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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
148/220

105.蒼い炎も吹き飛ばせ

 これ以上、足手纏いにはなりたくない。


 以前のサーナ救出作戦で、もしボフリが居なければ、勝っていたのではないだろうか?


 あーしは、ずっとそう思っている。


 あの男さえ居なければ、アンセル村が焼かれることは無かった。

 あの男さえ、居なければ……


 脱走犯を追う日々の中で、あーしはひたすら自分の剣技を磨き続けた。

 ビートさんには一通り双剣での戦い方を教わったし、あとは自分なりにそれを実戦に活かすのみ。


 ルカやミアさんも付き合ってくれて、より本番に近いような特訓が出来た。

 二人は本当に強くて、ルカ一人が相手でもあーしじゃ勝てないのに、ミアさんは魔物だから動きが人族や魔族とは違う。

 その上、ルカと同等かそれ以上に強いんだから、何回も負け続けて心が折れそうになった事もある。


 それでも、諦めなくて良かった。


 最後の脱走犯と戦闘になった時、あーしとヒスイの間に流れる風の動きが、僅かに変わった気がした。


 おかげで、もっと深くヒスイと繋がることが出来たんだ。


 今のあーしなら、奴を倒せるだろうか?


 目の前にいる、あの男を———


「さぁ、祭りの始まりだ」


 そう言ってニヤリと笑うボフリは、この戦いを楽しんでいるように見えた。

 ふざけやがって……こんな奴の為に、これ以上誰かが不幸になるのなんて許せない。


「テメェがどんな目的であーしらの村を滅ぼしたのか、そんなのは知ったこっちゃない。でもあの時、テメェはあーしがガキだったから見逃したんだろ?」


 あーしの問いに、ボフリは笑みを浮かべたまま答える。


「子供は殺したら可哀想だからなぁ。特にお前はまだ小さかったから、少しでも痛えことはしたくなかったんだ」


 コイツが子供を殺さない理由なんか知らないけれど、これはきっと奴の信念みたいなものだ。

 信念を持って戦う奴は強いけれど、あーしだってコイツには絶対負けたくない。

 今日ここで、決着を付けてやる。


「……痛かったよ、凄く。家族も住む場所も奪われた挙句、兄ちゃんは変な奴らに攫われて改造されちゃうし、もう心がボロボロだったよ。テメェのせいだ。もう二度とテメェが誰かを不幸にしない為に、あーしがケジメつけてやるよ」


 そう言って手にしたヒスイを、ボフリへと向ける。


「吹き飛ばせ、疾双剣ヒスイ」


 ヒスイに魔力を込め、技の構えを取った。


「ヒスイ疾風斬り」


 銀狐一閃のスピードも合わせて、通常の倍は速く動けている。

 これまでは銀狐一閃を乗せて聖剣魔法を発動すると、脚に負担が掛かりすぎて反動で動けなかったりしたけれど、特訓のおかげでそれも無くなった。

 今なら、反動無しでもっとスピードが出せる。


「ヘルフレイム」


 蒼炎の魔法を使ってくることは分かっていた。

 あーしはあまり考えて行動するタイプじゃないから、相手が炎を纏っていようと関係無い。

 猪突猛進、前だけを見て突き進め!


「お前……!」


 炎に関係なく突撃してきたあーしに驚いたのか、一瞬だけボフリの炎が揺らぐ。

 よし、今だ!


