103.陽光の盾使い_RISING
小さい頃から、アタシは力持ちだった。
だから、この力を人助けの為に使いたくて、冒険者になったんだ。
人の笑顔が好きだった。
アタシは誰かの笑顔を守りたくて、ずっと戦ってきたんだ。
キラキラしたものが好きだった。
輝きは、アタシ自身を元気付けてくれるから。
アタシもそんなキラキラと同じように、誰かを照らすことが出来たら……いつか陽光アイネクレストみたいに、誰かにとってのお日様みたいな存在になれたらって、ずっと思っていた。
でも現実は厳しい。
誰かを助けても、余計なお節介だとか、鬱陶しいだとか思われてしまう事もあるし、助けたのに裏切られたことも沢山ある。
嫌な思いをさせてしまっていたら、申し訳ないな。
けれど、アタシは元々こういう性分なんだ。
そんな時、旅の途中である一人の女の子と出会った。
その子の名前はベリィちゃん。
小さくて可愛くて、立派なツノが生えたとても強い子だ。
ベリィちゃんが魔王様の娘だって知った時、最初は驚いたけれど、きっとここに来るまでに凄く辛い思いをしてきたんだと思うと、放っておく事ができなかった。
勿論、アタシに何かが出来るわけじゃない。
アタシなんかよりベリィちゃんのほうがずっと強いし、心配することさえ余計なお節介だと思ってしまった。
それなのに、どうしてか助けたくなってしまったんだ。
このままベリィちゃんを一人にしたら、アタシは一生後悔するかもしれないって、そう思った。
それから、色々な事があったな。
シルビアちゃん、初めて会った時は怖い人かと思ったけれど、シルビアちゃんにはシルビアちゃんの事情があって、聖剣使いとして懸命にヒスイと向き合っている、不器用だけど努力家の女の子だった。
ルカくんは、最初は優しい男の子だなと思っていたし、実際優しいけれど、その中にも彼なりの信念があって、仲間の為なら体を張って戦える強い子だった。
サーナちゃんとの出会いは、最悪だったな。
親友だったベリィちゃんを傷付けて、酷い事も沢山言って、あの時アタシは凄く怒っていた。
けれど、きっと何か事情があるんだと思っていた。
案の定、サーナちゃんはブライトさんに利用されていただけだったし、そのブライトさんすらもメフィル・ロロに利用されていたのだから。
だからアタシは、サーナちゃんのことを敵としてじゃなくて、ずっと友達として接してきた。
ベリィちゃんは、サーナちゃんの事を一時は恨んでしまっていたけれど、アタシだけはサーナちゃんを信じてあげよう、いつか仲直りできるように、サーナちゃんと友達でいようと思っていたんだ。
漸く、それが叶うかもしれない。
ある時、ベリィちゃんはアタシにこう言ってくれた。
「シャロと初めて出会った日、私にはシャロが太陽に見えた。シャロの笑顔が、真っ暗な月を優しく照らす陽光みたいだった。あの時、一人じゃ何も出来なかった私を助けてくれて、嬉しかったんだ」
ああ、アタシは誰かにとってのお日様になれたんだな。
言われた時は照れ臭くて、上手くありがとうって言えなかったけれど、本当に嬉しかったよ。
余計なお節介でも良いから、ベリィちゃんの隣に居て良かった。
ベリィちゃんの事、助けてあげられて良かった。
でも今度は、ベリィちゃんだけじゃない。
サーナちゃんも、ここに居るみんなの事も、アタシが照らしてみせる。
「問題ない……魔法を、魔法を封じてしまえば良い。せめて貴様らだけでも……!」
メフィルが焦る理由は、他のメンバーが分散してしまい、上手く遮蔽物に隠れて魔力阻害の適用範囲外に行ってしまったことだろうか?
それとも、何か別の理由だろうか?
