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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
150/220

106.戦う理由

 少し離れたところで、皆の戦う音が響いている。

 ボクらはその喧騒を背に、暫く無言のまま向かい合っていた。


「なぜ攻撃して来ない?」


 先に口を開いたのは、ザガンの方であった。

 不思議だ。

 敵と対峙しているにも関わらず、今のボクには彼を敵として見ることが出来ない。

 それは、今日この場所で二人きりになってから、一度もボクに攻撃する様子が無かったからである。

 勿論、以前話した内容についても気になる事があった。


 恐らく、彼はもうメフィルの仲間では無い。

 仕方なく従っているだけなのだろう。


「そっちが攻撃をして来ないので」


 ボクはそう短く返す。

 こんな事を言ってしまうと、攻撃して来るだろうか?

 そう思ったが、やはりザガンは何もして来ない。


「……ルカ・ファーニュ、俺を殺すならば殺せ」


 自決をせず、生殺与奪の判断をボクに委ねるか。

 殺すことも考えたけれど、それでは彼が報われない。

 ボクは本心が聞きたいのだ。


「一つ、確認したい事があります」


「……何だ?」


「シリウス事件前、あなたがミアさんの死体をアンデッドにしたと聞きました。しかし、その死体はミメシス技術による複製だったらしいですね。あなたは、それを知っていてアンデッドにしたのですか?」


 ボクの質問から、暫くの間沈黙が続く。


「そうだ」


 軈て口を開いたザガンは、一言だけそう返した。

 誰が何の目的でそうしたのか、詳しい事情は分からない。

 ミアさんはアイテールの者が逃がしてくれたと言っていたけれど、ミメシス技術を知っているアイテールの者は限られてくる……と言うよりも、一人しか居ないはずだ。


 或いはボクらの知らない所で、まだミメシス技術が扱える人物がいるのだろうか?


 ディアス・エヌ・アイテール、彼は一体何を目論んでいるのだ?


「そうですか、ありがとうございます。それだけでも聞けてよかった」


 この情報のおかげで、おおよその状況が掴めてきた。

 あの時、ザガンを連れ戻しに来たグレイという男。

 彼はメフィルとは別の何かを企んでいるのだろう。


 それがボクらにとって、吉と出るか凶と出るか。


 未だそこまでは分からないが、少なくともザガンはメフィル側では無い。

 それでも尚、従わなければメフィルに殺されたりでもしてしまうのだろう。


「ルカ・ファーニュ、お前の目的は何だ?」


 そんな事を訊かれても、ボクはただ皆さんの助けになりたいだけだ。

 こうして外の世界に馴染めるようになったのは、皆さんのおかげなのだから。


「強いて言えば、メフィルを倒す事ですかね。今のあなたは、既にメフィルの仲間では無いのでしょう? ですから、戦う理由が無いんですよ」


 ボクの答えに、ザガンは一瞬狼狽える。

 既に分かり切っていたことだ。

 今更何を驚いているのか?


「……そうか、そうだな。俺は、俺が忠誠を誓っていたのは、女神でもメフィルでも無い」


 漸く、話す気になってくれたか。


「聞かせてください、ザガン。あなたの本心を……」


 ボクとザガンは、その場にあった適当な岩に並んで腰を下ろし、腹を割って話し始めた。


「元々、俺は魔族の中でも立場が弱かった。そんなある時、俺を救ってくれたのがブライトだったのだ。彼女は俺の力を認めてくれた。俺はブライトと行動を共にしていく中で、どうしても彼女に惹かれてしまったのだ。だから……」


 ザガンは一呼吸置いてから、話を続ける。


「だから、俺は彼女を殺したメフィル・ロロを許さん! 許せないのだ! にも関わらず……俺には勇気が無かった。奴に反逆する勇気が……しかし、それが今日叶うかもしれない」


 彼が何をしようとしているのか、ボクには分からないけれど……


「目的は一緒、と言う事ですね。ボク達と来ませんか?」


 ボクの提案に、ザガンは少し俯きながら両手を額の前で組み、暫く考えてから口を開く。


「……そうだな、既に役目は終えたも同然だ。俺にはお前達と戦う理由が無い」


 この戦いは、きっとボクらが勝つ。

 そう断言できるだけの条件が、ボクの頭の中では揃いつつあった。


「それでは、ベリィさんの所に行きましょうか。あ、もう少し訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」


 立ち上がったボクは、軽く伸びをしてからザガンにそう問い掛ける。


「ああ、どうした?」


「あなたにミアさんのミメシスを渡した人物は、今あなたが協力している者と同一人物ですよね? その人が誰なのか、ボク達の味方なのか、教えてもらえますか?」


 大凡はボクにも察しが付いているけれど、一応は聞いておきたい。

 それによって、この後ボクがどう動くべきなのかが決まる。


「良いだろう。俺を動かしていたのは———」


 それは、想像以上に大掛かりな計画であった。

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