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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
129/220

幕間 大いなる魔法

 ベリィは朝早く起きて、脱走した凶悪犯を探しに行ったらしい。

 あーしとルカは今日も街の見回りをする為、一先ず自警団へとやって来ていた。


「おはようございまーす……って、ディーネさん!?」


 中に入ると、そこには救出作戦以降ずっと宿に籠りきりだったディーネさんと、兄ちゃん、ルークさん、ヴェロニカさんと、そしてセシル様がいた。


「おはようございます、シルビアさん。ウンディーネさんからお話があるそうです」


 ディーネさんはこちらに目を合わせずに、ずっと俯いたままだ。

 サラマンダーさんがあんな事になってしまったんだから、落ち込むのは仕方ない。


 そんな彼女がゆっくりと顔を上げ、こちらに目を向けて口を開く。


「……ルカさんなら、いいか。え、えっと、大事な話、です」


 ルカはあーしの隣できょとんとしている。

 いいかって、何がいいのだろう?


「ま、先ず……言っておきたい、ことがあるの」


 一度ディーネさんは深呼吸をすると、自身の震える手を硬く握ってまた口を開いた。


「今からするのは、本来あたし達四精霊以外に口外してはならない話……だから、そ、その時が来るまで、絶対誰にも言わないで」


 四精霊以外に口外禁止の話って……それをあーしらが聞いてもいいのか?

 あーしや兄ちゃん、それにルークさんも四霊聖剣に選ばれた剣士だけど、精霊達のような所謂オリジンではない。

 この時、あーしは凄まじい重圧のようなものを感じていた。

 何かとんでもない役割を担うのではないかという、漠然としたプレッシャーだ。


「そもそも、あたしはベリィさんとシャーロットさんだから、信用してここまで来たの……だ、だから本当は、その二人にこそ伝えたかった。でも、あなた達聖剣使いは、聖剣に選ばれてる。だから……話すと決めた」


 皆がディーネさんの話に集中する中、遂に彼女はそれをゆっくりと話してくれた。


極大(きょくだい)魔法……大いなる魔法とも言う。いわゆる、あなた達が四霊聖剣の奇跡と呼んでいるものについて。それに必要な聖剣は、四霊聖剣のほかに三本あるの。その三本が、法陣を開く鍵と鍵穴になる。あなた達には、それに必要な聖剣が何なのかを伝えたい」


 ディーネさんはそこで話を止め、一度ヴェロニカさんに目を向けてから少し俯く。


「ま、先ず一本目は……ヴェロニカさんが持つ、乱咲剣レイブロッサム。これは、四霊聖剣に眠る極大魔法の……その法陣を開く為の鍵になる」


「わ、私ですか……!」


 ヴェロニカさんは少し動揺しつつも、どこか浮かない様子のディーネさんを見て心配そうにしている。


「問題は残りの二本……うち一本である始まりの聖剣には、極大魔法の鍵穴としての役割があるの。そうして、それを開く為に必要なのが……刻星剣ホロクラウス」


 刻星剣ホロクラウス……

 団長が死んでから、それはずっと自警団に置いてある。

 資格者が不在の今、あれを扱えるのはサーナぐらいか……


 始まりの聖剣に関しては、今一番それに近いのがシャロってところかな?

 でもシャロの武器は聖剣じゃなくて盾だし……それに、まだ目覚めてないから大丈夫とは言えない。


「あて……あたしから話せるのは、これで全部。近い将来、もしかしたら極大魔法を使う日が来るかも……しれないけれど、その為には聖剣の資格者が必要。資格者は聖剣が決めるものだけれど……でも大丈夫。聖剣は、必要な時に必ず力を貸してくれる。それが、神器というものだから」


 つまり、いずれ団長に代わる新たな刻星剣ホロクラウスの資格者が現れるということか。

 四霊聖剣の奇跡、そういえばベリィと初めて出会った時、あの子は魔王様を殺したのがその力じゃないかと疑っていたな。


 当然ながら誤解だけど、それほど強力な魔法なのだろう。


 話し終えたディーネさんは、俯いていた顔をゆっくりと上げる。

 その目には、僅かに涙が浮かんでいた。


「サラマンダー、彼はあたしが作った分身だけど、それでも心は本物だった……だ、だから、凄く辛いの……でも、あたしは四精霊の聖剣使いだから、この世界を守らなくちゃいけない……四精霊はあたしだけになってしまったけれど、あなた達聖剣使いはこの時代にもいる。あたし、あなた達に協力するよ」


 ディーネさんの決意に満ちた表情に、あーしは胸が熱くなった。

 そうだよな、あーしだっていつまでも嘆いてばかりいないで、これからの為にもっと努力しないとだ。


「ありがとうございます、ウンディーネさん。以前、四霊聖剣の記憶を閲覧した際に一部が閲覧不可だったのは、記憶そのものが隠されていたのですね。このお話は、わたくしも心に留めておきましょう」


「あ、えっと……セシルさん、あたしに話す機会をくれて、ありがとうございました。で、では……」


 ディーネさんはそう言って椅子から立ち上がると、聖騎士団の人に付き添われて部屋を出て行った。


「なあ、シルビア」


 部屋を出ようとした時、不意に兄ちゃんから呼び止められた。


「兄ちゃん?」


「黙って居なくなって悪かったな。事情が事情だから、味方にも話せなくてさ。謝るのも遅くなっちまったし……心配かけてすまなかった」


 兄ちゃんはそう言って、あーしに頭を下げてきた。

 あれはみんなを守る為にやったことだから、あーしが責める理由なんて無いのに。

 でも……


「寂しかったんだから、今度色々遊びに行こうね! ボフリもメフィルもぶっ倒してさ。絶対だよ!」


 あーしの言葉に、兄ちゃんはハハハと笑った。

 いつもの笑顔だ。


「ああ、そうだな。今度こそぶっ倒そうぜ!」


 あーしと兄ちゃんの故郷、アンセル村を襲った盗賊ボフリ。

 奴と再び会って殺してやりたいほど憎かったけれど、大事なのは仇を討つことじゃない。

 これ以上、奴に苦しめられる被害者を出さない為にも、次こそ絶対に倒してみせる。

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