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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
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96.悪夢

 シリウスに帰って来た私が連れて来られたのは、自警団ではなく聖騎士団の訓練場前だった。


 待っていたメンバーは、ジェラルド、ヴェロニカ、ルーク、バーンの四人に加え、ケイシーに付き添われたセシルも居た。


「おかえりなさい、ベリィさん。サーナさんの捜索について、詳細を話し合っていこうかと思います」


 私達はセシル主導の下、今後の行動について話し合った。

 活動自体は臨機応変に行う為、その内容は大まかなものである。


 そこで先ず決まったのは、創星教の手掛かりを探す事だった。

 どうやら手掛かりになりそうな一部の候補は、既にセシルが幾つか見つけてくれたらしい。


「わたくしの傀儡操縦魔法と相性がいいのではと、アビスさんが眷属をくださったのです」


 セシルはそう言って、建物の陰に隠れている何かを呼ぶ。

 そこから現れたのは、二体の可愛らしい人形だった。


「既にわたくしと主従関係を結んでおりますよ。名付けも致しました。キラリ、ユラリ、ご挨拶なさい」


 人形は言葉こそ発さないものの、私達を見て会釈するように頭を下げる。


「彼女達はミニチュアスパイダーという種類の魔物らしく、双子の蜘蛛とのことです。今後はこの子達にも手伝って貰いながら、また調査範囲を広げてみますね」


 大事な眷属をセシルに渡すなんて、アビスはどこまでお人好しなんだ。

 人ではなく魔物だけれど……


 場所が絞られているのであれば、皆でそこを当たってみればいい。


 こうして、私達パーティーの活動が始まった。


 候補にある場所は、かつて創星教が利用していた教会や、殆ど関係の無さそうな場所など、様々な所があった。


 当然ながら、手掛かりになりそうな情報はなかなか手に入らない。


 私以外のメンバーは、関係者や周辺の店などにも聞き込みをしていたけれど、役に立つ情報は無かったらしい。


 私はそれを脱走犯探しと並行して、あまり休みもせずに各地を飛び回っていた。


 エドガーはほとんど私に付き添ってくれていたけれど、流石にずっと付き合わせてしまうのも悪いから、時々私とルーナだけで活動をしている。


 活動開始から三日ほど経った頃、私は皆にある提案をした。


「私のこと、囮に出来ないかな?」


 メフィルへの警告として、私が探し回っていることを派手に知らせれば、もしかしたら刺客を送ってくるかもしれないと、そう思ったのだ。


 危険な作戦だからと言われたけれど、この期に及んで手段を選んではいられない。

 そもそも、私の責任でこうなったのだから。


 それからは脱走犯を捕まえる時も、出来るだけ派手に動くようになった。


 現場にはナイトリオンに乗って向かい、なるべく自分の姿を見せながら戦って行く。

 威圧感を出す為、戦闘中はツノの包帯も外しておいた。


 私の存在に気付けば、メフィルは私を始末する為に動き出すはずだ。

 少なくとも、今の私は奴にとってリタと同等の脅威になっている。

 何か事を起こすならば、不安要素は真っ先に排除しておきたいと考えるだろう。


 そうしているうちに、気付くと脱走犯は全員捕まえていた。

 最後に捕まえたのはシルビアで、その知らせはポルカの念話によって皆に伝えられた。


 これでサーナの捜索に専念できる。


 活動に余裕が出来た為、私はある場所へと向かった。


 アイテール帝国首都、カエルムの郊外だ。


 目立たないよう深くフードを被り、かつて創星教の教会があった場所までやってくる。

 ここで何か騒ぎを起こせば、間違いなくメフィルやディアスの耳に入るだろう。


 メフィルは厳しいけれど、ディアス一人ならば大した脅威にはならない。

 今の私は、確実に奴よりも強いからだ。


 とは言え、騒ぎを起こそうにもその火種が無ければ……


「キャーッ!」


 子供の悲鳴!?

 どうする……一先ず目立たないように助けるか。


 メフィルを誘き出すのは勿論大事だけれど……今は手の届く範囲を助けるのが最優先だ。


 直ぐに悲鳴の聞こえた方へ向かうと、そこには小さな家があり、私は窓から中の様子を覗き込む。

 見ると、母親と娘の親子が武器を持った男達に脅されているようだった。

 母親は娘を庇うように抱き、一人の男がそれに近づいて行く。


「大人しくしろ、抵抗しなけりゃ殺さねえ」


 仮にも首都だと言うのに、郊外は治安が悪いな。

 シリウスよりも大きな町だから、そうなってしまうのだろうか?

