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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
160/220

114.花の便り

「ギャハハハハ! 飲める、酒が飲めるぞー!」


 目の前ではしゃいでいる人は、とても先日私達のピンチに駆け付けた英雄と同一人物とは思えない。


「キュイ〜……」


 もう、ルーナですら呆れちゃっている。


 私とサーナは今、お礼とお詫びを伝えに皆の元を回っている。


「あ、あの……リタさん、ご迷惑をかけて、本当にすみませんでした。この剣はお返しします」


 そう言って頭を下げ、リタに黒星剣ホロクロウズを差し出すサーナに対し、彼女は手のひらを前に突き出して制止した。


「謝る必要はないよ。あと、その剣は君にあげよう! 親友(ブライト)の形見だから……君に持っていて欲しいんだ」


 予想外の答えを返されて戸惑うサーナの頭を、リタが優しく撫でる。


「今となっては想像する事しか出来んけど、ブライトにとって、君の存在は本当に尊かったんだと思うよ。だから、大切にしてあげてね」


 リタの言葉を聞いたサーナは、手に持っていた黒星剣ホロクロウズを再び背に収めた。

 そう言えば、サーナは以前まで剣を腰に携えていたけれど、どうやら私とお揃いで背負うことにしたらしい。


「ありがとうございます、リタさん。ずっと大切にします……!」


 私にとってロードカリバーがお父様の形見であるように、サーナにとってはホロクロウズがブライトの形見になるのだ。


「よかったね、サーナ」


「うん!」


 サーナが私に見せた笑顔は、とても晴れやかなものだった。


 その後、ジェラルドやセシル達、アステロイドのビートやポルカの所と、アビスがいるメトゥス大迷宮の最下層まで、お礼とお詫びを兼ねて巡り、最後に皆が待っているシルビアの家へとやって来る。


 家に着くと、シャロ、シルビア、ルカの三人が庭で何かを見ていた。


 シャロが私達の気配に気付き、こちらに手を振る。


「ベリィちゃん、ルーナちゃん、サーナちゃん、おかえりなさい!」


 サーナがこの家に来るのは初めてだけれど、今はここがサーナの帰る家にしてあげたい。


「た、ただいま」

「キュイ〜」

「ただいま、シャロ。何見てるの?」


 私の問いに、シャロは花壇を指さして答える。


「ピンク色のバラが咲いたんだよ! 見て、可愛い!」


 花壇に目をやると、可愛らしいピンクのバラが咲いていた。

 忙しくて殆ど見ていなかったけれど、そう言えば先日は蕾だった気がする。


「本当だ、可愛いね」


 それはまるで、こうして私達に平和が訪れたことを察したかのように、5輪だけ綺麗に咲き誇っている。


 まだ戦いは終わっていないかも知れないけれど、これからは私達5人……それと1匹で、どれだけ大変な事でも乗り越えて行ける。


「あ、あの、みんな……」


 そう声を発したサーナに、皆が注目する。


「シャーロット、シルビア、ルカさん、ベリィ……今まで、沢山迷惑かけてごめんなさい。酷い事、沢山言ってしまってごめんなさい。謝るだけで、許してもらおうなんて思わない。アタシはこれから、自分が犯してしまった罪を償い続ける。だから……アタシに出来る事は、全部協力します」


 サーナ……それ程までに、自分のしてしまった事を重く受け止めていたんだ。

 私は彼女に歩み寄り、そうして抱きしめた。


「こちらこそ、酷い事言ってごめんなさい。私、サーナのこと大好きだから……これからも、ずっと友達でいてね……!」


「ベリィ……うん……!」


 涙が止まらない。

 そんなボヤけた視界の中、私とサーナを同時に抱きしめたのは、何故か私達よりも号泣しているシャロだった。


「うわーん……いいんだよぉ……! ほんとうに、2人が再会できてよがっだああああ……!」


 鼻水が服に付きそう……と思ったけれど、シルビアがやんわりと引き剥がしてくれた。


「ぐすん……サーナちゃん、それじゃ、アタシ達に協力して欲しい事があるんだけど」


 シャロの言葉に、サーナは唾を飲み込んで頷く。


「アタシ達と、お友達になってくれますか?」


 何となく、そう言うんじゃないかなと思っていた。

 シャロらしいね。


「友達……でも、アタシは……」


 動揺するサーナの肩を、シルビアがポンっと叩く。


「あの時のことは、別に何とも思ってないって。これからよろしくな、サーナ!」


「ボクも……あまり関わりはありませんでしたが、これからよろしくお願いします!」


 ルカも可愛らしい笑顔でそう言った。

 言われてみれば、二人はそもそも話した事が殆ど無かったかも知れない。


「シャーロット、シルビア、ルカさん……うん、ありがとう……アタシも、みんなと友達になりたいっ……!」


 人族と魔族、それだけじゃない。

 女神も、吸血鬼も、魔物も、みんなが笑って暮らせる世の中が良い。


 まだ先は長いかも知れないけれど、あの嵐が世界中に届けた花の便りは、きっとみんなの心に優しい光を灯したのだろう。


 これで、一歩前進だ。

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