109.AWAKE
「グリムオウド!」
ルーナに乗り、空中からメフィルへと攻撃を仕掛ける。
しかし、やはり私一人では直ぐにメフィルの視界に入ってしまい、上手く魔法が発動出来ない。
「ルーナ、別々に攻撃しよう! どちらかが攻撃を当てればいいんだ!」
「ヒュイーッ!」
私はルーナにそう伝えると、そこから飛び降りてメフィルへと斬りかかる。
「インフェルノハデシス!」
「第一禁断魔法、カース・オブ・ダークネス!」
ロードカリバーの剣身が、黒い波動と衝突する。
また掻き消されたっ……!
「第五禁断魔法、アンダー・テンペスト!」
一瞬にして、地面がマグマに変わる。
まずい、着地が……!
「ヒューイッ!」
落下する寸前でルーナに拾われ、私は再び空中に戻った。
「ありがとう、ルーナ!」
これでは迂闊に地面へと降りることは出来ない。
とは言え、奴の領域系魔法もそこまでは長く続かないはずだ。
解除まで気長に待ちたいところではあるけれど、恐らくそんな時間は無い。
早く儀式を止めないと……!
「ッハハハハハ! 残念ながら、貴女の攻撃は私には届かない。さぁ、遂に女神の力が我が物に……ぐっ……!?」
突如、メフィルの動きが止まる。
赤い月とサーナの身体は発光を止め、激しく脈動していた魔力の流れが大人しくなった。
何が、起きたんだ?
「ベリィちゃーーん!! メフィル倒したよーーー!!!」
私を呼ぶ声のした方を見ると、シャロがこちらに走って来ている。
やったんだ……!
けれど、なぜ本体のメフィルがこんな状態に……?
「シャーロット……ヒル……! 貴様何をしたァ!?」
怒りを露わにしたメフィルを見て、シャロはきょとんとしている。
「ええっ、アタシ何かしちゃった!?」
無自覚!?
まあ、シャロらしいと言えばシャロらしいかも知れない。
そのおかげで、今ならば全力が出せる。
「ルーナ、力を貸して」
「ヒュイッ!」
ルーナのおかげで、魔法の構築が凄まじく早い。
この攻撃に、今までの全てを乗せる!
「法陣展開、常闇に染め上げろ———」
メフィルは動けず、魔力阻害も無い。
ロードカリバーと全身に魔力を巡らせ、私はルーナと共に急降下した。
「アンダーワールドッ!!」
「ヒュイーーーーーッ!!」
ルーナから飛び降りた私は、ロードカリバーでメフィルの首を目掛けて斬りかかる。
奴の首に到達した刃は、黒い魔力を炎のように纏い、その首を一気に刎ねた。
「サーナ!!!」
アンダーワールドの勢いのまま、サーナを縛っていた鎖を斬り、彼女の身体を抱き抱えた私は、ルーナに乗ってその場から飛び上がった。
「ベリィ……アタシ……」
「もう大丈夫だよ、サーナ。この先何があっても、私が側にいる」
赤い月明かりに照らされた彼女の顔は、僅かに微笑んでいるように見えた。
目から大粒の涙を流し、掠れた声で何かを話そうとしている。
「ありが……とう……」
その言葉を聞いた瞬間、私の目から涙が溢れた。
ああ、遂に助けられたんだ……!
酷く疲れているから、早く休ませてあげないと。
「ヒュイ〜……」
不意に、ルーナは疲れてしまったようで、シャロ達の近くへゆっくりと着陸した。
気付けば他で戦っていた皆も集まって来ており、どういう訳かルカとザガンが一緒に居る。
「サーナちゃん!」
シャロが心配そうにサーナの顔を覗き込む。
サーナは再びゆっくりと口を動かすと、シャロの名前を呼んだ。
「シャー……ロット、ごめんなさい……」
「もう良いんだよ。本当に無事で良かった!」
目的は果たした。
残るは……
「ぐっ……ゴミ共が……! 私の力を返せ……!」
メフィル、やはり再生したか。
今の奴からは、サーナと同じ魔力を感じる。
完全では無くとも、メフィルは女神の力を手に入れてしまったのだろう。
「サーナはお前のものじゃない。サーナはサーナ、星の女神で私の親友だ。もう二度と、お前なんかに奪わせない!」
「黙れ……! ボフリ、ボフリはどこだ!?」
「ここだよ」
その言葉の後、メフィルの元に何かが投げられる。
コロコロと転がるそれは、ボフリの生首だった。
生首を投げたのは……バーンである。
「オレが殺したよ。ぶっ倒したのはシルビアだけどな。まあ、汚れんのはオレの手だけで良い」
そうか、シルビアはボフリを倒したんだ。
仇は取れたんだね。
「クソッ、使えない奴だ! ザガン、貴様そんな所で何を———」
「メフィル・ロロ、ブライトを殺したお前のことは許さない。今日この場で死ぬがいい!」
ザガン、こちら側に寝返ったんだ!
ルカが説得してくれたのだろう。
丸く収まったなら良かった。
「血迷ったか……仕方が無い、こうなれば全員皆殺しだ……!」
メフィルが何かを仕掛けてくる。
こちらも対抗したいけれど、パノプティコンと魔力阻害が復活しているせいで魔法が使えない。
「第九禁断魔法、無限終焉!」
メフィルの詠唱直後、夜空が真っ黒な闇に染まり、耳を劈くような不協和音が鳴り響く。
自分の耳を塞ぎたいけれど、サーナの耳も塞いであげないと……鼓膜が破れそうだ……!
「ハハハハハハッ! サーナ・キャンベル、お前の力は後でじっくり貰うとしよう! さあ、終わりだ……ぐはっ……!」
刹那、メフィルの体を流れ星のような光の斬撃が襲い、それによって真っ黒な空も不協和音も消え去り、魔力阻害が途切れた。
今のは……天体……魔法……?
見紛うはずもない。
何度も見てきたあの光は……
「スタアメイカ・ゲイザー。星は常にお前を捉えている」
その声……
背後から徐々に近付いて来る足音と同時に、凄まじい魔力の脈動を感じる。
まさか、こんな事って……一体どうして?
「やあやあやあ、皆さんよろしくやってんねぇ!」
その人は私の頭をそっと撫で、横を通り過ぎた。
「最高だよ、ベリィちゃん」
そうして、彼女は青く光る刃をメフィルへと向ける。
「なぜだ……なぜお前が……生きている……!? 何なんだ、一体お前は何なんだ!?」
酷く狼狽するメフィルを見ると、彼女は鼻で笑ってから口を開く。
「刻星の英傑、リタ・シープハード。地獄の底から蘇りし者だ。なんちゃって!」
たった今、皆がこの戦いの勝利を確信した。