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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
139/220

幕間 目覚め

 ずっと声が聴こえていた。


 誰の声なのか分からないけれど、どこか懐かしさを覚えるような、お日様のように温かい声。


「目を覚ませ、シャーロット」


 はっきりと聴こえた。

 目を開くと、そこは全く知らない場所。


 立っているのに、身体の自由が利かない。

 口が上手に動かせなくて、声を出すことすら出来ない。


 あたり一面が白い光のようなものに包まれていて、普通ならば目を細めてしまいそうだけれど、その光は不思議と優しく感じて、安心感を与えてくれた。


「時間は限られている。汝に大切な事を伝えよう」


 白い光に包まれた空間で、その声だけが響いている。

 姿は無いけれど、まるでずっと昔から声の主を知っているような、そんな気がした。


「我はヘロディス、汝の持つ陽光アイネクレストに宿りし記憶だ」


 アイネクレスト……半神、ヘロディス。

 そうか、そういう事だったんだね。


 この一瞬でアタシの頭に流れ込んできた記憶は、半神ヘロディスがメフィル・ロロ……いや、フェレストに暗殺されてから始まりの聖剣を封印し、陽光アイネクレストに自身の力を込めて、それがアタシの手に渡るまでの記憶。


 アタシのご先祖様は、魔王ゲオルグ様からアイネクレストを受け取って以降、ずっと守り抜いてきてくれたんだ。

 そうして、それはおばあちゃんも、お母さんやお父さんも……


「我が神器は、元より我が魔力にのみ応えるよう作られている。シャーロット、汝のように魔力を持たない者だったからこそ、我は我自身の魔力で汝の思いに応えることが出来た。そうして今、我の魔力は汝と一つになろうとしている」


 ヘロディスの話し声と同時に、その記憶がアタシの頭にも入ってくる。

 アタシに魔力そのものが無かったのは、運命だったとは言い切れない。

 ひょっとしたら偶然だったのかもしれないし、そんなアタシがたまたまアイネクレストと出会っただけ……かも知れない。


 けれど、一つ確かなことがある。


 アタシが陽光アイネクレストの、資格者であるという事だ。


「シャーロット・ヒル、アイネクレストを通し、我が神器の封印を解くのだ。言の葉は、照らせ———」


 目が覚めた。


 アタシ……生きてる?

 あの時、確かにメフィルに刺されて、そのまま意識が……


 夢を見ていた。

 夢の記憶ははっきりと残っていて、目覚めたばかりなのに心臓の鼓動が早く、全身が熱くて汗をかいているのが分かる。


 アイネクレスト……そうだ、アイネクレストは!?

 勢いよく飛び起きると、それはベッドの横に立て掛けて置かれていた。

 よかった、無事だったんだ。

 手を伸ばしてアイネクレストに触れた瞬間、強い電流が流れるかのような痛みが指から全身にかけて走った。


 痛い、更に身体が熱くなる……

 熱でもあるのかな?

 それにしては、直ぐにでも動き出せそうなぐらい身体の調子が良いように感じる。

 とりあえず、飲み物が欲しい……


「え……」


 ふと、部屋の入り口あたりから声が聞こえた。

 今気付いたけれど、ここはシリウスの病院?


 声の主は……


「シルビアちゃん、おはよう……?」


「……あ、あ、シャロ……シャロォ! ま、ままま待って、待ってて、みんな! みんなぁ!!」


 みんなを呼びに行ってくれたのか、シルビアちゃんは瞳から涙を溢れさせながら廊下を凄い勢いで走っていった。

 廊下、走ったら駄目じゃなかったかな?


 そこまで心配をかけてしまうぐらい、アタシは長く眠っていたんだ。

 いや、死んでいたのかな?


 シルビアちゃんに飲み物をお願いするのを忘れてしまったけれど、それよりも大切な事を思い出した。


 ベリィちゃんを、助けなきゃ。


 今、ベリィちゃんがどうしているのかなんて分からないし、アタシが心配する必要もないぐらいあの子は強い。

 でも、ずっと心配だったんだ。


 眠っている間も、ずっと……


「ほら、だってシャロが目を覚まして! ほら!」


「シャロさん……! シャロさん!」


「キュイッキュイッ!」


 シルビアちゃん、ルカくん、みんな……って、ルーナちゃん、なんでこっちに居るんだろう?

 アタシは急いでベッドを降りて立ち上がり、アイネクレストを手に持った。


「ベリィちゃんは!?」


 そこでアタシは、自分が白い布切れ一枚みたいな服しか着ていない事に気付く。


「……アタシの服は!?」


「も、持ってくるね!」


 シルビアちゃんはアタシの服を取りに、そう言ってまた病室から出て行った。

 待っててね、ベリィちゃん。

 今度はアタシが、君を助ける番だ。

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