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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
135/220

98.ミスト

 いくら払っても、霧は晴れてくれない。

 一度エドガー達に念話を飛ばそうと試みたけれど、何かに妨害されているようで全く通じなかった。

 とは言え、目が慣れてくると多少遠くの景色まで見えるようになる。


 そこで私は、何か羽音のようなものが近づいている事に気付いた。


 見たところ、地面や建物の様子は先程まで居たアルタイルの街と変わらない。

 住民たちにどのような影響が出ているのか分からないけれど、ここまで来たらそんな事は構っていられないか。


「……アポカリプス」


 私は霧を晴らす勢いで、全力のアポカリプスを展開した。

 空から不協和音が鳴り響いた(のち)、私の周りで幾つもの何かが地面に落ちる音がした。


 それはハチとサソリを混ぜたような魔物で、既に息絶えていた。

 そうか、リタの言っていたオーディーの領域系魔法とは、これの事だったのか。

 となれば、この他にも5種類の魔物が霧の中に潜んでいる。


 リタは、これをウルティマ無しで切り抜けたんだ。

 私もそうしてやる。


「キュイッ!」


 ルーナが教えてくれたおかげで、背後からの気配に気付く。

 奴の領域内に同じ魔力が充満しているせいで、魔物の一体一体にまで魔力感知が働いてくれない。


「ハデシス!」


 咄嗟に切り裂いたのは、側面に幾つもの爪を持った触手だった。

 それだけではない。


 先程倒したハチ型の魔物、蜘蛛のような魔物、遠くの方には蟹によく似た鋏を持った大きな魔物と、翼竜型の魔物のシルエットも見える。


 完全に囲まれたな。

 あまり時間はかけたくない。


 あれを使うか。


 新たに会得した固有魔法の一つで、一時的に思考と行動を50倍の速度にまで上げる魔法がある。

 但しこれは脳と肉体への負担が大きく、耐えられる限界が約1分程だ。


 だから、この領域ごと全てを1分以内に倒す。


「アクセル、スタートアップ」


 詠唱直後、直ぐに動き出して目の前の触手を斬り刻む。

 私の目には、まるで全ての魔物たちが止まっているように見えた。


「ロストワールド」


 触手の本体を斬った後、私を中心に集まっていた全ての魔物を魔法で叩き潰した。

 これによって完全に倒せたのは、蜘蛛型とハチ型のみか。

 大型の奴らは、もっと強い魔法で潰す必要がある。


「オーバーコラプス」


 魔法の威力は最大。

 身体が崩壊していく魔物達を横目に、その先で待ち構えていた別の魔物達も次々に斬って行く。


 残り時間は半分。


 そこで漸く、霧の向こうに親玉らしき巨大な魔物のシルエットが見えてきた。

 その周囲は翼竜型の魔物が飛び交っており、強力な魔法を当てれば纏めて倒せそうだ。


 あと15秒、一気に倒す。


「アンチグラビロウル、サイコジェット……」


 超加速に加えて複数の魔法を積み、聖剣魔法の威力を底上げする。


「フルパワー、フィアードハデシス!」


 そうして巨大な魔物達を呑み込むようにして広がった無数の骸は、次々に枝分かれして激しい斬撃を与えて行く。

 と、そこで私の視界を覆っていた霧は晴れ、超加速も強制的に解除された。


「馬鹿な……早過ぎる、リタ・シープハードよりも早くエリアミストを抜け出すとは……!」


 なるほど、リタよりも早かったんだね。


「ありがとう、これで止めだ」


 私は剣を下ろし、次の詠唱ののち指を鳴らす。


「テンプスロウル」


 その瞬間、私以外のものが完全に動きを停止する。


 時間掌握魔法、これも新たに手に入れた魔法だ。

 現状、私以外で使える者を見た事がないけれど、アビスや魔物の女王は使えるのだろうか?

