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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
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101.明日へ

 私が眠っている間、再びセシル主導の下で、サーナ救出の新たな作戦を企てていたらしい。

 先ず捕えたフルーレだったが、奴もメフィル本体とサーナの居場所は知らなかった。


 しかし、有力な手掛かりは掴むことが出来たらしい。


 3日後に儀式があり、そこへメフィル本体がサーナを連れて現れる。


 何の為の儀式なのかと思ったけれど、セシル曰くメフィルは女神の力を我が物としたいのだろうと言っていた。


 そう予測できる大きな理由が二つあり、一つはその日は赤い月が昇る日であるという事。

 月が赤くなると月の魔力がより一層強くなり、それに呼応して女神の魔力が放出され易くなる。

 メフィルはその日を狙い、サーナの魔力を吸収しようと目論んでいるようだ。


 そうしてもう一つは、メフィルが作り物の器では無く本体として現れるという事。


 これらの理由から、3日後に儀式があるという情報は信憑性のあるものと考えられる。


「と、教えてくださったのはアビスさんですけれどね。わたくしなりにも調べてみましたが、やはり情報は確かのようです」


 迷宮のアラクネ、アビス。

 魔物でありながら私達にここまで協力してくれる理由は、人が好きだからというだけでは無いだろう。

 恐らくメフィルがやろうとしている事は、この星全体に大きな影響を及ぼすものだ。

 それには同じ星に住む生命として、彼女も危機感を抱いている。


 深淵の守護者である以上、迷宮から離れることが出来ない彼女は、私達にこの世界を託してくれているのかもしれない。


「儀式の場所は?」


「メトゥス岩山(がんざん)の麓です。しかし一つ問題がありました。わたくし達は、メフィルの仲間であるフルーレを捕えてしまったのです。それがあちら側にバレると、フルーレが情報を吐いてしまったのではないか?と疑われてしまい、儀式を行わない可能性があります」


 確かにその通りだ。

 メフィルにバレなければ良いのだけれど、あと3日もフルーレに動きが無かったら、流石に怪しまれるだろう。


「そうだね……それで、今フルーレは?」


「良い質問ですね。そこで考え付いたのが、ウルフさんの獣操魔法です」


 獣操魔法って、人族や魔族は操れないはずだ。


「獣操魔法で、どうやって……?」


「フルーレの使い魔であるハイジャックスライムを、ウルフさんが奪ったのですよ。既にそのハイジャックスライムをフルーレに寄生させ、操った状態で行動させています。そうすれば、儀式の日まで怪しまれずにこちらも事を進められますからね」


 なるほど、その手があったか……。

 あのスライムは少しトラウマだけれど、味方になってくれたのは心強い。


「やっぱりセシルは凄いね。ありがとう、色々」


「わたくしは指示を出しているだけです。協力してくださる皆様のおかげで、ここまで出来たのですよ。本来であれば、わたくしも戦えたら良いのですが……なかなか体調が万全とは行かずに、申し訳ありません」


 そう言う珍しく弱気なセシルを見るのは、何だか新鮮な気持ちだった。

 普段は自信家の彼女だけれど、やはり悩みはあるのだろう。


「十分だよ。セシルは天才美少女侯爵令嬢なんだから、もっと自信持って」


「ふふ、そうですね。らしくない発言でした。次の襲撃は、わたくしもキラユラ達を連れて参戦いたします。出来る限りのフォローはさせて頂きますので、必ずサーナさんを助けましょう」


「うん、ありがとう。絶対に……」


 メフィルは手強いけれど、上手くいけば奴の隙を見てサーナを助けられるはずだ。

 せめて今は、それさえ出来ればいい。


 病院からシルビアの家に戻ると、いつもの三人に加えてミアとルーナも待っていてくれた。


「おかえり、ベリィちゃん!」

「キュイッ!」

「もー! マジで心配だったんだから!」

「でも、無事で本当に良かったです……!」

「ベリィ様、こんなに痩せてしまわれて……沢山食べてくださいね!」


「あ、ありがとう」


 ミアが沢山料理を用意してくれたけれど、正直病み上がりでそこまで食欲がない。

 それでもミアの料理は本当に美味しくて、結局沢山食べてしまった。

 皆と久しぶりに色んな話をしたけれど、その中で一つ気になったのはシャロの状態だ。


 彼女はどうやって生き返ったのか?

 あの時、確かに心臓は止まっていたはずだ。

 それでも尚、あの身体は熱を帯び続けて、今こうして私たちの前に普段と変わらぬ様子で居る。


 しかし見た目こそ変わらないものの、気配はどこか違うように感じた。

 これまでシャロから感じることのなかった、不思議な魔力……。

 無意識なのか、それが時折彼女から放たれているようで、私の魔力感知に引っ掛かる。


「ねぇ、シャロ……身体は何ともないの?」


「うん、平気だよ! なんかよく分かんないけど、前より体の調子が良くて!」


 確かに顔色も良いし、彼女の中にある魔力は決して悪いものではないように思えた。

 なぜならば、私はその魔力を知っている。

 シャロがアイネクレストの言の葉を詠唱した時に放たれる魔力と、全く同じものだったからだ。


 太陽より残火が尽きし時、そこに神の御使(みつか)いあり。太陽に火が焚べられし時、黎明を(おとな)う魔法が(なんじ)と共にあらんことを。


 この記述、シャロを助けたのはアイネクレストの力という事なのだろうか?

 だとすれば、シャロに魔力が無かったのはアイネクレストの器だったから……?


 考えたところで分からないし、シャロ自身も難しい事は分からないだろう。

 今はただ、元気ならそれで良い。


 それから二日間、メフィルの元に乗り込む為、皆で作戦会議や特訓などをした。

 勝てる確証は無いけれど、恐らく今のシャロがメフィルにとって最も脅威となる存在のはずだ。

 それに、この機を逃したらもう二度とサーナを助けられないかもしれない。


 いつか訪れる平和な未来の為に、今はなんとしても明日へ進んで行こうと思った。

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