「フレイミングバッシュ!」


 兄ちゃんの灼炎剣ヒートルビーが放つ聖剣魔法が炸裂する。

 あーしはギリギリでその場から避け、攻撃を兄ちゃんに任せていた。


「チッ」


 兄ちゃんの攻撃はボフリの服を切り付けただけだったけれど、まだチャンスはある。


「ブラックスモーク!」


 ルークさんのスモークエイクが放った聖剣魔法で、辺りが黒煙に包まれる。

 そうしてボフリの姿が見えなくなる寸前に、あーしは奴の背後を取っていた。


「ヒスイ、爆空斬り!」


 ボフリに向けて放った攻撃による風圧は、あーし自身にも強い負荷を掛けてくる。


 奴と共にその場から吹き飛ばされ、お互い地面に激突して倒れると、直ぐに立ち上がって攻撃の体勢を取った。


「お前……死ぬ気だな」


 ボフリはそう言って、ニヤリと笑う。

 そうか、奴には今のあーしがそう見えるんだ。


「死ぬ気なんかねーよ。テメェに勝つ為に戦ってんだ、死ぬ気でなぁ!」


 死んでも勝とうだなんて思っていない。

 死ぬ気で戦って、絶対に生きて勝ってやる。


「同じじゃねぇのか?」


 分からないだろうな、初めから死ぬ事を前提に戦っているような奴には。

 ボフリは死ぬ為に戦っているようなものなんだ。

 だから死を恐れていない。

 ある時、リタ団長が話していた事を思い出す。


「死を覚悟して戦っている奴は強い。死ぬ事が怖くないから、どんな状況でも自分の身を守らないで、ひたすら攻撃だけに集中出来るんだよ」


 それなら、あーしも死ぬ事を恐れなければ良い。


 死への恐怖を克服するのは、簡単な事では無いから、今のあーしが本当に死ぬ気で戦えているのかなんて、そんな事は分からない。

 でも、ボフリにはあーしが死ぬ気に見えたらしい。

 それなら、成功かな。


「これが、あーしの覚悟だ」


 そう言ってヒスイに魔力を込め、次の魔法を構築し始めた。

 次に放つ聖剣魔法の発動中は、一切の防御が出来なくなる。

 もしかしたら、ヒスイはそんなあーしの覚悟に応えて、この法陣を教えてくれたのかも知れない。


「……そうか、なら殺されても恨むなよ」


 お前の事は、ずっと恨んでいるんだよ。

 でもそれ以上に、あーしは友達の助けになりたい。


 これはもう、あーしだけの戦いじゃないから。

 ベリィ達がメフィルに集中できるように、あーしが必ずボフリを倒してみせる。


「カーディナルプロージョン!」


「クリミナルフレイム……!」


 兄ちゃんとボフリの魔法が激突する。

 奴の蒼炎魔法は強いけれど、兄ちゃんだってあれからずっと聖剣魔法の練習をしてきたんだ。

 四精霊サラマンダーから託された、灼炎剣ヒートルビー。

 四霊聖剣の中では最も攻撃に特化した神器だから、聖剣魔法の威力は桁外れだ。


「アモンズ!」


 更に兄ちゃんは鬼人の姿へと変身し、燃え上がる蒼炎の中に突っ込んで行く。


「この姿になれば、多少は熱に耐性が付くからなぁ! バーニンクリメイション!!」


 兄ちゃんの蒼炎魔法と、ボフリの蒼炎魔法が衝突し、周囲に凄まじい熱波が広がった。


「アジャスト、グランドコラプス!」


 その熱波を少しでも軽減させようと、ルークさんがあーしの前で熱波の軌道を逸らし続けてくれている。


「シルビアさん、僕もバーンも合わせるから、そっちのタイミングでいつでも使って!」


 ルークさんの言葉に、あーしは無言で頷く。

 詠唱以外で声を出せない。

 当然ながら、周りに気を遣えるほどの余裕すら無いんだ。


「ハッハッハッハッハ! やるじゃねーかよ! まさかお前がここまで蒼炎を使いこなせるとはなぁ!」


「テメェのおかげだよ、クソ野郎! 感謝の印にぶっ殺す!」


 兄ちゃんのお陰で、ボフリは攻撃に集中しているようだ。

 相手が攻撃をしている時は、必ず隙が生まれる。

 今のうちに、早く構築するんだ。


 魔法を使えない事が、ずっとコンプレックスだった。

 あーしがリタ団長やベリィのように、ウルティマを使える日が来るなんて、考えてすら居なかった。


 でも、心のどこかでずっと願っていたんだ。


 もっとひどく大きな、全てを壊す風を起こしたい。


「法陣展開、空を荒らせ———」


 あまりに不完全過ぎるウルティマだ……!

 威力も本来の半分程度しか出せていないかも知れない。


 魔法が使えないあーしは、法陣に魔力を流し込むのも下手くそだから。


 でも、あーしは動ける。

 足りない分は、あーし自身の脚力でカバーするんだ!


「ヒスイ風神連斬(かざみれんざん)!」


 一気に踏み込み、燃え盛る蒼炎の中に突っ込んだ。


 中途半端な風は、炎の威力を強めてしまう。

 だったら、この炎を吹き飛ばす程の風を起こしてしまえば良いんだ。



 “どっどど どどうど どどうど どどう


 蒼い炎も吹きとばせ


 でっかい悪意も吹きとばせ


 どっどど どどうど どどうど どどう”



 無我夢中だったから、そんな歌を歌っていたような気もする。


 “どっどど どどうど どどうど どどう”


 そういえば、この歌は村長があーしに教えてくれたんだっけ。

 意味はよく分からないけれど、これを歌っていたら、風と一つになれる気がするんだ。

 ただの気のせいだと思う。

 でも、おかげで今日まで頑張って来れたよ。



 気付けば燃え盛っていた蒼炎は消え去り、目の前には大火傷を負ったボフリが倒れていた。

 あーしがやったのか、右腕が無くなっている。


「ヒュー……ヒュー……」


 その口からは、今にも消えそうな程の小さな息遣いが聞こえた。

 あーしは火傷の痛みを堪えながら、ボフリに刃を向ける。


「さよなら……」


 みんな、仇は取ったよ。

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