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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
152/220

107.兄弟の因縁

 剣と剣の衝突する音は、耳が痛くなりそうな程に激しく響いている。

 黎明剣グローライザーが目覚め、偽物のメフィルは倒された。

 残るは、本体のみ。


「余所見をしている場合か!」


 俺の頬を剣先が掠める。

 新しく出来た傷口から、僅かに血の流れる感触がした。


「随分と余裕だな、ユーリ」


「うるせえ……」


 こちらも既に手一杯だ。

 ディアス・エヌ・アイテール、やはり強い。


 俺は奴の攻撃を避けるので必死だが、奴は俺に幾つもの傷を負わせている。

 少しでも気を抜けば、確実に負けてしまうだろう。


 俺は幼い頃、強い兄貴を尊敬していた。

 既に次期皇帝として育てられていた兄貴は、剣技も立ち振る舞いも、当時から皇族として相応しかったのだ。


「お前は、俺の憧れだった……!」


 俺が剣を振り、ディアスの胴に斬りかかる。

 奴はそれを剣身で受け止め、そのまま鍔迫り合いの状態になった。


「昔話か?」


「あの時のお前は、本当に輝いて見えたんだ。今だってそうだ! どんなに変わっちまっても、やっぱりお前はアイテール帝国第一皇子、ユニコーンナイツのディアスだよ……だから……!」


 鍔迫り合いを解き、俺は再び奴との距離を取る。


「分からねえんだ。どうしてお前が、そこまでしてメフィルの野郎を助けるのか。なあ、本当に他国の事なんかどうでも良いのか? 本当にメフィルは、アイテール帝国の為に動いてんのかよ……?」


「ユーリ、ワタシはあくまでメフィルに仕える身だ。彼が創星の力を手に入れれば、この星は彼のものだ。そうして、ワタシは彼の下で全ての国を支配する。アルブ侵略は、その記念すべき第一歩だ」


 そう話すディアスの目からは、確かな信念が見て取れた。


「ふざけるな……だからって、おやっさんを殺したり魔族を迫害する必要はねぇだろ! お前、いつからか変わっちまったよな。昔のお前なら、多種族を見下すような事は絶対にしなかったはずだ。なのに、どうしてだよ!」


 脚部に雷魔法を発動し、素早くディアスの懐に入り込む。

 俺は剣を捨てると。そのまま奴を押し倒して馬乗りになる。


「種族など関係無い。ワタシにとって、人族も魔族も全てがワタシの下だ。何も魔族だけを限定して差別しているわけでは無いのだよ。皆は平等に、ワタシの道具に過ぎない。そこを退け、ユーリ」


「うるせえええ!」


 俺は怒りに身を任せ、ディアスの顔を拳で殴った。

 更に奴の襟首に掴みかかり、その半身を持ち上げる。


「お前がどうしようも無いクズ野郎なのはよく分かった! だからって、あんな奴の下に付くのか? お前はメフィルの下で良いのかよ……?」


「世渡り上手と言って欲しいな。ユーリ、お前も少しは先を見据えて行動した方がいい!」


 そう言うと、ディアスは俺の顔を殴り、今度は反対に俺が押し倒される。


「漸く待ち望んだ今日が訪れたのだ! この機を逃すわけには行かない……! ワタシの邪魔立てをする者は……否、もはや邪魔では無いか」


 そう言って、ディアスは先ほど落とした剣を拾い、俺の顔の横にそれを突き立てた。


「見ていろ、ユーリ。ワタシの悲願が果たされるその光景を……!」


 そう話すディアスの目には、強い光が宿っていた。

 それはまるで、勇者のように。

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