伝って貰う。


「それでは、行きましょうか」


「あ、ああ……」


 私の転移魔法でアルブへとやって来たザガンは、待っていたミアに連れられて王城まで歩いて行く。

 ザガン、何だか少し気まずそうだ。

 ミアとしては、そこまで気にしていないと思うけれど。


 早く馴染んで、みんなと仲良くしてくれたら良いな。


 そう言えば、他にも新しい配下が出来た。


「本日付で、ベリィ様の側近に任命されました。グレイ・ハイドと申します。改めて、よろしくお願い致します」


 そう言って挨拶するグレイの肩に、ウールがポンッと手を置く。


「よろしくな、新入り! 分からない事があれば何でもオレに訊けよ?」


 グレイには、ウールと一緒に私の秘書をやって貰うつもりだ。

 正直、ウールはスケジュールなどの管理があまり得意では無いから、グレイが居てくれると助かる。

 ウールも後輩が出来て嬉しそうだ。


「二人には、私の秘書兼護衛として働いてもらう。内容はお父様の時と変わらないけれど、一先ずはウールを第一秘書、グレイを第二秘書としておくね。これからよろしく」


「これからも、お嬢に忠誠を誓います」

「仰せのままに、ベリィ様」


 呼び方は……まあ、良いか。

 ウールには、もう少しだけその呼び方で居て欲しい。


 あとは、アルブにおける教育についてだ。

 これに関しては、帝国の協力も得てサーナに担当してもらう事になった。


「アタシ、教育とか上手く出来るかなぁ……」


 とか苦笑していたけれど、ああ見えてサーナは結構頭が良いし、何とかやってくれるだろう。

 それに、サーナは子供が好きだから、きっと楽しいと思う。


 更に、国の統治や主な実務の総括に関しては、ルシュフさんに一任する事にした。

 その他にも、他国から派遣してもらった者達に協力してもらい、順調に復興が進んでいる。


 問題は、現在のアルブの軍事力だ。


 正直なところ、アストラとアイテールの二大国家に加え、カンパニュラが同盟国となるのだから、あまり心配する程の事でもないのだろう。

 けれど、万が一の際には自分達で身を守る必要がある。


 そこで私は、魔王軍を復活させる事にした。


 魔王軍とは、過去にアルブ王国にあった魔王直属の軍隊であり、アルブ版の聖騎士団みたいなものだ。

 聖騎士では無いけれど……。


 お父様が統治していた頃にも形だけは残っていたが、そもそも他国に攻めることも攻められることも無かったし、誰よりもお父様一人居れば軍事力は諸外国に負けなかったから、半ばあって無いようなものだったのだ。

 そのせいで、あの時一瞬にして帝国に攻め入られてしまった。


 だから、今度はそんな事が無いように、しっかりと軍事力を整えておきたい。

 とは言え、まだこれからの話だ。

 これに関しては、追々決めて行こうと思っている。


「じゃあ二人とも、あとはよろしくね。私、ちょっと行くところあるから」


「あ、ええ、お気を付けて」

「承知致しました」


 ウールとグレイにそう言い残し、私は即座に転移魔法を構築した。


「キュイ?」


 肩に乗ったルーナが、不思議そうな顔で私を見る。

 何処に行くのか気になったのだろう。


「友達のところだよ。話があるんだ」


 そうしてやって来たのは、ロスヴァリス。


 今、ここにはルカがいるのだ。


「ルカ、お疲れ様」


「ベリィさん、お疲れ様です」


 彼は時々こちらに帰っては、魔物達と話をしているらしい。

 だから、本当は迷ったのだけれど、やはり提案はするだけしてみたい。


「ねえ、ルカ……アルブに来る気は無い?」


 私の言葉に、ルカは一瞬躊躇うような顔をする。

 ルカが居てくれたら、軍事力や文化教育の面でも更に発展させられる。

 だから、本当は一緒に来て欲しいのだ。


「ありがとうございます。でも、遠慮しておきますね。実は、旅をしようと思っていて。それで、行った場所の絵を描きたいんです」


 無理にとは言わない。

 それがルカの選択なら、私は尊重する。


「そっか、素敵だね。ところで、旅って何処に行くの?」


「旅と言っても、そんなに長く旅をするわけでは無いんです。ただ、もっと他の国の事も色々と知りたいので。あ、でも、何かあればできる範囲で協力しますよ! ベリィさんにはお世話になっていますし、恩返しがしたいので」


「ありがとう、ルカ! これからの生活、楽しんでね」


「ありがとうございます……! これからも、よろしくお願いします!」


 皆の心に余裕が生まれ、これまで出来なかった事が出来るようになった。


 まだ根本的に解決したわけでは無いし、これからも大変な事だってあるだろう。


 それでも、何だか今の世界は……前よりもずっと明るくなったような気がする。

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