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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
158/220

112.花嵐

 ディアス皇子の、長い戦いが終わった。


 メフィルはどす黒い魔力と血が溢れ出す胸を左手で押さえ、息を荒げながらディアス皇子の前で膝を突いている。


「貴様はもう終わりだ、メフィル・ロロ……否、魔皇フェレスト」


 こうしている間にも、虚空剣ヴァニタスの力がメフィルの魂を蝕んでいる。

 本当に……これで終わるのか……?


「クックック……ッハハハハハハハ!」


 高笑いを始めたメフィルの足元に、巨大な法陣が展開された。

 まずい、何か来る……!


「これで終わるとでも思ったか!? 私は不滅だ……決して死ぬ事はありませんよ」


 そう言った奴が、不意に私へと視線を向ける。


「ベリィ・アン・バロル! これは私からのプレゼントのお返しです。受け取ってください」


 この魔力、まるでサーナの力と同じだ。

 否、もっと禍々しくて……激しく脈動する膨大な力を感じる。


「クソッ、何をする気だ!?」


 ディアス皇子はその場から離れ、エドガーと並ぶ形でメフィルにそう言い放つ。


「あーあ、これはヤバいのが来ちゃうねぇ。どうしよっかなぁ」


 リタは呑気な口調で話しているけれど、内心焦っているように見える。

 これ程までに大規模な魔法だ。

 私達どころか、このままでは周辺の国々まで巻き込みかねない。


「それでは皆さん、せいぜい抗ってください。第十禁断魔法、新冥界秩序ニューアンダーワールドオーダー


 星の女神による、世界改変魔法……!?


 サーナの魔力を吸収したことで、この力まで使えるようになっていたのか。

 対抗出来るのはサーナしか居ないけれど、今の彼女は……


「ハァ……ハァッ……ぐっ、アタシが……止めなきゃ……」


 サーナは私の膝から頭を起き上がらせ、メフィルと同じ魔法を構築しようとする。

 駄目だ、今のサーナには負担が大き過ぎる……!


「サーナ、駄目! 今そんな事したら、サーナが死んじゃうよ!」


「そうだ、サーナ……! もうお前に辛い思いをさせたくは無い……」


 私とルシュフさんは必死でサーナを止め、何とか彼女に魔法を使わせないようにした。


 そうしている間にも、大地や空、この空間全てに禍々しい魔力が流れ続けている。


 折角サーナを助けたのに、こんな所で終わるなんて嫌だ……!

 全員のウルティマをぶつければ、止められるだろうか?

 でも、ぶつけるって何処に……?


「諦めるのはまだ早いな。そうですよね、セシル様」


 リタはそう言ってニヤリと笑い、セシル様に目を向けた。

 それに対し、セシルも不敵な笑みを浮かべている。


「ええ、その通りです。何せここには、四霊聖剣士と鍵の聖剣士が揃っているのですから」


 四霊聖剣と、鍵……?

 一体、何のことを言っているんだ?


 四霊聖剣……まさか……!


「起こそう、奇跡を!」


 そう言って、シャロがグローライザーを天に掲げる。


 それを合図に、四霊聖剣士達とヴェロニカ、そしてリタがシャロの元に集った。


 シルビア、バーン、ルーク、ウンディーネ、ヴェロニカ、リタ、シャロ……そうか、四霊聖剣の奇跡は、四霊聖剣だけでは起こせないんだ。

 鍵となる聖剣が揃うことで、漸くその魔法を解き放つことが出来る。

 そう言う事だったんだね。


「必ず、成功させましょう!」


 ヴェロニカの言葉に、皆が力強い声で返事をする。


 次の瞬間、メフィルの魔法とは別に、新たな魔力が動き始めた。


 そうして、詠唱はバーンから始まる。



「命を()べし、紅蓮の猛火は」


 バーンが灼炎剣ヒートルビーを掲げると、続けてディーネが真海剣アクアマリンを掲げる。


「水紋となりて大地へ届き」


 ディーネの詠唱ののち、ルークが地砕剣スモークエイクを掲げた。


「大地に芽吹く命の風は」


 続けてシルビアが疾双剣ヒスイを両手で天に掲げ、詠唱する。


「暗雲の空を吹き飛ばし」


 リタが刻星剣ホロクラウスを夜空に掲げる。


「夜を歌う星座は、花の如く」


 乱咲剣レイブロッサムを掲げたヴェロニカが、口を開いた。


「百花繚乱、咲き誇る!」


 そうして、最後にシャロが黎明剣グローライザーを天高く掲げる。


「目覚めよ、黎明を訪う魔法!」



「「「「「「「法陣展開!」」」」」」」



 皆の声が揃うと、剣士達を中心として巨大な法陣が現れた。


 それはまるで、奇跡のように……



「「「「「「「アルス・マグナ!」」」」」」」



 夢のような光景が、目の前に広がっていった。


 炎と水が調和するように舞い、大地には花が芽吹くとそれが風に揺られ、花弁が空に舞い上がって行く。


 軈て色とりどりの花弁は、嵐を起こすかのように宙を踊り、周囲を侵蝕していた黒い魔力を飲み込むと、さらに勢いを増して大きなものとなっていった。

 夜の静寂(しじま)を目覚めさせる程の花嵐(はなあらし)が、この場所を……否、世界中を彩っているのだ。


「あ、あれ……?」


 この魔法の力なのか、宛ら優しい陽光に照らされたかのように、心が暖かくなる。

 私の中に残っていた黒い魔力が、そっと消えて行ったような気がした。


 世界中を彩った花の嵐が過ぎ去ると、いつの間にか空には朝日が昇っていた。


 ふと、私は周囲を見渡してみる。


 みんな無事だ。

 でも……


「メフィル、逃げたか……」


 ディアス皇子が、無念の表情でそう呟いた。


 虚空剣ヴァニタスでの攻撃は、確実に効いていたはずだ。

 必ず見つけ出して、今度こそは倒してみせる。


 それよりも、漸くサーナを助ける事が出来たんだ。


「ありがとう……勇者さま」


 私が、勇者……!


 お父様、私は大切な人を守れたよ。

 ちゃんと勇者みたいになれたかな?

 そうだったら、嬉しいな。


「サーナ、無事で良かった……!」


 訪れた静かな朝は、明日への希望に満ちていた。


 帰ろう。

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