 但し、この停止した時間内では私から他の物へと干渉することが出来ず、あくまで私だけの限定された時間を移動する事しか出来ない。


 私はオーディーの背後へと移動し、再び時を動かした。


「アビシアス」


「グハァッ」


 ロードカリバーでオーディーの心臓を突き刺し、息の根を止める。


 霧の領域を抜けてから、何度かエドガーやポルカ達から念話が届いてくる。

 私があの中にいる時から、ずっと飛ばしてくれていたんだろう。

 こちらから連絡出来なくて申し訳ない。


(ごめん、メフィルからの刺客と遭遇してた。倒したから戻るね)


 皆にそう念話を飛ばし、転移魔法でシリウスへと戻った。


 それから、持ち帰ったネオミメシスの死体を医者とセシルに見てもらったところ、その肉体は普通の人族よりも、どこか魔物に近いような箇所があったと言う。

 本人の複製どころか、ここまで来ると全くの別物じゃないか。

 バーン曰く、自分と同じような魔物合成型魔人、いわゆるアモンズの技術を転用しているのでは無いか、と言う事らしい。

 更にセシルが知恵の眼の能力で肉体の記憶を読み取ると、このネオミメシスが元々いた場所が分かった。


 そこはアストラ共和国内の森の中に佇む古い教会で、私達は直ぐに行こうという事になった。


 その教会にサーナが居るという保証は無いけれど、調べてみるのは無駄なことじゃない。


「テレポート」


 エドガー、ジェラルド、ヴェロニカ、ルーク、バーンのパーティーメンバーで集まり、私達はその教会へと向かった。


 教会の付近まで転移魔法で移動し、そこからは歩いて向かう。

 暫く歩いて行くと教会が見えてきたから、私は直ぐにそこまで走って行った。


「ちょ、待てベリィ!」


 エドガーに呼び止められたけれど、待っている余裕なんて無い。

 サーナは……?

 サーナはどこに……?


 勢いよく開いた扉の向こうには、人が一人立っていた。


「よく来られましたねぇ、ベリィ・アン・バロル」


「メフィル……!」


 私は奴に向けてロードカリバーを構え、全身に魔力を込める。

 ここでは奴以外の魔力を感知できない。

 私達が来ることを分かっていたのか……!


「ここはもう捨てました。そもそも、幾つかある拠点の一つでしかありませんからねぇ。そうだ、ベリィ様にお伝えしておきたい事があったのですよ」


 メフィルはそう言って両手を広げ、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

 直ぐにエドガー達も教会の中へ入ってくると、皆がメフィルに視線を向ける。


「ローグ・ロス・バロルが死に際に放った言葉は、家族の名前でしたよ。レヴィア、そしてベリィ……私への憎しみよりも、大切な家族を優先するのですねぇ。復讐に駆られ、そんな恐ろしい姿で戦う貴女(あなた)と違って。滑稽ですよねぇ!」


 魔力が暴走する……!


「ぐっ……!」


「あなたに私は倒せませんが、せいぜい頑張ってくださいね」


 メフィルがそう言った直後、奴の身体はまるで魂が抜けたかのようにその場へと倒れた。

 そうして横たわった身体の内側で、何か強い魔力が激しく膨らんでいるのが分かる。


 一気に醒めた。

 怒っている場合じゃない!


「みんな逃げて!」


 私がそう言った直後、メフィルの身体は激しい音を立てて爆発した。

 それによって教会は破壊され、もう跡形も残っていない。


 奴は初めからこうするつもりだったんだ。


 幸い大きな怪我をした者はいなかったけれど、これでメフィルの手掛かりになる物がまた無くなってしまった。


 泣きたい……こんなに辛いのに、涙が出ない……。


「ベリィ……」


 エドガーが気を遣って声を掛けてくれたけれど、今は誰とも話したくない。

 兎に角、次の行動に移らなきゃ。


「……戻ろう」


 そう一言だけ皆に伝えて、私達はシリウスに戻った。

 また、全てが振り出しに戻ってしまった。

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