そんな事はどうでもいい。
メフィルの召喚した魔物のうち、2体はセシル様の傀儡が、もう2体はビートさんやポルカさん、ジャックさんやマットさんが分担して相手をしてくれている。
ボフリの相手はシルビアちゃん達が、ディアスの相手はエドガーさんが、ザガンとはルカくんが戦っている。
アタシ達は、ただサーナちゃんを助ける事に集中するんだ。
「俺が先陣を切って隙を作る! その隙に、ベリィ殿はサーナ殿を!」
「ありがとう、ジェラルド!」
メフィルと戦うのは、ベリィちゃん、ジェラルドさん、ヴェロニカさん、そしてアタシ。
一見すると余裕を持ってサーナちゃんを助ける事が出来そうだけれど、そう簡単には行かない。
「第七禁断魔法、スカルギャラクティカ」
突如、赤い月が昇る夜空に無数の骸が星座を模して現れ、地面にも骸の山が広がってしまう。
けれど、もうその手には乗らない。
アタシは骸に足を取られないようその上を移動し、メフィルに殴り掛かった。
「もう二度と、ベリィちゃんを泣かせたりなんかしない!」
この戦い、やっぱりアタシ達が圧倒的に不利だ。
メフィルは自由に魔法が使えるのに、アタシ達は魔法を封じられている。
現状、出来ることは物理攻撃しかない。
サーナちゃんを助けたいのに、これではメフィルの攻撃に邪魔されて、近付くことすら出来ない。
「私は儀式で忙しいんですよ、あなた方のお相手をしている暇はありませんので」
そう言ってアタシの殴打を避けたメフィルは、その場から距離を取った。
「さて、私は儀式に戻りますから、後は頼みますよ」
そう言ったメフィルの前に現れたのは……メフィル……?
アタシ達が知っている、あのメフィル・ロロだった。
「私自身が本体から抜け出さなくとも、一人までならば分身に意識を分離させることが出来るのですよ。さあ、ここからは、あなた方に馴染み深いこの姿で戦うとしましょうか」
後から現れたメフィルはそう話し、あの不気味な顔で笑った。
(照らせ)
ふと、頭の中に声が響く。
いや、これはさっきから聞こえていた。
(照らせ)
聞き覚えのある、あの温かくて力強い声だ。
その声はまるで夢の中で起きたことのように、聞こえては朧げな記憶として頭の中に残っている。
「シャロ!」
不意に、ベリィちゃんの声で我に返る。
気が付くと、すぐ目の前までメフィルが迫ってきていた。
「ぐっ!」
アタシはそれをアイネクレストで受け止め、メフィルの顔を睨んだ。
何かの魔法を纏っていたようで、メフィルの持つ剣からは黒いオーラが放たれている。
「何故生きているのか知りませんが、また殺せば良いだけの話……蘇ったと言えど、所詮実力はあの時のままでしょう!」
確かにその通りだ。
けれど、もうあの時みたいにベリィちゃんを独りにはさせない!
(照らせ!)
不意に、その声が大きく聞こえた。
その瞬間に、アタシの体温が一気に上がる。
熱い……!
あの日、目覚めた時に感じた熱と同じだ。
そうか、言の葉……!
どうして今まで忘れていたんだろう?
目覚めた瞬間は、あんなにも鮮明に覚えていたのに。
考えてみれば、なぜメフィルのことをフェレストと呼んでしまったのか。
アタシは無意識に、あの夢の内容を覚えていたんだ。
いや、夢じゃない。
あれは……
半神ヘロディス、陽光アイネクレストの記憶なんだ。
(照らせ!)
分かったよ、アイネクレスト。
今日までアタシを導いてくれて、ありがとう。
そして、これからもよろしくね。
「ジェラルドさん、ヴェロニカさん! 一瞬で良いから、アタシに時間をください! ベリィちゃん、アタシに魔法を使わせて!」
大丈夫だよね、きっと出来る!
「承知しました! 行きましょう、ジェラルドさん!」
「了解! 全力で援護しよう!」
そう言って、二人はアタシと入れ替わるようにメフィルとの交戦を始める。
「シャロ、私の魔法で奴の視界を遮る。数秒しか作れないだろうから、その間に出来そう?」
「うん、絶対に大丈夫!」
「……わかった、任せて」
そう笑ってみせると、ベリィちゃんはメフィルと自分の間にジェラルドさんとヴェロニカさんが入り、視界から遮られた一瞬の隙をついて魔法を発動する。
「エタニティフォグ!」
それと同時に、アタシも自分の中にある魔力を解放させた。
周囲に立ち込めた霧によって、メフィルの魔力阻害が効かなくなる。
これで行ける!
初めてだ、魔力の流れを感じたのは。
上手く出来るかな、きっと出来るよね。
そうして、アタシは口を開く。
言の葉は———
「照らせ、黎明剣グローライザー!」
夜が、明けた。