108.親友
私にとって、サーナはたった一人の親友だった。
他の子たちと違って、私のツノを一切怖がらなかったし、唯一対等に接してくれた。
今思うと、サーナがツノの威圧を恐れなかったのは、彼女が星の女神だったからなのだろう。
その大切な親友に、私は酷い事をしてしまった。
きっかけは、サーナがシャロとシルビアを悪く言った事だった。
私にとって、シャロとシルビアも大切な友達だったから、その二人に酷い言葉を浴びせたサーナの事が、許せなかったのだ。
ああ、まだちゃんと謝れていない。
サーナを助けたら、これ迄のことを全部謝ろう。
その為に、必ず救ってみせる。
そうして、またあの時のように、二人並んで雪の道を歩きながら話がしたい。
今のアルブは、もう雪が溶けた頃だろうか?
あの日、二人で歩いた雪の上に残った足跡は、もう消えてしまったのだろう。
何があっても、私が守る。
そう約束したんだ。
だから———
「サーナちゃんは任せた!」
「……ありがとう、シャロ!」
始まりの聖剣、黎明剣グローライザーが目覚めた。
これはシャロが受け継いだ、彼女自身の本当の力なんだ。
私は偽メフィルと対峙するシャロを背に、儀式を行っている本体の方へと駆けて行く。
「メフィルーーーッ!!」
私の存在に気付いたメフィルは、こちらを振り返って睨むような目をした。
その直後に、魔力の流れが消えてしまう。
儀式の間も、魔力阻害は発動出来るらしい。
「私の邪魔をするな、クソガキがぁ!」
魔法が使えなくても良い……儀式の邪魔をして、皆が集まる時間を稼げばいいのだ。
先ず第一目標は、サーナを救出する事。
メフィルの攻撃に怯まず攻めろ、私!
「第一禁断魔法、カース・オブ・ダークネス!」
こちらに向けて放たれた黒い波動が、私の右頬を掠めそうになる。
「キュイッ!」
その瞬間、私に掴まっていたルーナが魔法を発動し、黒い波動を掻き消した。
今のは、法陣の改竄?
偶然にもメフィルの視界から外れ、魔法が使えたようだ。
「小賢しい月光竜が……! 第七禁断魔法、スカルギャラクティカ!」
骸に囲まれる……!
メフィルの詠唱直後、足を取られないように気を付けていたけれど、運悪く足首を挟まれてしまう。
「くっ……!」
「ベリィ・アン・バロル、そこで大人しく見ていなさい」
そう言うと、メフィルはサーナの方に向き直り、彼女の額に左手を当てる。
「さて、そろそろ始めましょう。準備はよろしいですか、我が母」
「い……や……」
まずい、早く抜け出さないと……!
「アブソーブ・マギア」
直後、骸の空に浮かぶ赤い月が薄く光を放ち始め、それと同様の光がサーナの全身を包み込んだ。
「あああああああああああああっ!!」
酷く苦しみ出したサーナから膨大な魔力が放たれ、それがメフィルに流れて行くのが分かる。
あの光は、サーナの魔力なんだ。
やはりメフィルは、この儀式でサーナの力を吸収しようとしている。
自分自身が、創星の力を持つ神となる為に……
「キュイッキュイイイッ!」
骸の山に降りたルーナが、一所懸命に法陣の改竄を試みてくれている。
「ルーナ、いけそう?」
「キュイッ! キュイキュイキュイッ!」
ルーナは自信ありげにこちらに目を向けると、更に力を込めた。
するとルーナの身体は光を放ち、徐々に大きくなって行く。
これは、大型竜への変身……!
「ヒュイーーーーーーーーッ!!」
ルーナが大きくなったと同時に、周囲に広がっていた骸の山が消滅する。
この力、やっぱりルーナは凄い。
「なっ……!」
一瞬こちらに目を向けたメフィルだったが、儀式に集中しているようで直ぐに視線を逸らした。
今なら魔力阻害をされる心配も無い。
……え?
パノプティコンは?
今のメフィルは、魔力阻害を全方位に向ける事が出来るはずだ。
それなのに、今は魔法が使える……!
そうか、儀式にある程度の力を割いてしまっている上、今は半分をシャロ達と戦わせている状態だ。
つまり、このメフィルは一点にしか魔力阻害を発動出来ない。
勝機が見えてきた……!
儀式が終わる前に、必ずサーナを救い出してみせる。