 一先ず扉の方に向かった私は、フードを脱いでその戸を開いた。

 私の気配で、親子と男達がこちらに視線を向ける。


「な、なんだ! テメェ!」


 やはりツノの威圧感は便利だな。

 こうして見せるだけで、雑魚は怯えてくれる。


「子供の悲鳴が聞こえたから、大丈夫かなと思って」


「テメェ……まさか、アストラで噂になってる常闇の悪夢か!?」


 常闇の悪夢?

 何だそれは……まさか私の噂が広まって、変な渾名でも付けられたか?


「おい兄貴、なんだよそれ?」

「知らねーのか? 霧の中から黒い馬に乗って現れ、その姿を見た奴は三日三晩恐怖と悪夢に(うな)されるって言われてれる……やべえ、早く逃げねえと……!」


 なにそれ、不名誉過ぎる……

 ちょっと傷付いたけれど、それは置いといて悪い事をした連中を逃すわけにはいかない。


「お前ら、逃げるぞ!」


 そう言って家の裏口から外に出た男達を追い、私はワームホールで連中の行手を拒むように立ち塞がった。


「ひぃっ! な、何なんだよ! 誰か、誰か助けてくれぇ!」


 弱い者は平気で虐めるのに、いざ自分達が追い詰められたら命乞いか。

 本当に、最低な奴はどこまでいっても最低だ。


「グラビロウル」


 強化されたのは闇魔法だけでなく、重力魔法や空間魔法もこれまで以上の力を発揮出来るようになった。

 今の私なら、リタやブライトと同等の力が使える。


「フィクスエリア」


 重力をかけた状態でその空間を固定し、泣き喚く男達を捕える。


「安心しろ、殺しはしない」


 男達に一言そう言ってから、私はエドガーに念話を飛ばした。

 彼は近くで見回りをしており、何かあればこちらに来てもらうことになっている。


 こいつらを引き渡したら、また別の場所に向かおう。

 無駄に騒がれたせいで、この町にこれ以上居るのは危険かもしれない。


「おねえちゃん!」


 不意に、先程助けた少女が私を呼び止める。

 少女に続き母親も家から出てくると、私に向かって深く頭を下げた。


 この二人……見覚えがあるかもと思っていたら、あの奴隷市場の……!


「リサ、メイ……!」


「ご無沙汰しております……! また助けて頂いて、何とお礼すればよろしいか……」


「おねえちゃん、会いたかったよ!」


 メイはこちらに駆け寄ってくると、勢いよく私に抱きついてきた。

 二人とも、無事だったんだ……!


「メイ、久しぶりだね」


 奴隷制度が廃止となったアイテール帝国で、どう暮らしているのかと心配していたけれど、元気そうで良かった。


「あの後、奴隷達は市場から逃げ出しました。私とメイも同じです。その翌日ぐらいだったでしょうか……帝国で奴隷制度が廃止となり、私達は自由の身となりました。とは言えそれによる救済があるわけでもなく、一先ず住む場所を探していたところ、親切な方に拾って頂いて……今は何とか暮らせているのです」


 そうか、そうだったんだ。

 勢いで壊してしまった市場の奴隷達は、みんな自由になれたんだ。


「あの……ベリィさんって、魔王様の……? あの時は詳しく知らなかったので分かりませんでしたが、そのツノがあるという事は、魔王様なんですよね?」


「うん、ベリィ・アン・バロル。魔王ローグの娘だよ」


 今の私はこんな姿で、きっと恐ろしいはずなのに、リサとメイな目を逸らさずに会話をしてくれる。


「やっぱり……! 魔族の方々が大変な思いをされている事は耳にしております。ベリィさん、どうかご無理をなさらず……私とメイは応援しておりますからね」


「がんばれ、おねえちゃん!」


 心がほんのりと温かくなって、思わず涙がこぼれそうになる。

 私があの時やった事は、間違いじゃなかったんだ。


「ありがとう、二人とも……私、頑張るね」


 こんなに応援して貰えたんだから、頑張らないとな。

 リサとメイが安心して暮らせるようにする為にも、メフィルは必ず倒すんだ。


「ベリィ、平気か?」


 エドガーがやって来た。

 彼は私が捕まえた男達と、リサ達を交互に見る。


「その男達がこの親子を襲ってた。拘束お願い」


「ああ、分かった」


 エドガーに拘束して貰ったら、転移魔法で一旦シリウスに帰ろう。

 脱走犯を全員捕まえたとは言え、やる事はまだ沢山あるんだ。


「それじゃ、元気でね」


「ありがとうございました……!」

「またね、おねーちゃん!」


 私はリサとメイに別れを告げ、捕まえた男達を拘束したエドガーと共にシリウスへと帰った。

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