幕間 コロッサスパペティア
この傀儡には、一つだけデメリットがある。
魔力を介して傀儡の頭部にある装置と自身の脳を繋げている為、視界は傀儡の目から直接眺めているように映ってくれる。
しかし脳と直接繋げてしまうせいか、何らかの作用でドーパミンが過剰なまでに分泌され、所謂ハイになってしまうのだ。
「アッハハハハハハ! ご覧なさいケイシー! 人がまるでゴミのようです! アッハハハハハハハハ!」
「セシル様、敵は目の前です。落ち着いてください」
「この傀儡はわたくしをメフィルの魔力阻害から遮蔽する役割を担っておりますから、内側からでしたらいくらでも魔法が使い放題ですよ! 操縦席の乗り心地も良いですし、外殻はアビスさんの糸を使い軽量かつ丈夫なものに、外殻の内側に魔力装甲を張り巡らしておりますから、もう最強です! それにこの二つのハンドルにはキラユラの糸が繋がっておりますから、動きも自由自在で、ほら! ほらぁ! わたくしは天才です!!」
ケイシー、今わたくしに何か言ったのかしら?
まあ、とりあえず目の前の敵を殲滅する事だけを考え……!
「アッハハハハハハ! おっ……ゲホッ、ぐっ……行きますよぉ!」
「セシル様っ……!」
パペティア・ギガントを改良し、モンスタの要素も取り入れたこの傀儡こそ、わたくしの最高傑作……!
わたくしの身体が持つ限り、決して負ける事など有り得ない!
敵はドールとフランケン。
確かに強いけれど、この装甲が破壊される可能性は極めて低いだろう。
とは言え、問題はわたくしの攻撃があれに通用するかだ。
どれほど圧倒的な防御力を誇っていたとしても、破壊力がなければ意味が無い。
パペティウム熱線を放つべきか……否……
「もう壊せばいいですかねぇ! 可哀想な血塗れのお人形さん! どうして、誰がこんな酷い事を!」
自分でも何を言っているのか、どうして目の前のドールの腕を引きちぎっているのか、まるで分からなくなってきてしまう。
これは危険だ。
否、そんな事すら、もはやどうでもいい!
「セシル様、屍が来ます!」
「見えておりますよ! 視界良好ですから!」
まるで360度見えているかのように、極限まで視界が広くなっている気がする。
「あっ」
ふと、わたくしは唐突に我に返った。
そうか、こんなリスクを冒してまで戦う必要は無い。
「セシル様……?」
「ウキウキで動かしておりましたので、少々判断力が欠如しておりました。オムニアイズを発動させていれば、ドーパミンの過剰分泌を抑制出来るようです」
わたくしとしたことが……搭乗した直後にリンクしてしまったが為に、冷静な判断が出来なくなっていたようだ。
「はしたない所をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。さて、本番はここからです」
わたくしもベリィさんには感謝している。
ずっと側で仕えてきてくれたケイシー、カンパニュラを守ってきてくれたヴェロニカさん、多くの知恵や技術をくださったアビスさん、そうして仲間の皆さんの為にも、今ここでわたくしの全力を発揮しなければ。
ふと、知恵の眼に何かが映り込む。
これは……
「……ふふっ、アハハハハハハッ!」
「セシル様! 大丈夫ですか!?」
「ええ、失礼致しました」
そうか、そう言う事だったのか。
知恵の眼に映るその様子を見て、わたくしは思わずニヤリと笑った。
「ケイシー……この戦い、我々の勝ちです」
知恵の眼には、時折うっすらと未来の様子が映ることがあるけれど、この確証はそれによって見えた勝利では無い。
ただ、そう信じさせる程の光景が、この眼に見えてしまったのだ。