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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
136/220

幕間 勇者の役目

 あの日から、ベリィは一度もシリウスに戻ってこない。

 唯一の手掛かりだった教会が破壊された後、ベリィの転移魔法でシリウスに帰った時、既に彼女の姿は無かった。


 転移直後、空間魔法でどこかへ行ってしまったようだ。


 転移と同時に二重で構築していたのか……ベリィの実力は、既にリタ団長を上回っているように思える。


(ぬし)よ、見つけたぞ」


「本当か!?」


 あれから俺は、ベリィの事を探し回っていた。

 漸くルミナの魔力感知がベリィの魔力を捉えたらしく、俺は急いでその方向に向かう。


 そこに居たベリィは、交戦中の何者かに止めを刺すところだった。


 ベリィは自身の指を鳴らした後、一瞬で敵の背後に移動したかと思えば、そのまま相手を気絶させてしまった。

 いくら何でも速すぎる。

 あれは移動したのではなく、もはや転移したようにしか思えない。

 しかしあれは転移でも空間系の魔法でもない。

 時を止めたのか……?

 そんな事が出来る奴は、これまでに見た事がない。


「ベリィ!」


 俺が声を掛けると、ベリィはこちらをじっと見て動きを止めた。


「そいつは……?」


「またメフィルの刺客。大した情報は持ってなかった。拘束お願い」


 ベリィはそう言って気絶した男を俺の前に放り出すと、また何処かへ行く為の空間魔法を構築し始めてしまった。


「待て、ベリィ! 待ってくれ!」


 俺は半ば叫ぶように彼女を呼び止め、持ってきたカバンから紙に包まれた一つのパンを差し出す。


「ミアさんが焼いてくれたんだ。今日もまだ食べてないだろ? 食べないと、元気でないから……」


 彼女の姿は見るからにボロボロで、殆ど休みなく戦っているのが見て取れる。


「お腹空いてないんだ、ごめん。もういいよ」


「良くないだろ……! どうして———」


「もういいって言ってるじゃん!」


 あまりの強い言葉に、俺は思わず手に持っていたパンを落としてしまう。

 ツノの威圧感が、初めて自分だけに向けられる事への恐怖……俺は、何故こんなにも……


「これ以上、誰も傷付けたくないの。私はもう、リタの魔法と同等の威力が無制限に出せるようになった。正直、みんなが足手纏いなんだ。だから本当に……もう良いんだ」


 そう言ってこちらを振り返った顔は、酷く悲しそうで……今の言葉が本心ではない事など、直ぐに分かった。


 どうして、俺は……


「……ごめん、行くね」


「っ! ベリィ!」


 咄嗟に彼女の手を掴もうとしたところで、それはまた何処かへと消えてしまった。

 何故こんなにも……


「どうして……俺はこんなに無力なんだよ……勇者だろ……なんで一番守りてえモンが守れねえんだよ!」


 いくら叫んでも、何かが変わるわけではない。

 何も出来ないというのは、こんなにも悔しいのか。


「主、帰るぞ。勇者の役目は、あの娘だけを助ける事では無い」


「んなこと分かってる! いや……そうだな。帰ろう」


 薄情だが、ルミナの言う通りだ。

 何かあった時、俺まで身体を壊してしまったら元も子もない。


 シリウスに戻ると、自警団にシルビアとルカ、それにウールとミアさんもやって来ていた。


「……お嬢は?」


「……駄目だった」


 俺はウールに合わせる顔がない。

 奴もベリィのことが心配で、脱走犯を捕まえてからは毎日自分なりに探し回っている。


「駄目って何だよ。会ったのか?」


「会った。この男を引き渡されて、そのまま……」


 拘束した男はジェラルド団長が引き取って行き、その場は暫くの間、沈黙が続いた。


「お前がそんな顔しててどうすんだよ。勇者なんだろ? もっと気合い入れろ!」


 沈黙の中、そう言って俺の肩を強く叩いて来たのはウールだった。


「俺は、やっぱり勇者失格だ……」


「馬鹿! あの時助けに来たお前めっちゃ格好良かったじゃねーかよ! お嬢のこと助けてえんだろ? オレやみんなだってそうだ。だからお前一人で背負い込むな。みんなで助けんだよ!」


 ウールはまた俺の肩を強く叩いた。

 クソ痛え……


 思えば、あれから俺もたった一人でベリィを探していた。

 今一番助けたい相手を助けられるのは、勇者である俺しかいない。

 それが勇者の役目だと思い、ずっと孤独に走り回っていた。


 だが、よく考えてみればウールの言う通りだ。

 ベリィを助けたい気持ちは皆同じ。

 それなのに、俺はたった一人で勝手に走り回って……本当、馬鹿な奴だ。


「そうだな、悪かった。ベリィの居場所は、ルミナの魔力感知で調べる。居場所が分かったら、みんなで行こう」


 勇者というのは、孤独に戦う剣士ではない。

 皆が親しみ易い存在であってこそ、平和の象徴足り得るのだ。


 それを、早くベリィにも教えてやらないとな。

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