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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
156/220

111.永きに亘る陰謀

 全ては、ワタシがアイテール帝国の次期皇帝として、父上よりその秘密を明かされた時から始まった。


 否、これはワタシや父上の代で始まった事では無い。

 このアイテールは、永きに亘り奴が陰で支配してきたのだ。


 魔皇フェレスト……否、今はメフィル・ロロと呼ぶべきか。


 不死身であり不変の存在である奴を、初めてこの目で見た時、ワタシはただ服従することしか出来なかった。


 本来であれば、父上も従う事などしなかった筈。


 しかしメフィルという男の存在は、あまりにも強大過ぎたのである。


 表向きでは魔王の側近をしておきながら、その正体は女神が降臨した黎明期より、幾度となく転生を繰り返してきた、魔皇と名乗る魔族の男。

 存在してはいけない者だ。


 そうして奴は、この世で最も国家勢力を持つアイテールを陰で支配し、かつての妻であるアラディアの母、星の女神の片割れを求めていた。

 奴がサーナ・キャンベルを“我が母”と呼ぶのは、それが理由だろう。

 何にせよ、気色の悪いものだ。


 ワタシはメフィルに忠実な振りをした。

 そうすることで奴の信頼を獲得し、少しでも奴の目的や奴自身の情報を得ようとしたのだ。

 結果、奴はワタシに虚空剣ヴァニタスの封印を解かせた上、奴自身の秘密も口を滑らせた。

 それはほんの小さな手掛かりだったが、奴が不変であり不死身の存在である秘密を紐解くには十分だった。

 メフィル・ロロの肉体は、錬金術によって量産された器に過ぎない。

 虚空剣ヴァニタスの力を使うには、本体のメフィルを直接その刃で斬るしかない上、それを実行するには奴の隙が必要だった。

 機会は、一度だけだろう。


 ワタシは、メフィルの手のひらで踊らされているに過ぎない。

 奴の行動を阻止する事は不可能だが、たった一度の奴を斬る機会だけは逃すことが出来ないのだ。


 そこでワタシは、創星教のグレイという男に接触した。

 グレイは元よりメフィルを怪しんでおり、女神に対する厚い信仰心も認められた。


 この男は信用に値する。


 ワタシはグレイに全ての計画を話し、共にメフィルを殺害することを提案した。

 彼はワタシに賛同し、それから少しずつ情報を共有しながら、メフィル暗殺の算段を考えていた。


 そんな中、遂にメフィルが行動を起こす。


 畏怖の象徴である魔王を暗殺し、ワタシには帝国が主君を失ったアルブ王国を属国にするよう命じたのだ。


 ワタシは少し焦りを感じた。

 魔王の暗殺を止める事は叶わないだろう。

 それでも、次代を継ぐ魔王の娘を逃がすことは出来る。


 メフィルが行動を起こしたその日、ワタシは自らアルブ王国へと赴き、星の女神であるサーナ・キャンベルを拉致する為に、彼女の父親であるルシュフ公爵とその従者を、殺害する“振り”をしたのだ。

 実際、ワタシは彼女の前で父親を斬った。

 しかし、これはグレイに頼んで作らせたミメシス擬きだ。

 発狂した彼女を気絶させ、グレイへと引き渡す。

 ルシュフ公爵本人は、グレイの隠れ家で保護をしていたのだ。


 そうして、ワタシにはまだやるべき事が残っていた。

 魔王の娘、ベリィ・アン・バロルの保護だ。

 仮の死体を用意して殺した事にするという案もあったが、魔王の娘である彼女のミメシスを作るには時間が足りなかった。

 そこでワタシは、彼女を眠らせてアイテールの奴隷市場へと送ることにしたのだ。

 非常に酷なことではあるが、メフィルを納得させるにはこれしか無い。

 ここから先は、父である魔王ローグを殺された少女の復讐心に賭けるしか無かったのだ。


 ベリィ・アン・バロルの死体はダミーを用意出来なかったが、ワタシが逃した一部の従者は、ミメシスの死体を用意することが出来た。

 ザガンに渡したラミアメイドの死体、あれはメフィルに魔王の従者達の死をアピールする為に用意したものだったが、どうやらメフィルは他の従者達に対する関心が薄く、それには特に反応を見せなかった。


 本来であれば、リタ・シープハードやブライト・ハート・プラネテスなどの犠牲も出したくは無かったのだが、ワタシに出来る事はあれが限界だったのだ。


 サーナ・キャンベルにも、酷な思いをさせるつもりは無かった。

 しかし、あそこでメフィル・ロロの動きを制限していれば、奴を倒す隙は見出せない。


 こうして、計画は大凡予定通りに進んでいたが、最初にイレギュラーが起きたのはリタ・シープハードの知恵の眼の発現だ。


 狙ったのか、無意識の偶然か、彼女は死の直前に知恵の眼を発現させたことで、自身の魂をソロモンの部屋へと一時的に移していたのである。


 それに気付くことが出来たのは、ザガンがリタ・シープハードの死体を掘り返してくれたおかげだ。


 恐らく、グレイの指示でアンデッドとして利用するつもりだったのだろう。


 しかし、彼女の肉体は完全には死んでいなかった。


 脈は止まっていたが、発現した知恵の眼だけが青く光っている。

 ワタシとグレイは相談し、ザガン協力の元でリタ・シープハードを蘇生させる計画を立てた。


 そうして無事に蘇らせることは出来たのだが、彼女が目覚めたのはつい先程の事だったようだ。

 グレイが状況を説明したとは言え、まるで全てを見据えていたかのようなあの戦いは、やはり知恵の眼が影響しているのだろうか?

 肉体も酷く衰弱していたはずが、その戦闘力は当時と同等かそれ以上のものである。

 我々は、とんでもない怪物を蘇らせてしまったのかも知れない。


 次に起きたイレギュラーは、創星教の内通者とシャーロット・ヒルの死である。

 今となっては結果的に良い方向へと向く事が出来たが、黎明剣グローライザーの覚醒条件が、彼女の死によるものだと知らなかったワタシは、内心酷く焦燥感を抱いた。


 その後メフィル・ロロを倒せたとしても、シャーロット・ヒルの死による影響は大きい。

 特に、ベリィ・アン・バロルにとっては……。


 内通者であるバーン・フォクシーについては、ワタシも怪しんでいた。

 場合によっては声を掛け、こちらの仲間に引き入れるべきかとも考えたが、あの飄々とした振る舞いからその真意を読み取ることが出来なかったのである。


 しかし、それも運命だったようだ。

 シャーロット・ヒルが蘇り、始まりの聖剣である黎明期グローライザーを目覚めさせた。

 更にあろうことか、半神ヘロディスは黎明魔法にメフィルへの呪いを掛けていたのである。

 ワタシが打倒メフィルの計画を遂行しなくとも、運命はメフィルを許さなかったのかも知れない。

 否、もはやそれすら運命だったのだろうか?


 どちらにせよ、遂にこの時が来たのだ。

 

 今こそ、諸悪の根源メフィル・ロロを討ち倒し、世界を救う時である。

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