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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
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104.始まりの剣

「照らせ、黎明剣(れいめいけん)グローライザー!」


 その一瞬で霧は晴れ、空には太陽が昇った。


 もしかしたら、そう見せているだけなのかも知れない。

 アタシの、この黎明剣グローライザーが。


 キラキラと光り輝く大剣は陽光アイネクレストに収納されており、未だ熱と光を放ち続けている。

 アタシはそれに手をかけ、アイネクレストから引き抜いた。


 これが、始まりの聖剣……。


「ま、まさか……本当に奴の力を……継承したと言うのか……!?」


 メフィルはアタシの事を見て、そう怯えるように言った。

 気が付くと、空は既に元の状態へと戻っている。

 骸の星座も無い、赤い月だけが浮かぶ夜空だ。

 アタシはアイネクレストを後ろに背負い、両手でグローライザーを構える。


「半神ヘロディスの想いは、アタシが受け継いだ。必ず、アタシがお前を倒す!」


 とは言ったものの、やはり視界に入っていると魔法は使えない。

 一体どうすれば……そうか、そうすればいいんだ!


「シャーロット殿、どうする?」


 ジェラルドさんが、メフィルから目を逸らさずにそう訊いてくる。


「アタシに魔法を使わせてください。あと、ベリィちゃん!」


 アタシに呼ばれると、ベリィちゃんはグローライザーからアタシの顔に視線を移した。


「サーナちゃんは任せた!」


「……ありがとう、シャロ!」


 そう言って笑うと、ベリィちゃんはメフィル本体へと向かって行く。


 奴の視界から、一瞬でも外れる事ができれば良い。

 アタシの考えが正しければ、もっと戦い易くなるはずだ。


「了解した!」


「私も手伝います!」


 そう言って、ジェラルドさんとヴェロニカさんがメフィルへと攻撃を仕掛ける。

 幸いにも、本体のメフィルは儀式に集中してパノプティコンを解除しているようだ。


 だから注意するのは、目の前のメフィルだけで良い。


 軈て二人の猛攻により、アタシはメフィルの視界から抜け出す事が出来た。

 それから一気にメフィルとの距離を詰め、奴の視界に入る前に魔法を発動する。


「エクリプス!」


 あの時、咄嗟に発動させたアイネクレストの魔法。

 どうやら、今は法陣がアタシ自身に刻まれているらしい。


 だからアタシの魔力で、この魔法を自由に使う事が出来る。


「しまっ……!」


 やっぱり、メフィルの焦り具合からしても、この魔法を使ったのは正しかったんだ。

 あの時、エクリプスを発動した状態でならメフィルの魔力阻害が効かなかった。

 初めて使った時はアイネクレストの力だったし、時間も短くなってしまったけれど、今ならもっと長く発動出来る。


「行くよ、黎明剣グローライザー。黎明一突(れいめいいっとつ)!」


 初めて使う聖剣魔法。

 法陣に魔力を流し込んで使うというのは、こんな感覚なんだ。


「くっ、第一禁断魔法、カース・オブ・ダークネス!」


 咄嗟に放たれたメフィルの魔法に、グローライザーの聖剣魔法が相殺されるが、こちらの攻撃が重かったようで、メフィルの体を後方に吹き飛ばした。


 時間は限られているから、アタシは直ぐに次の聖剣魔法を発動する。


赫灼焔舞(かくしゃくえんぶ)!」


 炎を纏ったグローライザーを構え、アタシは舞うようにメフィルへと斬り掛かった。


「第五禁断魔法、アンダーテンペスト!」


 直後、辺り一面にマグマの海が広がり、凄まじい熱が伝わってくる。

 それはまるで地底世界のようで、空は分厚い岩の壁に覆われていた。


 しかし、それも一瞬にして消滅する。

 エクリプスが続く限り、どんな攻撃もアタシには通用しない。


「やめろおおおおお!!」


 グローライザーの刃は遂にメフィルの首へと到達したけれど、寸前で避けられてしまったから、文字通り首の皮一枚繋がった状態になった。


 やっぱり、再生されるよね。


「……くそっ、なぜだ! なぜ上手くいかないっ!」


 再生されると思っていたし、案の定メフィルの首は徐々に繋がりつつあるけれど、それが完全に元の状態へと戻る事は無かった。


 その瞬間、魔力を通してアタシの中に流れ込んでくるヘロディスの記憶……。


「メフィル、これは多分、ヘロディスがあなたに遺した呪いだよ。今の黎明魔法は、あなたの持つ禁忌の魔力を焼き尽くす力だ!」


 この力は、元々グローライザーには無かった力かも知れないけれど、ヘロディスはこの時の為に切り札を残してくれていたんだ。


「ふざけるな……シャーロット・ヒル! 貴様だけは絶対に許さないぞ!」


「許さない……? 何言ってんの? 許されないのはお前の方だ! メフィル・ロロ!」


 全力でグローライザーに魔力を込め、再びメフィルに攻撃する。


「黎明一突!」


 メフィルが魔法を構築する間もなく、グローライザーの刃が奴の胴体を貫通した。


「グハッ……!」


 これで倒せるとは限らないし、今この場で魔法が使えるのはアタシだけだ。

 エクリプスの効果が適用されるのは、どうやらアタシだけ。

 その証拠に、ジェラルドさんも、ヴェロニカさんも魔法が使えていなかった。


 でも今この状況なら、アタシの攻撃によって、魔力阻害が途切れた今なら行ける!


「幻影、ファントムイスカ!」


 あの時、ベリィちゃんがアイネクレストに入れてくれた幻を見せる魔法。

 いつか使う時が来ると思って、残してもらっていたんだ。


「な、なんだ……これは……!」


 背負っていたアイネクレストはエクリプスの発動で黒くなっていたけれど、ファントムイスカの幻影によってその形状を変化させる。

 先端が交差した鳥の嘴のような刃が広がって行き、それがメフィルを挟み込んだ。

 勿論、ただの幻だ。


 幻だから、今のメフィルは本物を見ていない。


「今だっ!」


 アタシの掛け声で、二人は一気に魔法を発動した。


「シャロさん、感謝します! フラワーラプソディ!」

「コブラスティング!」


 勝機が見えた。

 相手は偽物……でも、遂に!


「アタシの中に焚べられた炎は、この世界を照らす陽光だ。照らされた世界から立ちのぼる陽炎は……メフィル・ロロ、お前の禁忌を焼き尽くす煉獄だ。照らせ、黎明剣グローライザー」


 アタシは再び言の葉を詠唱し、グローライザーに魔力を流し込む。


「やめろ……やめろ……!」


 そうして二人の魔法がメフィルへと到達する寸前に、アタシは剣を振った。


「カギロイ」


 立ち揺らめく透明な炎は、アタシの目の前で禁忌を焼き尽くした。

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